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蹂躙①

「こ、これは……?」


 眼前で展開される惨劇にデミトルは呆然と呟いた。しがみつくルシオラの震えが伝わってきており、これがこの現実感のない光景が現実であるとデミトルに教えていた。


「よし、この辺りで良いだろう。生き残った者を捕らえろ」

『応!!』


 ジルヴォルの命令が下されるとジルヴォルに従う者達は殺害でなく捕縛の方へと方針を即座に転換した。


「抵抗するな!!」

「妙な動きをすれば殺す!!」

「そこに一つにまとまって蹲っておけ!!」


 部下達に命令された貴族達のみならず衛兵、騎士達も一つのところに集められた。もちろんデミトル、ルシオラも同様である。


「ジルヴォル、貴様……こんなことをやってただですむと思っているのか?」


 デミトルは震える声でようやくジルヴォルへと問いかけた。質問を受けたジルヴォルは質問に答えることはせずに手にした槍を振るった。


 バギィィ!!


「きゃあああああ!!」


 ジルヴォルの槍の石突の部分で殴られたデミトルは血と歯を撒き散らしながら倒れ込んだ。その様子にルシオラが叫び声をあげる。


「誰が口を開けと言った?つけあがるなクズが」


 ジルヴォルの声を聞いた貴族達は身を震わせた。ジルヴォルの王太子を打ちつけたという行為などに身を震わせたのではなく、声に含まれている限りない憎悪を感じ取り震えを止めることができなかったのである。


「ふ……お前達は本当におめでたいな。私が何の準備も無く行動に移したと思っていたのか?」


 ジルヴォルの嘲るような口調に貴族達はカッとなり口を開きそうであったがデミトルを容赦なく打ちつけたことを目の当たりにしたため沈黙を選択した。

 それから20分ほど経ったところで扉が開け放たれた。貴族達が一斉にそちらを向くと驚愕の表情が浮かんだ。


「……そ、そんな……陛下」

「王妃様も……」

「ルクルト第二王子、ソシュア姫……」


 そこには衛兵達に引っ立てられた王族達が姿を見せたのだ。


「お屋形(やかた)様、国王一家を捕らえました」

「ご苦労」


 部下がジルヴォルへと報告を行う。国王は惨状を見て何が起こったかを察したのであろう。ゴクリと喉を鳴らした。


「連れて来い」


 ジルヴォルの命令通りに部下達に引っ立てられ国王一家が貴族達の輪の中に入れられた。そこに王族への敬意など微塵もない。


「ザーベイル辺境伯!! これは一体何の真似だ!!」


 ギルドルク王国国王オルタス2世がジルヴォルへ詰問する。


「独立戦争だ」

「独立だと……?」


 オルタス2世はやや呆然とした表情を浮かべた。その表情を見たジルヴォルはニヤリと嗤って言う。


「何、簡単なことだ。お前達に従うのがアホらしくなったから独立宣言して、そのまま宣戦布告をしたまでのことだ。実に簡単な図式だろう? お前(・・)はこの程度のことが理解できんのか?」


 ジルヴォルの嘲笑のこもった言葉にオルタス2世の表情に怒りが浮かんだ。


「貴様らは何も分かってはおらぬ!! このような浅慮な行動などやったことでザーベイル辺境伯家は終わりだぞ!!」


 オルタス2世の言葉をジルヴォルは涼しい顔で聞いている。


「ふ……今まさにギルドルク王家が終わろうとしているのに他家の心配とは余裕だな」

「な、何だと……?」

「国王陛下はどうやら何も分かってはおらぬようですな」


 ジルヴォルはここで丁寧な口調でオルタス2世へと返答する。だが、それはオルタスへの敬意などではなく嘲笑であることは明らかであった。


「何?」

「今回の件を単純な暴発とでも思っているのか? 愚かだな。我々は長い準備をしこの場に臨んでいるのだ」

「準備だと……?」

「ああ、考えてもみろお前達を捕らえた者達はもちろん我らの手の者であるが、それは昨日今日潜り込ませたわけではない」

「な……何?」


 ジルヴォルの言葉の意図がわからないのはオルタス2世のみではなく貴族達もであったようだ。


「我らは五年前から王城へ手の者達を潜り込ませている」

「な、何だと!?」

「お前達を捕らえた者達、王城のあちこちで破壊、火をつけて回っているのは皆我らが五年をかけて潜り込ませた者達だ。少しずつ少しずつ潜り込ませていった。お前達に気づかれぬようにな」


 ジルヴォルの言葉に全員が愕然とした表情を浮かべた。ジルヴォルの言葉は決して暴発などではなく、準備に準備を重ねての行動であることを示しており、それは自分達の生存の可能性が限り無くゼロに近いものであることの証拠であった。


「そして、潜り込ませた者達はお前達中央に憎しみを持つ者達ばかりだ」

「憎しみだと?」

「ああ、お前達中央貴族によって子を殺された者達だ」

「子供を……?」

「ああ、お前らは地方に住んでいる者達を差別しているだけではない。戯れに虐待している。その虐待の中で子を殺された者達だ。何かしらの罪や咎があるというのならまだしも戯れで殺された。それなのに……王族は何もしない。罰することもしない」

「……」


 ジルヴォルの憎悪のこもった言葉に返答するものはいない。いや、できないのだ。


「カークゴル子爵の嫡男であるイアンもカジネルト侯爵によって殺されているぞ」


 ジルヴォルの言葉にカークゴル子爵へ貴族達の視線が集まった。カークゴル子爵は憎悪のこもった視線を貴族達に向けている。

 カークゴル子爵の憎悪のこもった視線の恐ろしさに貴族達は身を震わせた。


「なぁオルタス……なぜ我らの忠誠にお前は応えなかった? ギルドルク王国をフラスタル帝国の侵攻から守るために血を流した我らにお前はどうして報いようとしなかった? 父エクタルは何度も何度もお前に陳情していたろう? 中央貴族の横暴をサーベイル地方に住む者達への差別を何とかしろとせめて公正な裁判を行えとな」


 ジルヴォルの言葉にオルタス2世は顔を青くするだけである。


「だがお前はそれに一切応えなかった」


 ジルヴォルはここで一旦言葉を切った。ジルヴォルの沈黙は怒りを溜めているようでもあり、沈めているようにも見える。


「お前達は見限られたのだよ。もはや王としてふさわしくない。我らの上に立つにはお前は明らかに器量不足だ」


 ジルヴォルの言葉に失笑が漏れる。もちろん、ジルヴォルの部下達から発せられた惨めな貴族達への失笑である。


「ああ、そうそう。我らの手の者であるが当然ながら王城だけに潜り込ませているわけではない」

「な、何?」

「当然だろう。ここにいる居を構えている貴族の屋敷、至る所に我らの手の者が入り込んでいる」

「まさか……」

「そうだ。決行の合図は王城で火の手が上がることだ」


 ジルヴォルの言葉の意味を察した貴族達は顔を青くする。それは自分達だけでなく家族達が今命の危機に瀕しているということだからだ。


「た、たのむ!! ザーベイル辺境伯!! 子供を殺さないでくれ!!」

「お願いよ!!」

「お願いします!!」


 貴族達は次々とジルヴォルへと哀願を始めた。しかし、ジルヴォルには全くと言っていいほど心を動かされた様子はない。

 ジルヴォルは手にした槍で縋りつこうとした貴族の一人の喉を刺し貫いた。


「誰が喋っていいと言った? おい」


 ジルヴォルの命令に部下達が一斉に命乞いを始めた貴族達へ槍を突き立てた。

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