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池之端の桜  作者: 中岡千町
第2章「運命」
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池之端の応接間

「入るよ」


あれ、いつもと違う。


声はもちろん、人が違うのでいつも違うのだけれども、そうではなくて、聞き慣れていた声に似ていたから、あれ、いつもと違う、と感じたので御座いました。


「入るよ」


もう一度、何度も聞いた声を、耳をすませて聴きました。


「元気かい」


あの方は、記憶と寸分の変わりもない、優しく微笑んでドアを閉めました。


この時の私の心持ちを正直申し上げますと、ああ、やっとあの方と一緒になれると期待していたので御座います。


「ああ、元気そうで良かった」

私がほっとしたのを感じたのだと思います、細かいことも察することが出来る方ですから。


義務ではなく、交わる前に本能で男性を感じたのは久しぶりで御座いました。あの方は、ベッドに腰掛けて仰いました。


「たまには外に出ないか」


私が求める期待では御座いませんでしたが、この六角の間に住まわせていただいてから、外に出たことは御座いませんでした。


暖かい外套をあてがってくれて、初めて六角の間のドアの外に出たので御座います。


床の赤いベロアがずっと続く暗い廊下を、あの方の長い脚の歩幅に追いつけるように、時には小走りに脚を運んでおりました。


ただ、廊下を抜けた後。

その光景は鮮明に覚えております。


応接間は眩い陽が入っていて、調度品は、私のような素人でも感動するような素晴らしいもので御座いました。


脚に丁寧な細工を施した、大きくて長いテーブルと椅子。レースを施した透明に近い真っ白なクロスが縫い目なくかかっておりました。ひとつのテーブルで20人ほど座れる大きさで御座います。

中央には幾つかの金の燭台が均等に並んでおりました。


窓掛けは床に敷いてあるベロアよりも輝いておりました。そしてその上を見上げると、白い壁の節は、彫刻が施されておりました。白い柱も彫刻が施されておりました。


私は思わず足を止めました。


「贅を尽くしている」


あの方は無表情で一言仰いました。


「もっと良いものを見せたい」


私はあらためてあの方の歩幅に一所懸命に合わせたので御座います。

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