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17.魔女の森(1)

 私は逸る気持ちをおさえ、フレデリックが仕事から帰宅するであろう時間まで待ち……夕刻、彼の屋敷へと向かった。

 しかし屋敷の前に見えたのは、フレデリックではなく、シャーロットの姿だった。

 彼女に会うのは、舞踏会以来で気まずさがある。フレデリックの話によれば、二人はそういう関係のようだから。ここにシャーロットがいるということで、その話に信ぴょう性が増した。


 ――シャーロットには申し訳ないけれど、どうしてもフレデリックと一度話がしたい。


 それに彼女とも、一度話をしておきたかった。フレデリックとの関係性について、彼女本人の口から聞きたかったから。

 そう思い一歩シャーロットへと近づく。彼女は私が来ることを予想していたかのように、にこりと笑った。

 いつも上品で可憐なシャーロットは、今日はどこか華やかで、唇には真っ赤な紅が載っている。そんな彼女が少し怖いとも思ってしまった。


「偶然ですね、アイリス様。フレデリック様に会いにいらしたのですか?」

「ええ……貴方は?」

「はい、私もフレデリック様に会いに来ました。そろそろお帰りになる頃かなと思いまして」

「そう……」


 何から切り出せばいいのだろうか。

 迷いに迷い口に出せずにいると、シャーロットが先に口を開いた。


「ですが、先にアイリス様に会えてよかった」

「え……?」

「ずっとお話したかったのです。フレデリック様とのことについて。今から少しお時間ございますか? そう時間は取らせませんから」


 シャーロットがまたにこりと笑みを深める。

 どこか勝ち誇ったような微笑みに、聞きたいような聞きたくないような、複雑な気持ちが込み上げてきた。

 だけどやはり、シャーロットの口から真実を聞く必要がある。私は覚悟を決めると、しっかりと頷いてみせた。


「いいわ。私も貴方と話がしたかったの」

「よかった。ここで立ち話もなんですから、よろしければ私の馬車でお話しませんか?」

「ええ……」


 シャーロットが傍に停めていた馬車に私を誘う。

 私は心を落ち着かせると、彼女の馬車へと乗り込んだ。



 シャーロットから少し場所を変えようと言われ、馬車が走り出す。

 確かにフレデリックの屋敷の前に長く居座るのも迷惑だろうし、話の途中で彼が帰ってきても気まずかっただろうから、そのほうがいいだろう。

 私は乗り慣れない馬車の揺れに居心地の悪さを感じながらも、本題へとうつった。


「それでフレデリックのことだけれど……貴方たちはそういう関係、なの……?」

「そういう、とは?」

「だからその……男女の関係なのかっていうことなのだけれど」


 なんとなく口にはしたくなくて。でもはっきりと尋ねると、シャーロットはふふ、と笑う。


「ああ、ごめんなさい。アイリス様に何も話さず抜け駆けのようなことをしてしまって。でも、人の気持ちはどうにもならないものでしょう?」

「え……」

「アイリス様がレイモンド殿下からフレデリック様に心変わりされたように、私も心変わりした。たったそれだけのことですわ」


 そう言われてしまえば、言い返す言葉はない。元よりシャーロットはフレデリックの優しい人柄に惹かれているようだったし、一緒にいて彼を好きになる理由は十分にあった。

 フレデリックが彼女を好きになるとは想定外だったけれど、シャーロットの美貌を前にすれば皆同じであるということだろう。


「そもそもアイリス様もレイモンド殿下とよろしくやっていたではありませんか」

「そういうわけじゃ……」

「それとも、単純に殿下がアイリス様をお慕いしている……ということでしょうか?」


 確かにレイモンド殿下には、私に「興味がある」と言ったし「好きになってやる」とも言われた。だけどそれが慕われているという意味とは限らない。

 しかしながら、レイモンド殿下を好いていたシャーロットにとっては、どちらも面白くないだろう。

 どう説明するべきか迷っていると、シャーロットがまた小さく笑みをこぼす。


「やはりそうなのですね。あのレイモンド殿下を落とすだなんて、さすがアイリス様です」


 想い人が自分とは別の人を想っているかもしれない……普通は悲しいはずなのに、シャーロットは何だか嬉しそうにも見える。

 少なくとも、彼女の表情に悔しさや悲しさは一切滲んでいなかった。

 今はフレデリックがいるからだとしても、あまりの切り替えに違和感さえ覚える。


「あの……シャーロットは、レイモンド殿下のことをお慕いしていたのよね……? だから仲良くなりたいと言って、私に……」

「お慕い、とはまた違いますね。私はただ彼に近づきたかっただけ。彼の特別な存在になれれば何でもよかったのです」


 レイモンド殿下は魅力的な男性であり、このエルドリア王国の第一王子である。そんな彼の婚約者――つまりは妻になることが、本当の目的だったとシャーロットが話す。

 彼女はあまり野心のありそうな人間ではなかったから、正直意外ではあった。それに……。


「どうしてそんなに嬉しそうなの……?」


 シャーロットの美しい笑みは、今日はどこか不気味で……その歪さに、なぜかふる、と身体が震えた。


「だって、後は奪うだけですもの」

「奪う……?」

「今、レイモンド殿下の心はアイリス様にある。そうでしょう?」

「それは――!」

「もう否定はしないでください。お二人のことは、よく見ておりましたから」

「…………百歩譲ってそうだとしても、奪うっていうのはどういう意味?」

「察しの悪い方。簡単ですわ。アイリス様から奪うんです――そのお身体を」

「え……きゃあっ!?」


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