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最凶侯爵の好敵手 ~最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路~  作者: やとぎ


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怪物達①

「そうか……ガルヴェイトはそう動くか」


 ジルヴォルはアーゼインの報告に目を通すと小さくつぶやいた。


「陛下?」


 報告を持ってきた文官がジルヴォルの態度に疑問を問いかけた。


「どうした?」


 文官の怪訝な声にジルヴォルは不思議そうな表情をした。ジルヴォルは文官がそのような怪訝な表情を浮かべることが理解できなかったからである。


「いえ、陛下がどうして笑ってらっしゃるのか疑問で」

「笑ってる?」

「はい。お気づきではなかったのですか?」

「そうか。私は笑っていたか。戸惑わせたようだな」

「い、いえ、失礼しました」


 文官はそういうと一礼して退出していった。


「陛下、その報告書には何が書いてるのですか?」


 秘書官であるエルヴィス=カーサイルが問いかけてきた。カーサイル家は代々ザーベイル家に仕えてきた。その忠誠心は揺るぎない。

 エルヴィスは鋭い印象を受ける容姿をしている21歳の男で、昔からジルヴォルを補佐してきた人物である。


「見てみろ」


 ジルヴォルはエルヴィスへと報告書を手渡すと、エルヴィスはその報告書に目を通すとジルヴォルへ視線を向けた。


「陛下……ガルヴェイトの貴族であるザーフィング侯爵が会いたい(・・・・)とありますが」

「そうだ」

「当然、会談が目的であると思われますが……会談の内容はやはり詰問でしょうか?」

「まさにそこ(・・)だ」


 ジルヴォルの返答にエルヴィスは首を傾げる。その様子を見てジルヴォルはエルヴィスへと問いかける。


「エルヴィス、お前は詰問と友好関係の構築のどちら(・・・)と思う?」

「え? それは詰問では?」

「もし、詰問であればアーゼインに報告をさせる理由は?」

「……そういえば。では友好関係を築こうとしていると?」

「アーゼインはザーベイルの手の者であることは既に知られている。なら良からぬことをガルヴェイトにしてると考えるのは自然だ。ガルヴェイトとすればそのような手段を使おうとしたザーベイルと友好関係を築こうとするか?」

「……」


 ジルヴォルの問いかけにエルヴィスは返答することができない。


「わかるか? どちらとも取れるのだ。そして、ガルヴェイトから流れてくる情報は重要度が上がれば上がるほどどちらとも取れるような状況で入ってくる」


 ジルヴォルの返答にエルヴィスはゴクリと喉を鳴らす。


 ジルヴォルが判断に迷う姿を見るのは非常に珍しいのである。それもそのはずで、半々の可能性が提示されれば判断に迷うのは当然である。そしてそれはジルヴォルであっても例外ではない。


「しかし、厄介だな。ここまで判断に迷うことになるとは思わなかった」

「これを演出しているのはザーフィング侯爵でしょうか?」

「ふむ……」


 エルヴィンの問いかけにジルヴォルは考え込んだ。


(ザーフィング邸にデミトル達が逗留していることはアーゼインからの報告でわかっていた。だが、ザーフィング侯が全てを決するか? 侯爵という地位から考えれば間違いなくガルヴェイトの重要人物であるのは間違いない。だが……それでも、外交担当者ではない。そのような人物が国王の許しもなくザーベイル王国と連絡を取るとは考えにくい……)


 ジルヴォルは思考の迷路へと迷い込んでいく。そこにエルヴィスが声をかけてきた。


「陛下、あまりこういうことは言いたくはありませんが」

「ん?」

「陛下は少しばかり視野が狭くなっております」

「どういうことだ?」

「陛下の気にするものがガルヴェイトにいるのは間違いないと思います。それが誰なのか現段階で考えたところでわかるわけございません」


 エルヴィスの言わんとすることに思い至ったジルヴォルは苦笑を浮かべた。


「そうだな。現段階でわからんものはわからんな。では私がやるべきことは情報を集めることだな」

「はい」

「ザーフィング侯の情報を集めろ。どんな小さいことでも構わん。いや、重要でなければ無いほど良い」

「重要でない方が宜しいのですか?」

「ああ、核心に迫るものは先ほど言ったようにどちらにも取れるようなものに加工される可能性が高い」

「承りました」


 ジルヴォルの命令をエルヴィスは一礼して受ける。


(私がやるべきことは情報を集め、決断をすること……ザーフィング侯、どのような男かな?)


 ジルヴォルはジオルグとの会談に向けて動きだした。


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