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覚悟
「入るよ」
その声はどこか艶を帯びておりました。
六角の間に入ってきた男性は、清潔感のある紳士な方で御座いました。
「お風呂に入っておいで」
男性は優しく声をかけながら、私の肩に手を添えながら風呂場へ促しました。
「申し訳御座いません。どなた様で御座いますか?」
このとき既に、ある程度は察しがついていたので御座います。怖さからというよりは、自分自身の覚悟のためにお声がけしたので御座います。
その後のことはあまり覚えておりません。
ただ、優しい男性が荒々しく男性を見せたことと、男性が覆い被さるその外で、陽射しを浴びた池之端の桜が美しく映えているのが鮮明によく見えたのを覚えております。
ああ、私は男性に給仕しながら生きていく運命を歩み始めたのだなあと、桜を見ながら滴る汗を受け取ったので御座います。
桜は、輝いておりました。