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自称ムー大陸の姫リオン

 

 私は、警察が来る前に外に出てた時空師のあとを追った。こんなチャンスは二度と来ない。

 しばらく尾行を続けていると彼の足が不意に止まった。


「……お嬢さん。僕になにか用ですか?」

「えっ……」


 刻道は前を向いたまま私に話し掛けた。『失礼な奴……』ちょっとコッチ向きなさいよ。


「僕も忙しいので用件があるなら手短かにお願いしますよ」

「……あっ、ハイッ実は仕事の依頼を受けてくれますか?」


 依頼内容は当然、新聞部部長の死の謎を究明するため。


「……予約でかなり先になりますが依頼料は高額になりますよ」

「えっ……」

「まさか無料とか無視の良いこと考えてませんよね?」


 私が黙っていると刻道が振り返った。

『やっぱり金取るよね』会った時それは想定していたから銀行で貯金を引き出そうとしたんだよ。

 多分高額。だけど学生服姿の私に目玉が飛び出る額の依頼料金ふっかけないよね……。


「……分かってます。お、おいくらですか?」

「そうだな……」


 刻道はアゴを摩ってから人差し指を立てた。これはなにを意味しているのか多分金額だ。

 そうなると考えられるのは……一万、十万もしくはひゃ、百万……もし後者だったらあきらめるしかないか……。


「あ、あのっい、一万じゃないでしょうねぇ流石に……じゃあじゅ十万かな? あはは……」

「はぁ〜冗談でも無知過ぎるな女子高生。依頼料は一千万だっ」

「あはは…………あっ……いっ、一千万っ〜〜ちょっと高過ぎるわよっ!」


 いくらなんでも吹っ掛け過ぎ。こんな高額女子高生に払える訳がない。『そうか分かった』絶対に払えない高額提示して最初から依頼を断わるつもりだったのね。


 それ考えて刻道のスカした顔見てたら段々腹が立ってきた。そのすらっとした足を蹴ってやろうか?


「分かりましたっフンッ! 良いですよ。依頼なんて頼みませんから。大体っ貴方本当に時空師とやらですか?」

「ヤレヤレ……開きなおったと思えば今度は疑いますか……分かりました。そんなに信じなければ僕の仕事を見学すると良いでしょう」

「え……」


 そう言って背を向けるとそそくさと歩き始めた。『黙ってついて来いってこと?』ちょっと新手のナンパ方法じゃないでしょうね……とりあえず彼のあとをついて行くことにした。


 □ □ □


 ちなみに刻道のあとをつけてたどり着いた場所は神保町の小じんまりした喫茶店。

 その店の前に一際目を引く背の低い少女が立っていた。


 どの位目立つかと言うとまず、前髪を均等に切り揃えた金髪おかっぱ頭に、お人形さんみたいな整った小さな顔。

 服装は緑生地のブレザー制服姿に右手に先端にバレーボールサイズの透明球体を刺した1メートル弱の銀色の杖を握っていた。なんと言うか魔法使いが持ってそう。


 謎の少女はちょっとしたコスプレーヤーぽくてとにかく目立つ。その最大の要因とされるのが女の私でも二度見するような美少女だから。


『遅いっ!』


 少女が刻道に文句を言った。しかしよく見ると口は閉じていて腹話術かと思ったけど、完全に電子音で恐らく杖から発せられたみたいだ。 


 刻道は帽子を取ると少女に対して頭を下げた。


「済みません姫様。実は銀行でトラブルに巻き込まれて約束の時間に遅れました」

『そうか、それは災難だったな。ところでそこの小娘はなんじゃ?』

「えっ私っ?」


『私しかいないよねぇ……』しかしどう見ても年下は貴女の方でしょう。見た目中学生にしか見えないよ。


「申し訳ございません姫様。彼女の名はえ〜……済みません。名前教えてもらえますか?」


 そういや尾行に夢中で名乗るの忘れてたわ。


「私の名は鐘崎友海。高校二年新聞部部員です」

『フンッ! やっぱり小娘じゃないか。ムー大陸生まれの妾に比べたらなっ!』

「なっ、ムー大陸って冗談っ」

『カァーーツ!!』

「ワッ!」


 杖を光らせて大きな声出すからビックリしたよ。やっぱりちょっと変わった子でコスプレーヤーかな?

 個性的なキャラ付けだけどこんなアニメキャラいたっけ?


『そんなことも知らんのか愚か者め。妾はムー大陸を統べる王国の姫っリオンであるぞ!』


 杖を突いたリオンが『エヘン』と胸を張った。

 しかしあくまでも痛い設定を貫く彼女は通りすがりの人たちに白い目で見られているのに動じない。ある種の潔さを感じた。


 とりあえず設定だとしてもリオンと覚えておこう。

 とは言えまだ私は時空師の力を信じてはいない。本当かどうかはこの目で確かめないとね。


『で、例のモノ買ってきた?』


 ムスッと頬を膨らませたリオンが刻道に手を伸ばした。すると彼は申し訳なさそうに帽子を取って頭を掻いた。


「済みません。買いわすれっ!!」


 リオンに股間を蹴られた刻道が急所を手で押さえうずくまった。えっと確か男の人がアソコを蹴られると死ぬほど痛いんじゃ……。


『今すぐ買いに行ってこんか(たわ)けめっ!』

「もっ、申し訳ございませんっ姫様っ今すぐ買いに行って参りますから」

『うむ、早うな……』


 股間を押さえながら刻道は足を引きずりながらなにかを買いに行った。


 そしてしばらくしてから紙袋を抱えた刻道が帰って来た。


「お望み通り買って来ました」

『うむ……』


 紙袋を受けとると早速手を入れなにやら取り出して見せた。それは出来たてホカホカのたい焼きだった。

 満足気なリオンは頭から口で咥えた。


 喫茶店の前で食う気かよ……。


「姫様っとりあえず中に入って食べましょう」

『うむ……』


 たい焼き咥えた姫を刻道が喫茶店に誘導した。私もあとに続いた。まぁ別に良いけど他店の飲食物咥えて入店して怒られないのかなぁ……。


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