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プロローグ 過去を変えに来た男

 

 昭和58年4月2日。

 内藤正良23歳は一方的に恋した女子高生を使われなくなった山小屋で拉致監禁した。

 今で言うストーカーだ。


「お願い。殺さないで……」


 手足をロープで縛られたセーラー服姿の女子高生が聖奈がナイフを持ったストーカーに命乞いした。

 しかしその声は、興奮状態の内藤の耳には入らない。


「駄目だよ。俺以外の男と親しげにして許さない。お前を殺してやらないと気が済まないよ……」


 笑みを浮かべた内藤がナイフを向けて女子高生に近づく。


「いやああぁぁぁっーーーー!!」


 女子高生が声を張りあげ悲鳴をあげた。しかし内藤は動揺しない。ここは冬の山の中だから、登山者なんて滅多に通らない。


「くく、誰も助けに来やしねぇ、さてじっくり楽しんでから殺してやるよ」

「嫌っ!!」

「へへ……」


 内藤が女子高生に手を伸ばした。その背後から何者かの気配を感じて振り向くと目の前に、白と黒のツートンカラーのスーツ姿でハットを被った若い男が立っていた。


「おめえっ誰だっ!?」

「……」


 するとスーツ姿の男が無言で古びた新聞を内藤に見せた。その一面の記事に内藤の顔写真が載っていた。


「ん、なんだぁ……なんで新聞に俺の顔が……」


 なにかの見間違いかと思った内藤は新聞記事を凝視して内容を読んだ。


「なになに、昭和58年4月2日午前2時ごろ、筑波山(つくばさん)一合目山小屋にて、内藤正良容疑者36歳が都内在住の女子高生を拉致監禁にて殺害した容疑……ん、んん……な、なんだぁっ俺の名前じゃねえかぁ? いや、おかしいだろっ今からやろうってのに、なんで先に新聞記事になってんだよ?」


 内藤の疑問にスーツの男が口を開いた。


「それは僕が未来から来て当時の新聞記事を持ってきたからだ」

「なに言ってんだてめえ……」


 首をかしげた内藤がスーツの男にナイフを向けた。すると彼は臆せず新聞を内藤に向けた。


「この子の両親に頼まれ犯人を倒して過去を変えてくれと依頼されて、この時代にタイムスリップして来た時空師だよ」

「なにが時空師だカッコつけっ……なにっ!?」


 時空師が見せた新聞がぐちゃぐちゃに混ざり再構築して、記事の内容が変わった。


【 昭和58年4月2日筑波山一合目山小屋に都内在住の女子高生を拉致監禁していた内藤正良容疑者が未遂で現行犯逮捕されました】


「なっなにいぃ……誰が決めたんだよ。こんなこと!」

「……僕が助けに来たから過去が改変されつつある。あとはお前を倒せばこの子が助かる世界線となる」

「わっ、訳の分かんねーこと言ってんじゃねーぞ! ああっ助けに来たつもりらしいが、コレが見えねぇのかテメー!」


 刃物をチラつかせた内藤が半笑いで時空師を脅した。しかし彼は動じない。

 それどころか時空師は威圧するようにアゴをあげた。


「……そんなオモチャなんになる?」

「てっ、てめえ……どうしても死にてぇみてえだな……」

「グダグダ言わないで、そのオモチャで刺してみろよ?」

「面白えっ! だったら望み通り死ねぇっ!」


 内藤がナイフを向けて向かって来た。すると時空師はなにを思ったのか黒のレザーグローブをはめた右手でナイフを掴んだ。


「ヒャッハ! 馬鹿かテメー掴んだら指なんて吹っ飛ぶぞっ!」


 ガッキン!


「あ、あれ……」


 肉が切れる音の代わりに何故か金属音が響いた。

 そして、ナイフを握る時空師の右手が『ガチガチ』と鳴った。


「な、なんだてめえの手は……」

「ムー大陸の遺産。超金属ヒヒイロカネで出来た『(とき)の義手がナイフ程度かすり傷すらつかないよ」

「なに訳の分からねーことをっ……ひっ!」

「劣化」


 時空師が握ったナイフが錆びてボロボロに崩れた。


「うわっ! 何なんだよっテメエはっ……」


 怯えた内藤がわめきながら後ずさりした。すると時空師はキザな仕草で帽子を被り直した。


「お前は過去に別な女を殺し山中に埋めて罪を免れたな」

「なっ、なんで警察にもバレてねぇのに、ポッポ出のテメエが知ってんだよっ!?」


 逆上した内藤が時空師に詰め寄って来た。


「貴様の罪は、ぜーんぶお見通しだ」

「なにっ!?」


 下を向いていた時空師が顔をあげた。内藤はその顔を見てギョッとした。それは彼の右眼が真っ赤に怪しく光っていたからだ。


「この目は、過去と未来を見ることが出来る『刻の義眼』だ。コレもムーの遺産。この義眼がお前のしてきた悪行全て映像として見えるぞ……」

「ふっ、ふざけんじゃねーぞ。な、なにが時空師だ。こんなのハッタリだ。ぶっ殺してやる……」

「だから掛かってこいよクズ」

「テメエッ!」


 内藤が時空師に飛び掛かった。しかし彼の姿が一瞬で消えた。


「あ、あれ……や、奴の姿が消えた……」

「どこを見ている。僕はここだ」


 いつの間に内藤の背後に回った時空師が肩を叩いた。


「この野郎っいつの間にっ!」


 振り向く内藤。しかしまたも時空師の姿が消えた。


「また逃げやがったな! どこ行きやがった?」

「ここだよ」

「なにっ!?」


 またも内藤の背後から時空師の声がしたので振り返った。


「なんなんだよテメエは……」

「簡単なことだよ。刻の義手で時間を止めてから移動して解除しただけだよ」


 普通の人間ては不可能なことを時空師は簡単と言ってのけた。


「い、意味分かんねーよ。時を止めるとか……」

「ああ、別に構わないよ。君のような輩には知る必要がないからね」

「こっ…………この野郎っ死にてえのかっ!」


 逆上した内藤が殴り掛かってきた。しかし時空師は避けると超金属の義手で腹を殴った。


「ゴッホ……ば、馬鹿な……」


 胃袋から内容物を吐き出した内藤が腹を押さえ縮こまった。


「ヤレヤレ、これで過去を変えることが出来たかな……あとは彼ら(・・)出番かな……」


 バンッ!!


 突然山小屋のドアが開いて数人の警察隊が中に雪崩れ込んで来た。銃を構えた警察官が内藤と女子高生の姿を確認した。


「通報通り容疑者確保っ!」


 警察官が内藤を取り押さえた。そして無事に女子高生を救出した。一件落着だが腑に落ちない点があった。

 現場の状態を見た警察官が首をかしげた。


「通報者はどこにいる? それに一体誰が容疑者を倒したんだ……」

「隊長っコレをっ!」

「んっ、どうしたっ?」


 部下に声を掛けられ振り向くと一枚の古びた新聞を手渡された。


「おいおいっ重要な物的証拠を素手で触るな。しょうがねーなぁ貸せっ…………んっ、なんだってぇ!?」


 この事件の顛末(てんまつ)を書かれた記事を読んだ警察官の手が震えた。

 そして理解したのか新聞を持った右手を下ろすとこう呟いた。


「警察内でまことしやかに噂されていた。依頼人を過去や未来に案内するという。『刻の運び屋』が本当に実在するかもな……」


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