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最凶侯爵の好敵手 ~最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路~  作者: やとぎ


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王と王太子

「ふむ、上手く行ったな」


 御前会議を終えた夜にアルゼイス王の私室を訪れた王太子イルザムにアルゼイスは厳かに言う。


「ええ、ジオルグの持ってきた情報を鑑みればギルドルク王国に与することは手痛いしっぺ返しを受ける可能性が非常に高かったです」


 アルゼイスの言葉に王太子であるイルザムの返答にアルゼイスは頷いた。アルゼイスとイルザムは他に人がいない場合はジオルグのことをザーフィング侯とは呼ばずに名前で呼ぶのである。それは二人のジオルグに対する信頼の表れであると言っても良いだろう。


「確かにな。ジオルグの持ってきた、街道を確保し、ジルヴォル王が我が国に流言を振り撒いているという情報は我が国にとって有益極まりないものであったな」

「はい。普通に考えればギルドルク王国の混乱に乗じて多大な権益を確保することが可能であると判断するところです。中央貴族達の所領は現在空白地帯になっていますので諸外国にとって良いエサ場と見るのは当然ですものね。ところで父上」


 イルザムは返答すると同時にアルゼイスに問いかける。


「ん?」

「父上はジオルグにデミトルを任せたと言うことはジルヴォル王と協力体制を築きたいということなのでしょうか?」

「どうしてそう思う?」


 イルザムの問いかけにアルゼイスは質問で返した。その表情を見ればイルザムがどう返答するかを明らかに楽しんでいる様子である。


「ジオルグに任せたことです。ジオルグの元には我がガルヴェイトのみならず近隣諸国の情報が大量に集まっております。それを精査、分析していることでジオルグの持つ情報は我がガルヴェイトにとって非常に有益なものとなっております。そしてザーベイル王国にとって近隣諸国の情報は喉から手が出るほどに欲しいものとなる……それを使ってザーベイル王国と友好関係を築こうとしているのではないかと考えたわけですよ」

「イルザム、出来るようになったな」


 アルゼイスの賛辞にイルザムは少しだけ笑う。尊敬する父に褒められてイルザムが悪い気がするはずはないのだ。


「イルザムのいう通り、ザーベイル王国と友好関係を築きたいというのが私の本音だ。だが、ジオルグの情報からジルヴォル王は仲間以外と友好関係を築くつもりはないこともわかっている」

「ジオルグならばそれが可能であると判断された理由は……ジオルグとジルヴォルは同類(・・)と見たというわけですよね?」


 イルザムの言葉にアルゼイスはニヤリと笑う。それはイルザムの見立てが正しいということを意味していた。


「ふ……察しが良いな。ジオルグもジルヴォル王も同類であると見た。その見立てに間違いはあるまい。敵対者に対してはどこまでも容赦をしない。一片の慈悲も与えないというのは、父と義母への対応と中央貴族達への容赦のなさを見れば明らかだ」

「ええ、確かにあの二人は同類と見て良いでしょう。ですが一つ懸念もあります」

同族嫌悪(・・・・)ということであろう?」

「はい。似た者同士というのは仲良くなるか悪くなるかどうなるかわかりませんのでどのようになるかは全く読めません」

「だが、両者の関係がどうなろうとも、お互いに仲間を大切にするという判断基準を考えればガルヴェイトにとって不利益は生じることはない」

「はい。二人の間に友誼が生まれれば両国にとって良い結果になると思います。そして生まれなくても二人とも両国の関係は悪くなるということはしないでしょう」

「そうだな。それにザーベイルにとって目下の問題はフラスタル帝国の侵攻であろうな」


 アルゼイスの言葉にイルザムは頷かざるを得ない。


「しかし……ジルヴォル王としてはどうしてデミトルをこちらに寄越したのでしょう?」

「ん?」

「オルタス2世の子は三人、そのうちの一人をこちらに送り込み干渉を促そうとしているわけですよね? 当然、他の二人もどこかに送り込まれているのでしょう。そうすると一人はフラスタル帝国に送り込まれていると思われます。我が国とフラスタル帝国に挟み撃ちにされれば対応できるとは思えません」

「確かにな……だが、実際にジルヴォル王はそれを行った。当然ながら何かしらの対応策を有しているのだろうな」

「反王家勢力を煽る……ですか?」


 イルザムの言葉にアルゼイスは頷いた。


「そういうことだ。しかし、こちらが干渉しない限り奴らはその手を打てない」

「はい、いずれ我らと戦うことになった場合の選択肢をここで捨てるようであれば愚かというものです」


 イルザムの言葉はここでジルヴォルが国内の反対勢力を動かせば当然ながらアルゼイス王はそれに対応し完全に叩き潰すことになる。

 そうすれば本格的に両国の関係が悪化した場合のためにもう一度用意をしなければならないのである。それを考えればこの手段を取るとは思えないのである。


「それにしてもイルザム……お前の迫真の演技はなかなかのものであったぞ」


 アルゼイスはニヤリと笑って言う。アルゼイスの言葉にイルザムは憮然とした表情を浮かべた。


「父上こそ重々しい表情と声で結論を告げたところは笑いを堪えるのに必死でしたよ」

「ふ、ジオルグが前日に話を持ってきたからな。それに応えてやろうと思ったまでのことだ」

「いずれにせよ、ジオルグに任せることになりますな」

「デミトルも哀れなものだ。ジオルグかジルヴォル王のいずれかに利用され使い潰されるという未来しかないのはな」

「はい。我らとすれば忠臣達の忠誠にきちんと応えなければなりませんな」

「そういうことだ。王の一番の仕事は忠臣達の忠誠に報いること。逆に言えばそれが出来ぬ者は王たる資格はない」

「肝に銘じます」


 イルザムは静かに一礼する。


(しかし、ジオルグとジルヴォル王か……二人が出会った時に何が起こるのだろうな)


 イルザムは心の中でそうつぶやいた。


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