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13.逢瀬(2)

「俺も急に考えが変わったんだ。お前と一緒だ」

「どういうふうにでしょう……?」

「確かに俺はお前が嫌いだった。顔も見たくないし関わりたくもなかった」


 カーミラに対してのことだとわかりつつも、はっきりと告げられるとさすがに傷つく。

 複雑な気持ちで悪口を聞いていると、彼は「だが」と続ける。


「今はなぜだか興味がある」

「え……それは……」


 ――すごく、困るわ……!


 予想外のことを言われて、げんなりとする。

 きっとレイモンド殿下のことだから、私のことを面白がっているのだろう。


 ――嫌われるよりはマシだけど、あまり接触するのも避けたい。フレデリックのこともあるから。でも……。


「……ありがとうございます、殿下」


 理由はどうあれ、こうして私のために時間を作ってくれたことには感謝すべきだ。

 心からのお礼を伝えると彼は、口角を緩め……今まで見たことのない、柔らかな微笑みを見せてくれた。



 アイリスと別れ、王城へと戻って来る。執務室へ入ると、計ったようにフレデリックが姿を現した。


「どうかしたのか?」

「魔獣の件について調査の結果を報告に」

「仕事が早いな」

「恐れ入ります」


 アイリスが魔獣に襲われた後、騎士団に魔獣の調査を命じた。

 その際、なぜかフレデリックが我先にと名乗り出たのだが、こうもやる気があると何か目的があるのではないかと勘くぐってしまう。

 おそらくはアイリスが関係しているからだろう。フレデリックは昔から、あの女のこととなると人が変わる人間だったから。


「続けろ」

「はい。魔女の森近辺を捜索、調査しておりますが、不審な動きは見られません。近隣の住民に調査もしましたがやはり目撃情報はなく、魔獣の存在が確かだとしても、おそらく魔女の森から出られない可能性が高いと思われます――」


 仕事の時のフレデリックは他人行儀になる。それが自然な振る舞いであるし、これまで気にしたことなどはなかったが、今日はやけに癪に障った。

 それが先ほどまで、悩んでいるアイリスを見ていたからというのは、考えずともわかった。

 報告をし終えたフレデリックを見て、上司の仮面を取って話しかける。


「フレッド、俺が今日何をしていたのか、誰かに聞いたか」

「いえ……」

「アイリスと会っていた」


 特に牽制するつもりなどなかったが、平然としているフレデリックに苛立ち、つい彼女の名前を口にする。

 フレデリックも予想外の答えだったのか、言葉を詰まらせ、瞳が動揺で揺れた。


「……理由を知りたいか?」

「私的なことなら、俺は関係ないよ」


 ――関係ない、か。どいつもこいつも分かりやすいな。


 それが見てとれて、さらに苛立つ。本人はそれで隠せていると思ってるのだから。


「ただ……彼女のことを弄ぶのだけはやめてほしい。適当な気持ちなら――」

「適当じゃない、と言ったら?」

「何……?」

「怖い顔をするな。そもそもお前が心配することでもないだろう。もうあいつはお前の何でもないのだから」


 二人の婚約は、アイリスが一度死んだ時に解消されている。

 その後、復活させようと思えばできたはずのことを、そうしなかったのはフレデリック自身だ。どういうわけか、アイリスはフレデリックとの婚約を望んでいたというのに。


「フレッド、お前は何がしたいんだ? あんなにあいつのことを追いかけていたのに、振り向いた途端突き放すような真似をするなど」


 フレデリックのアイリスに対する想いはずっと近くで見てきた。その状況で彼女から言い寄られているのはなんとも気まずかったし、どうしてそこまでフレデリックがあんなわがままな悪女に執着するのかもわからなかったが。

 何も答えないフレデリックに、さらに踏み込んだ質問をする。


「お前の様子がおかしくなったのは、アイリスが生き返ってから、だよな」

「それは……」


 アイリスが生き返り、俺に会いに来た日。フレデリックもまた、私的な用事で俺に会いに来ていた。

 そして俺に告げた。アイリスとの婚約は完全に破棄となり、もう二度と婚約することはないということ。そして、アイリスのことはもう何とも思っていないのだと、まるで自分の決意を俺に示すかのように。

 その理由が、ただ知りたかった。


「何か理由があるなら――」

「理由はないよ。ただ、アイリスには幸せになってほしいんだ。もう二度と、あんなことは起きてほしくないから」

「だからあれはお前のせいじゃ――」

「俺のせいだよ、全部。元を辿れば、十年前にそのきっかけを作ったのも俺なんだから」

「十年前? 何の話をしてるんだ?」

「……レイには関係ないことだよ。とにかく、アイリスのことは適当にしないでほしい。本当はすごく繊細な子なんだ」


 ――繊細、か。悪女と言われる女にはまるで似合わない言葉だな。


 おそらくフレデリックは何かを抱えているのだろうが、俺に話す気は毛頭ないらしい。

 昔からそうだ。どこか冷めていて、読めないところがある。だが――


「安心しろ。お前に言われずとも、適当にするつもりもない。俺はあいつがどんな女なのか知りたいんだ。もし欲しいと思えば手に入れる。ただそれだけだ」

「っ……」

「お前もあいつのことを思うなら、中途半端な態度を取るな。傷つけるだけだ」


 フレデリックの表情が、曇る。

 その理由を知る由もなかった。


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