第5話 新たな条件
「やめっんん・・」
マリオンの口づけは、角度を変え何度も続いた。ようやく唇から解放されたエルメは、潤んだ瞳をキッと向ける。
「こんなキスは、嫌です!おやめください」
精一杯の抗議の声もその耳には響く様子もなく「では、どんなキスならいいのだ?」と、マリオンは返す。
「キスをやめてほしいと言ってるのです。大体、キャラが違いすぎです!小説の中のマリオン様は、もっと落ち着いた感じで、淡々と私に接してました。そして、愛した乙女にはデレデレの溺愛を送るんです。そのギャップがいいのですよ」
エルメの話に、マリオンは拍子抜けした表情を浮かべる。そして、それはすぐにエルメが翻弄される様子を楽しむような笑みに変わる。
「なんだ、君は甘やかしてほしいのか?
それが君の好みというなら、変えることは厭わん。それに涙を浮かべるほど、嬉しかったとみえる」
「ちがっ!!これは男の力に敵わない自分が、悔しかったんです。悔し涙です!」
すると、マリオンはエルメの目尻に指で優しく触れた。挑戦的な言葉とは裏腹なその仕草にエルメの心臓が途端にうるさくなる。
「悔し涙ねえ・・・・まあいい。いずれ別の意味でなかせてみせるからな」
力だけでなく、マリオンの言葉でも翻弄されるエルメは「なっ!?別の意味って・・最低っ!!!」と返すので一杯一杯だ。
「何とでも言えばいい。それより条件追加だ。二年も待てん」
思いもよらぬマリオンのセリフに「はいぃ?」と、素っ頓狂な声を出す。そんなエルメの反応にマリオンは笑いを堪えながら、話し始める。
「クックッ・・・皇家には古から伝わる力がある。随分前に廃れたのだが、私たちには必要だな。
それは契約を交わすのだ。“番の契約”。それを交わした二人は一生離れられない。何があってもだ。
私は君をすでに気に入っている。よって君が私を愛したら、そこで契約を交わす。その時点で君との賭けは、終わり。どうだ?それが追加の条件だ」
(はっっ!番の契約??そんなの書いてないし、そんなの構想すら練ってないし!小説と流れが違うしっ!)
「そんなの私、書いてません!」
動揺を隠し、抗議するエルメにマリオンは「断るなら、いま賭けをやめてもいいんだが・・・」と言う。
セリフを途中で切り、エルメの首筋を優しく、壊れ物に触れるように撫でるマリオンの指。そして、瞳を揺らすエルメに、今まで彼から見たことのない愛しむ色を映した眼差しを向けられる。その眼差しにエルメの動揺の針は、振り切った。
「わっ、分かりました!それで、その契約はどう結ぶのですか?」
「それは秘密だ。知らないほうが、ドキドキするだろう?君にはそれくらいが、ちょうどいいと見える。それにまた、昨夜のように逃げられては、困るからな」
そう言ったマリオンは、首筋に触れていた指でエルメの長い髪を一束取ると、口づけを落とした。
(何か当初の円満離婚計画から離れていってるけど、大丈夫かな・・私の庶民お気楽ハッピーライフ・・・大丈夫だよね・・)




