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池之端の桜  作者: 中岡千町
第1章「覚悟」
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田原町のご主人

「なら、行っといで。自分のために生きてご覧なさい。」


奥様は優しくそう言ってくださいました。


田原町のご主人は、私の遠い血縁で、池之端の岩崎家とも血が交わっておりました。


記憶が無い中、私が子供の頃にこの家に来ました。ご主人と奥様は本当の娘のようにたいそう可愛がってくださいました。この御恩は、どうしても返しきれないくらいに大切にしていただきました。


岩崎家の末裔の一端は、財力にかまけて遊び呆けていたとも聴きました。その遊びは、文章には残せないほどのものだったとも聴いております。


家はいつも酒臭く、いつも遊女がだらしない格好で父親にもたれかかっていたようです。母親は、その遊女が不憫しないように給仕していたと聴きました。


ご主人は、その光景が嫌で嫌でたまらなくなって家を飛び出し、今の献残屋を営んだのでございます。


「行っといで。自由に生きるがいいよ。」


ご主人も心底の笑顔でそう言ってくださいました。


いつも来てくださるお客様の元へ行く決意をした瞬間で御座いました。


その方は、自身が財閥の末裔だと仰っておりました。もしかしたら遠い血縁にあるかも知れないとも思いました。


恋焦がれてはいましたが、自分自身の祖先を、もしや辿れるかもしれないと。そう思ったのも事実で御座います。


恋心と冷静さと。

私は池之端に住まう決意をしましたが、ここでは、裏側で大人達が良からぬ何かを巡らせていたとは知らなかったので御座います。


齢19。


ですがさらには、当時はこの決意に後悔は御座いませんでした。初めて自分自身が意志を持って決断した道なのだから。


そこからしばらくして、私は良からぬ波に乗ったしまったと気付くのは、そこから更に後年のことで御座います。

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