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小人の大冒険

いろんな場所で咲きたいタンポポの種

作者: 恵京玖

 そこはコンクリートの森でした。人が入る大きなビルがたくさんあり、人々を照らす街灯や合図をする信号機、電線が走る電信柱がいくつも植わっていました。

 そこを歩く人々の地面はアスファルトと言って、とっても硬いです。でもすみっこがひび割れて、そこから草花たちが芽を出していました。


 そんなアスファルトの道のひび割れにタンポポが咲いていました。そんなタンポポに小人がやってきました。

「こんにちは、小人さん。実はお願いがあるの」

「何でしょう?」

「これから私の花は綿毛になって風が吹いたら種が付いた綿毛が飛んでいくんだけど、ここは柔らかい地面が無いでしょう。だから小人さんが綿毛を自然豊かな場所に連れて行ってほしいの」

 タンポポのお願いに小人は「分かりました」と言いました。



 そうしてタンポポが綿毛になりました。風が吹かない前に、小人はすべて綿毛を取りました。

「それじゃ、みんな柔らかい地面がある場所へ行こう!」

 そう言うとビルの合間を縫って強い風が吹いてきました。するとたくさんの綿毛を掴んでいた小人はフワッと飛んでいきました。


 飛んでいく小人は言います。

「何処に咲きたい?」

「公園の花壇」

「綺麗な草原」

「田んぼの土手」

「どこかのお家の庭」

「川が見えるところ」

 様々な声が聞こえてきました。

 小人はフワフワと空を飛びながら聞きました。そうしているとコンクリートの森は開けて、どんどんと木々がたくさんある場所が見えてきました。

 さあ、小人とタンポポの種の冒険の旅が始まります。


 小さな子供たちの歓声が聞こえてくる広い公園に着きました。池の周りには、美しい花壇もあり、タンポポ達が「ここがいい」と言ったので小人は降りました。

 花壇の花々たちは綿毛の種を持った小人を見ると「あら、小人さん」とちょっと嫌そうな顔になった。

「ここにタンポポの種を植えてもいいですか?」

 小人がそう言うと花壇の花達は「うーん」と悩みます。

「そうね、もう少し奥の方に行っても欲しいかも」

「奥の方?」

「そう、奥の方がいいかも」

 そう言って花々たちは小人に奥の方に行かせます。綺麗な花々の葉や枝をかき分けて小人は突き進んでいくと、ガクッと落ちそうになりました。足元が水辺で綺麗な色のお魚が小人たちを見上げていました。花壇の中心に池のようです。

「餌だと思っていたのに」

 残念そうにパチャッと鯉たちはパチャッと池の底へと泳いでいきました。

 小人がびっくりしているとクスクスと花々が笑います。

「あらあら、落ちなかったみたい」

「残念」

 小人と綿毛は嫌な気持ちになりましたが何にも言わず、すぐに花壇から離れました。


 公園の花壇からほんの少し離れると、入り口付近に可愛らしい草花がありました。

「あ、タンポポの綿毛さん。もし良かったらここに咲きませんか?」

「ここら辺は子供が踏むことも無いから、結構いい所ですよ」

 草花がそう言うといくつかの種が「ここで咲く!」と言いました。そこで小人は「分かった」と言って種を植えました。

「初めまして」

「新しいお友達だね」

 嬉しそうに草花が言って歓迎してくれました。


 再び風に吹かれて綿毛と小人は飛んでいきます。

「次は川の土手に行こう」

 小人がそう言い、川を目指します。そうして大きな川と土手がある場所につきました。早速、種を埋める場所を探そうとしました。

 バサバサ!

「うわ! スズメ!」

 たくさんの茶色のスズメたちが小人たちを取り囲みます。スズメたちは種が大好きです。

「ダメだよ! これは餌じゃ無いから!」

 小人がそう言って「ギャアギャア」と威嚇しますが、スズメたちは全くビビりません。

「もう! これを食らえ!」

 そう言って小人は小石をパラパラと巻きました。するとようやく、スズメたちは投げた小石の方に向かっていきます。餌と思ったのでしょう。


「スズメが多いから種をちゃんと埋めておかないといけないね」

 そう言って、様々な雑草が咲いている土手に行きます。

「草原みたいで綺麗だね」

「ここに咲きたいな」

 たくさんの種がそう言い、小人は丁寧に種を埋めました。



 残っている綿毛はかなり少なくなったので、小人はそのまま綿毛を持って歩いていました。

「次はどこかのお家のお庭だっけ?」

「うん」

 綿毛たちの返事を聞いた小人は住宅街に入ります。

「あ、僕、あの青の屋根のお家が良いな」

「私は赤いお家」

 綿毛たちの注文に小人はせっせと種を埋めていきます。

 そうして種が一つになった時、「にゃあ」と言う鳴き声が聞こえてきました。

 小人がパッと振り向くと目の前に猫が居ました。まずい! と小人は冷汗が出ました。あまりにも小さいので、猫のパンチ一つで小人は大けがをしてしまいます。

 じっと立ちつくしていると猫は小人を咥えて走り出しました。

「え! ちょっと、離して!」

 小人はもがきますが猫は全く動じません。

 やがて猫はあるお家のお庭に入って行きました。お家の窓では女の子がいて、お絵描きをしています。

 パッと小人を離すと猫は家の中に入って行きます。

「あ、タマ! どこに行っていたの?」

 どうやら猫はこの家で飼われていたようです。窓の外から小人と綿毛は女の子と猫を見ています。

「みて、タマ。タンポポの絵を描いたんだよ」

「にゃあ」

「私の好きな花だよ」

 そう言って女の子は黄色い花の絵を猫に見せました。

「どうやら、飼い主の女の子が好きな花だから連れてきたのかな?」

 小人がそう言うと最後に残った種は「私、ここで咲きたい」と言いました。

「ちょっと驚いたけど、私のことが好きな人のお家の庭で咲きたいな」

「そうだね。ここに埋めてあげる」

 そう言って小人は種を庭に埋めてあげました。女の子は気が付いていないようですが、猫はジィーっとその様子を見ていました。






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― 新着の感想 ―
私たちは気がついていないだけで、種は遠いところから旅をしてきているのでしょうね。春に蒲公英の黄色い花を見られるのが待ち遠しいです!
2025/01/22 20:40 退会済み
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