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池之端の桜  作者: 中岡千町
第1章「覚悟」
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プロローグ③

両手を上に思いっきり伸ばしながら、声も我慢しないで思いっきり「ふわあ」と欠伸をした。路上の鳩がくるっくうと鳴きながら一斉にバタバタと羽ためいて、でも飛びた立たず、路上の残飯を一所懸命につつき続けていた。


歌舞伎町の空がもう白けてきた頃、左手首のピンクゴールドのデイトジャストは7:00。


最近指名してくれる女の子は、いつも週末に来る。それも、自分は一切合切飲まないで、1時間だけ話したら帰っていく。

とても大人っぽい遊び方だよなと思う。


20歳過ぎの大学生と本人は言っているけれども、未成年にしか見えないんだよなあ、他の場所でも見かけた気がするし。


どこで金を作ってるのだろう、そんなことを朧気に思いながら、曇り空に向けてもう一度思いっきり両腕を伸ばしながら欠伸をした。

びりっ、と音が聞こえた。タイミング的におそらくスーツの脇が解れたのだろう。


もう空が白けてきた頃合いで、まだ鳩は可愛いものだけれども、カラスがとにかくカアカアとうるさい。まあ慣れたものだけれどもとにかくうるさい。

いつもの松屋でカレー牛でも食って、いつもの時間の総武線に乗って、東中野のマンションまで帰ることにする。


食券を買う時、おそらく数回どこかで見かけたことのある同業の女の子が、帰り際にニヤニヤしながら「脇、脇」と肩をつついてきた。ああ、そうか、脇が破れたのだったか。すれ違いざま、お互いに酒臭いのは同業の証だろう。


カレー牛は美味い。修飾が不毛な純粋な美味さだ。


昨日も高級なシャンパンをたらふく飲んだけれども、味わう感覚は一度も感じたことはない。


以前、どこかの酒屋でガラスのショーケースに

「ツァリーヌバイアドリアナ」が入っているのを見かけたことがある。確か22,000円くらいだったか。


原価はさらに安価だろう、それを歌舞伎町では20万円で売っている。付加価値的なものはあるのだろうけれども、よく注文できるよな、と、メタで考えてしまった。


ガツガツとワシワシとカレー牛を今日も平らげた。やっぱりナンバーワンだ。


そういえば今月はランキング4位だとオーナーが褒めてくれた。そして「もっと本気になったらナンバーワン取れるよ」と言ってもらって、嬉しくはあるのだけれども、あまりそういうもののには興味がない。


そもそも、この仕事は、生きるためにやっていること。


東中野駅の東口はいつも静かで好きだ。ちょうど帰る頃の総武線は、産卵期の鮭のように、出勤ラッシュの真逆を行く。


いつまで続けようか。


途中のコンビニで買ったウィダーインゼリーのミネラルをすすりながら、コツコツと大袈裟な踵がリズミカルに鳴った。

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