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最凶侯爵の好敵手 ~最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路~  作者: やとぎ


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20/32

道化は踊る①

 ギィ……


 扉の開く音に少年は顔を上げた。歳のころは十三〜四というところだろう。金髪碧眼で整った容姿をしている少年だ。

 少年の名はルクルト=ギオリム=ギルドルク。ギルドルク国王であったオルタス2世の子で第二王子である。

 オルタス2世とカサルディアの処刑後の混乱に乗じて脱獄し、隣国であるフラスタル帝国へと亡命してきたのである。


「首尾はどうだ?」


 ルクルトは入室してきた男達に向かって問いかけた。その声にも表情にも強い意思が浮かんでいた。

 男達の人数は三人、シャリス=リームス、ガロム=エルラン、ミユム=ログヴェイというのがそれぞれの名で、年齢は全員が二十代前半である。

 処刑を待つだけであったルクルトを脱出させギルドルク王国再建のためにフラスタル帝国へ支援を求めることを提案した者達である。


「はっ、明日謁見するとの事でございます」


 一人がそう返答する。その返答にルクルトはニヤリと笑って返答する


「そうか、よくやった」

「はっ」

「これで第一関門突破だな」

「はい。しかし、フラスタル帝国は何度も我が国へ侵攻してきた敵国でもあります。油断なさらぬように」


 部下の一人の言葉にルクルトは頷いた。


「わかっている。フラスタル帝国皇帝リューベス3世は油断ならない男だ。当然、タダで我らの復権に手を貸すわけでは無いだろうな」

「はい。どこまで要求してくることか……」

「うむ、それは考えている」

「と申しますと?」

「ザーベイル辺境伯領だ」


 ルクルトの言葉に三人は少しばかり考え込む。


「今回の件でザーベイル辺境伯領……いや、地方との確執は決定的なものとなった」


 ルクルトの言葉に三人は頷いた。三人の様子にルクルトは気をよくし、話を続ける。ルクルトは自分の意見に反論されることを好まない。それが行動の端々に現れており、今回も反論がなかったことで気をよくし次の言葉を発する。


「少なくとも奴らが我が王家にやったことを私は許すことはできない。そんなザーベイル辺境伯に与する者共などどのような目にあっても心が痛むものではない」


 ルクルトの言葉は中央貴族のそれ(・・)であった。中央と地方の確執の原因の根幹である差別意識そのものであったのだ。


「殿下のお怒りはごもっともです。しかし、別の手も打っておくべきかと」


 シャリスの遠慮がちの言葉にルクルトは目を細める。


「別の手?」

「はい。フラスタル帝国がザーベイル辺境伯領の割譲だけで満足しなかった場合です」

「確かにな。だが現状の私には何の力もない。フラスタル帝国がさらに要求をした場合には退ける力がない」


 ルクルトはやや気分を害したようであった。シャリスはそれは想定していたのだろう。一切の動揺を示すことなく言葉を続ける。


「殿下、ギルドルク王国にいる貴族達の残党へ檄文をお出しください。ギルドルク王家が滅んでいないことを知らしめれば必ずや我らの元に馳せ参じるものが現れるでしょう」

「檄文か……確かに独自の戦力を整えるのも必要だな」

「はい。そうすればフラスタル帝国といえども無茶な要求をすることはなくなるものと」

「一理あるな」


 シャリスの提案にルクルトは理解を示す。


「よし、これより檄文を作成する」

「もし、お許しいただけるなら私が中央貴族の生き残りへ檄文を届けて回ります」

「そうだな。私も王となるためにやらねばならぬことが山ほどある。そのための第一歩だ」

「ありがとうございます!!」


 ルクルトの返答にシャリスは一礼する。


「ガロム、ミユム、私が檄文を伝えて回る間、殿下を頼むぞ」


 シャリスの言葉に二人は頷いた。


「それでは殿下、檄文の作成をお願いいたします」

「ああ、わかった」


 ルクルトは真剣な面持ちで答えると三人は一礼して退出していった。


 扉を閉めた三人は自室へと向かう。自室に入った三人は互いに視線を交わすと声を顰めて話を始めた。その声の小ささを考えればまさに密談という感じである。


「さて、ここまでは予定通りだな」

「ああ、デミトルとソシュアもこれから檄文を作成するだろうな」

「ジルヴォル様の掌の上というやつだな」

「その辺りは仕方ないさ。そもそも誰が王子王女を泳がせるなんて考えるんだ?それにあいつらが失敗したところでザーベイルは不利益も生じないしな」

「その辺りがジルヴォル様の恐ろしいところだ。あいつらが頑張れば頑張るほど、ギルドルク王家の支持は失われていくんだからな」

「ルクルトの最後が見れないのは残念だが、俺の代わりに報いをくれてやってくれよ」


 シャリスの言葉に二人は頷いた。


 その表情にははっきりと憎悪の感情が浮かんでいた。

 


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