風変わりな少女 ⑪
「もしかして、おかずの追加提供か?」
教室内の威厳などまったく感じさせないその教師尾上道雄はそんな言葉を吐きながらやってくる。
「まあ、それもあります。かわいい女子高生の手づくり弁当なのですからありがたく食べてください。みんなで」
「おう。いつも通り豪華だな。昼飯の量を調整してきた甲斐があった。というか、みんな小遣いが厳しいから聖護院のおかず目当てに昼飯代をケチっているのだ。これくらいないと午後はかなり厳しい」
そう言って女子高生が食べ残したおかずが入る弁当箱をありがたく受け取る。
その中のひとつタコさんウインナーを尾上がつまみ食いしたことを確認したところで、修代が口を開く。
「それで、本題だけど……」
「何かあるのか」
「もちろん。そのための特配です」
「……そういうことは最初に言うものだろう」
「ま、まあいい」
「それで、なんだ?」
餌付けされた猛獣と猛獣使いの関係のようなそのやり取りに玲子は薄く笑う。
上下関係の核はこれだろう。絶対に。
それにしてもこんなおもしろい光景が見られるとは思わなかった。
そう心の中で呟きながら。
だが、玲子のその見物人感も直後に消える。
「この子がアルバイトするので、許可書を出してもらいたいの」
「いつから?」
「もちろん今日の放課後から。だから、今日中に発行してもらいたいのですが、もちろんできますよね」
「そういうものは担任に言うものだろう」
「あの先生は何をやるにも時間がかかる。それ比べて尾上先生は素早い。そうなれば、どちらに頼むかなど火を見るよりあきらかでしょう」
「もう少しかわいい言い方があるだろう。だが、わかった」
「まあ、そこに校長も教頭もいるから許可はもらえるだろうが、一応聞くが保護者の方の了解はあるのだろうな」
そう言うと尾上は当事者に厳しい視線を送る。
それは教室内外で見せるもの。
先ほどまでのオヤジ臭だけが漂う情けない男のものとは思えないものだ。
差別だ。
玲子は心の中で叫ぶものの、当然その心の声では何も解決しない。
そして、玲子はこういう場面には慣れていない。
そうなれば答えは当然……。
「……たぶん」
か細い声が漏れ出す。
その途端に……。
「はあ……」
ガッカリ感を存分に感じさせるその場にいる男女ふたり分のため息であった。
そして……。
「そういうことは嘘でも『はい』というものだ」
男女ふたり分のお叱りの声がかかる。
そのうちのひとりが言葉を続ける。
「それで……」
「四御神はどこでどんなアルバイトをするのだ?」
「私と同じ喫茶店です」
「なるほど。では、聖護院が四御神の面倒を見るのだな?」
「そうなりますね」
「わかった」
「では、出来上がったら……」
「先生が持ってきてください。教室に」
修代はそう言って、相手が両手で抱える物体に目をやる。
もちろんその意味することはひとつ。
それを察した敗北者はもう一度ため息をつく。
「……わかった」
「本当に感謝しています。先生」
「何度も言うようだが、そういうことはもう少し心を込めて言うものだ」
嫌味は言うものの、言葉から伝わるものは私に対するものとなにもかもが違う。
戦利品を持って教師たちのたまり場に戻っていく強面の教師を見送りながら玲子は心の中で呟いた。




