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池之端の桜  作者: 中岡千町
第1章「覚悟」
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プロローグ①

また今年も夏休みが終わった。

昨年は、特段何もない夏休みを普段と変わらずに過ごしたけれども、今年の夏休みはさらに本当にあっという間だった。


夏服の薄手のスカートが、湿気を帯びた南風にふわふわしながらも太ももにまとわりついて、余計に気持ちが悪い。


最近は男女関係なくパンツスタイルもOKな学校があるらしい。私服だと行き過ぎな感じがするけれども、ルールがある選択肢であれば、遠慮がないし主体的に考えなくてもいいし、居心地が良いよなと思う。


私の通っている公立高校は進学校だけれども、私は進学するのを辞めた。


少し腰が痛い。それでもお金はある。


進学校の環境なので、同級生たちは、大学の話や将来の選択肢にワクワクしたり、勉強法のノウハウを情報交換したりして盛り上がっている。ただ、それはもれなく私以外の同級生達なのだけれども。


1限目の授業のチャイムが鳴った。久しぶりのチャイムの音に教室内は不思議な緊張感が漂った。


1限目は確か英語のリスニングの授業だったか。オーストラリア人の非常勤講師が教室に入ってきた。ロングのブロンドヘアで、色白でグラマラスな清潔感のあるふくよかな美人。黒髪のショートヘアで細身で身長も低く眼鏡をかけた私とは正反対だ。こういう人もいるんだと毎授業気にはなっているのに、半年も経って名前すら覚えられていない。


始業の挨拶は「Good morning every one!」と決まっている。ひと際盛大な「オウム返し」で授業が始まった。


ああ、やっと落ち着ける。

そう。私にはお金はある。


役目通り使うことのないシャープペンシルを、右手で器用にエンドレスで回し始めた。


私の帰る「家」は「箱」としてあるけれども、血の繋がっていない同じ境遇の仲間と身を寄せ合うただの「箱」だ。


ごく稀な気の利いた大人たちが、私たちを哀れんで手を差し伸べてくれるのは感謝でしかないけれども、所詮血は繋がっていない。


そうか、あいつの名前は「クロエ」だったか。

右手でペンを回しながら、意外と腰周りがしっかりとした金髪の後ろ姿を眺めながら、なんの感情も無しに思い出した。


お金があるからいっか。


今日も前期と同じ、早く終われと願ってペンを余計に回した。

また今年も変わらず後期の授業が始まった。

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