風変わりな少女 ③
屋上。
心地よい風が吹く素晴らしき場所。
と言いたいところだが、ここは東京。
そのようなものなど望めるべくもない。
それどころか、数年前に生徒の飛び降り未遂事件があってからは立ち入り禁止となり、鍵が掛けられていたはず。
だが、修代はノブに巻き付けられていたチェーンをはずすと事もなげにドアを開ける。
「……魔法?」
玲子は呟くと、修代は微笑む。
「そのとおり」
「と言いたいところだけど、もちろん違う。ここは先生たちの隠れた喫煙場所。それをちょっと利用するだけ」
「な、なるほど」
玲子は修代の隠れた一面を見た気がした。
いわゆる成績優秀で委員長タイプの修代は、誰に対しても正論を武器に正義を振りかざす。
何が理由か今でもわからぬ自分と違い、玲子がいじめを受けていたのは、その正義感によって同級生の小さな不正も見逃さず常に咎めていたことが理由であったことは明白。
当然校内禁煙という規則を破る教師たちがいれば職員室に乗り込み糾弾する。
それが玲子の考える修代。
だが、実際の修代は……。
複雑な表情をする玲子を一瞬だけ目をやったものの、すぐに澄み切ったとは言い難い空を見上げる。
「では、質問タイムを始めましょう」
「最初の質問をどうぞ」
そうだ。
その言葉によって玲子は忘れかけていたここに来た目的を思い出す。
「笑わずに聞いてもらいたいのだけど……」
そう前置きした玲子が口にしたのは、昨日あの喫茶店を出た直後に起こった出来事。
そして、最後にこうつけ加える。
「最後に黒猫が、質問はあなたにするようにとアドバイスしてくれた」
「なるほど……」
「それは驚き。妄想にしてもよく出来ていると思う。もしかしたら玲子さんは小説家になれるかも……」
修代は薄い笑みとともにそう言った。
だが、その直後、修代は表情を硬くしてそのすべてを全否定する。
「と、言いたいところだけど、時間がないのだから、ここでその話を転がすわけにはいかないわね。では、それにお答えします」
「玲子さんの見たもの。それはすべて事実」
「もちろん事実というのは、玲子さんが見たものが夢ではないということであって、そこにあったものが本物かどうかはまた別の話」
修代はなぞかけのような言葉を口にした。
そして、それがその長い話を始まりとなる。