7.元恋敵(3)
「あの、ひとつだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何?」
「レイモンド殿下のことはもう好きじゃない、というのは……フレデリック様も関係しておりますか?」
「えっ?」
「っ申し訳ございません、お二人は婚約者だと伺っておりましたので……」
シャーロットの様子からして、私たちの婚約が解消されたことは、まだ公になっていないのだろう。ハンナ曰く「死んだはずのアイリス・ハミルトンが生き返った」という知らせのほうが衝撃的すぎて、社交界はその話で持ちきりなんだとか。
「まあ、中らずと雖も遠からず……ってところね。フレデリックとの婚約は解消されたのだけど」
「さようでございますか……? どうして……あっ個人的な事情でしたら……」
「いいの、隠すことでもないしそのうち広まるだろうから。私が一度死んだ時に解消されたみたいでね」
あくまで軽い雰囲気で説明をすると、シャーロットはそっと目を伏せ、ぼそりとこぼした。
「……アイリス様って、本当は気さくで優しい方なんですね。フレデリック様が長らくお慕いしているのも、わかる気がします」
「え……フレデリックと知り合いなの?」
「はい……以前、馬車の車輪が溝にハマった際に通りがかったフレデリック様が助けてくださったんです。雨風がひどい日だったのに、濡れることも躊躇わず手を貸してくださって……」
シャーロットとフレデリックの意外な接点に目を丸くする。
それに、フレデリックの優しさにもだ。助けるにしても、御者にお願いするとか方法はいくらでもあるのに、自らずぶ濡れになるだなんて。
フレデリックは優しいけれど、誰とでも気さくに関わる人ではないから、少し意外だった。
――もしかしたら私もフレデリックのすべては知らないのかもね。
付き合いは長いとはいえ、カーミラに憑依されてからは彼との接点も減った。
フレデリックの優しさに心温まりつつも、どこか寂しさも感じる。
「それでアイリス様は今、フレデリック様のことをお慕いしていらっしゃるのですか?」
「……ええ、そうね。今は、彼のことを想っているわ」
たとえ今、彼の矢印が私に向けられていないとしても。
ほんの少しだけ切なくなって、瞼を伏せる。シャーロットは何かを思いついたように、前のめりになった。
「私、名案を思いつきましたわ!」
「名案って……?」
「四人で一緒にお出かけをするのはいかがでしょう?」
「四人ってまさか、私たちと……」
「フレデリック様とレイモンド殿下です」
「そ、その組み合わせはちょっと……」
フレデリックと会えるのは嬉しいけれど、またレイモンド殿下に対してあらぬ誤解を招くかもしれない。せっかくレイモンド殿下とは距離を置くようにしているのに。
「実は私、レイモンド殿下との距離を縮めたいと思っているんです。残念ながら、お見合いでは上手く行かなかったので……」
「そう、なの?」
予想はしていたけれど、シャーロットの口から聞いてやっと納得がいく。
「はい、ですからアイリス様が仲を取り持ってくだされば、と思いまして。アイリス様は殿下のことをよく知っていらっしゃいますよね」
にこりと悪気ない笑顔を向けられる。
よく知っているといっても、カーミラが一方的に接触していただけなので、彼の趣味や嗜好などもまったくわからない。それどころか、私は彼に嫌われているから、大した協力もできそうにない。
「ええと、さすがにそれは――」
「お願いします。一人では、どうにも誘いづらくて……」
潤んだ目で懇願されると、決して駄目とは言えなくなる。これまでカーミラが彼女に酷いことばかりしてきたからか、罪滅ぼしとしても願いを叶えてあげたいとも思った。
――しかもこれってチャンスに変えられるのでは……?
レイモンド殿下とシャーロットの仲を取り持つような姿勢をフレデリックに見せられれば、この気持ちは本物だと信じてもらえる。フレデリックとの仲も、これを機に縮められるはずだ。
「……わかったわ。一緒に行きましょうか」
「ありがとうございます! 計画は私にお任せください」
シャーロットはそう言って、嬉しそうな笑みを浮かべた。




