首斬り村の巫女3
首斬り村跡を目指して歩き続けた。
現場に着いてから過去や未来に依頼人を案内するのが時空師のやり方だそうだ。
それは何故かと言うと、離れた場所から過去の世界に行った場合現代の紙幣が使えない。だから直接現場に着いてから過去に飛んだ方が旧紙幣を用意しなくて済むからだ。
まぁ、タイムトラベラーはなにかと気を使うことが多いみたいだね。
「あっちょっと待ってください!」
歩いている途中、長谷川警部補が思い出すかのよう叫んだ。
「事件と関係あるか分かりませんがえ〜と……実は殺人事件の9年前に虫捕りに行った子供が二名行方不明になってます」
「ちょっと待て長谷川っ! それも初耳だぞっ!」
「ひいっ! 済みませんっ警部っ! ハイッ話しますっえ〜っと……行方不明のお子さんの名は川上竜次9歳。もう一人が久遠寺誠同じく10歳ですね……」
「歳が近いな。まさか友だち同士か?」
「あっハイッ、そうなりますね。しかし未だ行方不明ですね……」
「うむ……気になるな……事件との関係性は?」
「確かに怪しいですがえ〜っと……今のところ事件とは無関係と思われます」
「そうか分かった……」
気になる事件だけど、大量殺人事件とは無関係みたいで鷹村警部はそれ以上追及しなかった。
しかし、お子さんの捜索を打ち切りにされた親御さんはさぞかし無念だったと思う。
その後、村を目指して山道を歩いたけど途中、道を間違えて引き返し、再度別の道を歩いてようやく辿り着いた頃には陽が暮れていた。
「うはっ〜〜ヤバイ場所ですね」
首斬り村跡地を見た長谷川警部が身を震わせた。確かに暗さも相まって廃墟群がより不気味に見えた。
46年間も放置された廃墟群は皆原型を止めずボロボロに崩れていた。しかもどれも凄惨な殺人事件の現場で中には放火もされたことでしょう。まともに残っている建物は数える位だった。
「ふむ、なるほど……神社はどこにありますか?」
沈黙していた刻道が動いて大久保容疑者に尋ねた。
「ああ、ちょっと待ってください……えっとこちらです」
記憶を頼りに大久保容疑者が私たちを案内した。
彼のあとをついて行って散策してから古びた鳥居を見つけた。
鳥居を潜ると残念ながら社殿はなかった。それで大久保容疑者はヒザをついて泣き崩れた。
「どうしました大久保さん?」
「うゔっ……お見苦しいとこ済みません。実は私は助けてくれた巫女様に恋心を抱いてまして、無残にも朽ちた社殿を見たらつい涙が……」
「そうですか……今すぐ巫女さんに会いたいですか?」
「……会いたいっそりゃ逢いたいですよっでも彼女は……」
顔をあげた大久保が視線をそらした。
「会えますよ。過去に行けば生きている彼女に……」
「えっ……」
「そのための時空師。いや、刻の運び屋の仕事です」
そう言って何故か刻道は羽織っていたコートを脱いだ。『寒くないのかなぁ?』タイムスリップするための儀式か気合いかな?
ちなみにリオンもコートを脱いだ。『仲良しかよっ!』
「では今から過去に飛びますので僕を中心に集まってください」
「はあっ? 馬鹿馬鹿しい」
未だ時空師を疑っている鷹村警部が文句を言いつつ刻道の側に寄った。
私も彼の背後にピッタリついた。
「では最後に確認します。行きたい年代と正確な月日時間を教えてください」
「は、はぁ……確か事件が起こったのが私が首斬り村から離れて一週間後の1977年8月10日。そうなると……1977年8月9日午前10時を希望します……」
ずいぶん細かく指定しないと過去に飛ぶ座標が決められないのかな?
しかし私もまだ半信半疑だ。実際時空師の力を確かめるまで信じないな。
「では今から過去に飛びますから決して動かないように」
もし本当ならタイムスリップ中下手に動いたら次元の彼方に飛ばされそうで怖いね。
だから皆んな真面目に刻道の言うことを聞いてじっとしていた。
「では飛びますよ」
刻道が腕をクロスさせた。すると右義手から機械音がして怪しい右眼を赤く光らせた。
その瞬間景色が一変した。
暗くなっていた空が青空にそして目の前の潰れた社殿が綺麗な状態で建っていた。
刻道とリオン以外皆驚いている。しかも急激に体温が上昇し、蝉の鳴き声が耳に入りさらに蒸し暑くなった。
遠くから昼なのに祭りばやしの笛の音が聞こえてくる。間違いなく季節は夏真っ只中だ。
「うわっ! 蒸し暑いっ!」
慌てた長谷川警部補がコートを脱いだ。
私も我慢出来なくなってマフラーと制服の上着を脱いだ。
本当に時空師は私たちを過去に連れて来てくれたんだ。しかも真夏。
だから二人は予めコートを脱いだのね。ちょっと悔しい。
「おいっ刻道っこ、これはどうなっているんだ?」
ここまで証拠を突きつけられても信じようとしない鷹村警部が刻道の肩を掴んだ。
だけど、暑い風邪が肌を刺激するし、匂い音とリアルな五感は幻覚ではないよ。
試しにほっぺをつねったら痛い。バーチャルでもないよな……。
「信じないのであれば、村の様子を見て参りましょう」
「ちょっと待て」
「ん……」
背を向けた刻道を鷹村が呼び止めた。
「村人に怪しまれないように上着を社殿の裏に隠せ。それと長谷川っ大久保の手錠を解除してやれ」
「えっ、本当よろしいんで?」
「馬鹿野郎っ! 容疑者連れた警察がこんな辺境の村にいたら村人に怪しまれるだろ?」
「あ、確かに……分かりましたぁっ!」
長谷川警部補が敬礼してから鍵を取り出し、大久保容疑者の手首にハメられた手錠を解除した。
「さて、これから旅人のフリしてさりげなく村を散策するが注意点が幾つかある。まず一つは、スマホは絶対に村人に見せるな。この時代にはまだ存在しない物だからな、そして我々の正体を決して話すな。特に警察が来たと知るとなにか証拠を隠蔽される可能性があるからな」
私たちは鷹村警部に厳重に注意され本名は名乗って良いが、とりあえず一貫して旅人を貫けと言われた。
それで何食わぬ顔で神社の参道を歩いた。昼間からお祭りの最中みたいで、焼きそばやらたこ焼きにたい焼きと屋台が並んでいて屋根に『首斬り村自治会』と書かれていた。
「本当に過去の時代にタイムスリップしたんだ……」
私が思わず口にすると、皆の前で刻道が帽子を取って胸に当てると、一礼してから顔をあげた。
「過去と言う名の闇へようこそ……」
そう言って右眼を赤く光らせた刻道がニヤリと笑った。