18.真実(2)
失った記憶すべてを取り戻した私が目を覚ましたのは、公爵邸のベッドの上だった。
薄っすらと目を開けると、傍にいたハンナの驚いた顔が一番に飛び込んで来た。
「お嬢様……!?」
「ハン、ナ……私――っ!?」
「よかった! 目が覚めたんですね……!」
状況確認よりも先に、ハンナが私に飛び込んでくる。その目からは涙が溢れてぐちゃぐちゃだ。
「三日も目を覚まさなくて……本当に本当に心配したんですから……」
「そんなに長く……?」
魔女の森で気を失った私は、その後やって来た騎士団たちに救われ、公爵邸へと戻って来たらしい。そして、致命的な外傷もないのに眠り続けていたのだとか。
心配してくれたのはありがたいけれど、起きたばかりの人間に勢いよく飛び込んでくるなんて、ハンナらしい。
しかしながら、先日も王都で倒れ、レイモンド殿下の世話になったばかりなのだ。あの時も半分泣いていたハンナにまた心配をかけてしまい、余計に申し訳なくなった。
「ごめんね、ハンナ」
「いえ……ですが本当によかったです、お嬢様だけでも助かって」
悲し気に目を伏せたハンナに、はっと森でのことを思い出す。
「ねえ、シャーロットはどうなったの?」
フレデリックのことも気になったけれど、まずは彼女が優先だ。
おそるおそる尋ねた私に、ハンナがまた泣きそうな顔になった。
「その……残念ですがシャーロット様は、騎士団の皆様が到着された時には既に手遅れだったそうで……」
「なんですって?」
「申し訳ございません……! 私も、詳しいことは何もわからず……」
「っ、ごめんなさい。責めたわけじゃないの、ありがとう教えてくれて」
元よりカーミラは、シャーロットは自殺をはかったと言っていた。ならば死んでもおかしくないということだろうか。
――だけど、私みたいに生き返ったなんてことも……。
微かな希望を巡らせていると、部屋の扉の傍から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「彼女なら生きているよ。昨日、目を覚ましたらしい」
「フレデリック……?」
「この三日間、ずっと見舞いに来てくださっていたんですよ」
フレデリックの登場に言葉を失った私に、ハンナがそっと耳打ちをする。彼女は彼に会釈をすると、部屋を出て行ってしまった。
何から話せばいいのだろう。十年前の事故のこと、十八歳の誕生日のこと。今はすべて覚えていて、そのことを彼に伝えたい。
――いつだって、貴方には話したいことが多すぎて困る。
まだ彼への想いだって、すべて伝えきれていないのに。
フレデリックは傍までやって来て、椅子に腰を下ろすと、じっと私を見つめた。
「体調は?」
「ええ、問題ないわ。寝ていたからか、少し頭が痛いくらいで」
「そう……」
沈黙が落ちる。フレデリックは何か覚悟を決めたように口を開いた。
「……ずっと、謝りたかったんだ。アイリスに。俺の命を救うために犠牲になったことを。そして、そのことにずっと気づかなかったことも」
「やっぱり、フレデリックはすべてに気づいていたの? 魔女のことも――」
言いかけてはっとする。
――口に出せる? 今ならちゃんと、話せるの……?
喉にそっと触れ、もう一度言い直す。
「私がずっと、魔女に憑依されてたこと……」
口に出した瞬間、ずっと胸の奥でつっかえていたものが消えて行く気がした。
たった一言、本当のことが言いたかった。今までの私は、私じゃないんだって。
フレデリックはしっかりと、頷き心の内を明かしてくれた。




