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勇者が魔王を救った話  作者: 星野 鯛焼
8/11

8話 首は弱いの~!!

 まさか一日で二話分できるとは……。

 最後まで読んでくれたら嬉しいです。

 人間の三大欲求の一つに、性欲というものがある。

 まあ、ある意味抑えようと思えば抑えられるような気もするし、そう考えれば性欲なんて三大欲求には入らないのでは?と考えたこともある。だがしかし、長年の訓練によって、ある程度の空腹や、睡眠の欲求に対しては我慢できても、俺にとって性欲だけは、

「ドーラ!!」

 絶対に抑えられるものではない!!

「は~い?何でしょうユウ様~?」

「おっぱいを触らせてくれええええ!!!!」

 俺がドーラに向かって飛びつく、ドーラは嫌がる素振りなど全くせず、むしろ受け止めてあげると言わんばかりに妖艶な笑みを浮かべながら手を広げてくれる。その奥に広がる豊満な果実が二つ。まさに砂漠に等しい魔王城のオアシス!!

 ああ、もうすぐオアシスに……、

「朝から何してんのよこの変態!!!!」

「ぶべらぁ!!??」

 届きそうな所で俺の夢は覚めてしまった。

 勇者の俺に67のダメージ!!

「あらあら~ユウ様に何してるのケルちゃ~ん……」

「あんたもよ!!ああいうのに簡単に乗らないの!!こいつはただでさえ変態なのに、あんたが許しちゃったら誰にでもこういう事しちゃうでしょ!!」

 俺はけられた腹を抑えながら、フラフラとその場に立ち上がる。

「失敬な……俺はこういう事をして許される奴にしか行かない!!嫌がっている奴には最低限のモラルを持って接しているつもりだ!!」

 ケールは軽蔑したジト目で俺の事を見つめている。

「ちなみに~ケルちゃんにセクハラするならどうするの~?」

「ケール、今日のお前のパンツは黒だったな」

 発言が終わると同時に3発のけりが飛んできた。

 俺はあっさりとその場に倒れる。

 勇者の俺に198のダメージ!!

「……ほ、他のパンツの色は……白と……紫の紐パン……」

「ユウ様本当に面白いわね~」

 ドーラがクスクスと笑いながら、倒れている俺の頭を撫でてくる。

 ケールは相変わらずゴミを見るような目で俺を見ていた。

「でもすごいわね~ケルちゃんの分身を見破ってるのね~?」

「……え、マジで?」

「余計な詮索はしなくていいの!!いいからあんたはその変態行動を自重しなさい!!」

 そう言いながら、ケールは踵を返してそそくさといなくなってしまった。

「……うーん、やっぱり俺嫌われてんなぁ……」

「あら~、そんな事無いと思うけど~。ケルちゃんは素直じゃない所もあるしね~」

 俺は起き上がりながらケールの後ろ姿を眺めていた。

 フリフリと揺れる尻尾を見つめていると、ドーラが声を掛けてくる。

「ところで~、ユウ様は本日お時間ありますか~?」

「……?今日は午後からマオと今後の話し合いでもって言われてるけど……」

「でしたら今はお暇ですね~、ちょっと私に付き合ってもらってもいいですか~?」

「ああ、別にいいぞ……でも、何するんだ?」

「まあまあ~、いいからいいから~」

 俺はドーラに腕を引かれる。そのまま付いて行くと、魔王城の外まで出てしまった。

「……おい、どこ行くんだ?」

「今日は~殺戮峠まで行って~、とある魔族の様子を確認しに行くの~」

「……殺戮峠?」

 俺が魔王城に向かう最中は、遠回りになると思い通らなかった場所だ。

「……それ、午後までにここに戻ってこれるのか?」

「まあ~普通に歩いたら丸一日はかかるかしら~?」

 間に合わねえじゃねえか……。

「いやいや、俺は午後にマオと用事があるって言ったじゃないか……」

 俺がそう言うと、ドーラの様子が違うことに気が付いた。俺に背を向けているドーラの魔力が段々と大きくなり、俺は自分の背中がじっとりと汗で湿って来ていることに気付く。

 メキメキと音をたてながら、ドーラの身体は大きく、禍々しくなっていく。

 変化が終わった時、俺の目の前には赤い鱗を纏ったドラゴンが居た。それも、俺の知っている大きさのドラゴンじゃない。その数倍もデカい。

「………っ!?」

 俺が言葉を失っていると、ドラゴンがゆっくりとこちらを振り向く。

 俺の目の前に、長い首を動かし顔を近づけてきた。あまりの迫力に思わずたじろいでしまう。

『……どお~?』

「……は?」

 ドラゴンから聞こえたのは、気の抜けた甘ったるい声。その声で一瞬忘れていたことを思い出す。

 こいつはドーラなのだと言う事に。

『ユウ様~かっこいいですか~可愛いですか~?』

 ゴツイ腕を胸の前で握りしめながら、きゃるんきゃるん♡と効果音がしそうな動かし方をしている。

「……えっと」

『ご感想は~?』

「……怖い、禍々しい、厳つい、殺させるかと思った、あとは……」

『ちょっとちょっとユウ様~!?』

 俺が冷や汗を拭いながら正直な感想を述べる。しかしドーラは不服だったようだ。

 不機嫌になったドーラはそっぽを向いてしまった。

 目の前にいるのは町一つ焼き払ってもおかしくない凶悪なドラゴン。しかもドーラは、普通のドラゴンではない。

「まさかお前が伝説上の赤いドラゴンになるなんて……」

 俺が町などで聞いたことのあるドラゴンは、人間の3倍程の大きさで、黒や青のドラゴンだ。しかし、昔話で聞いたことがあった。通常のドラゴンより数倍の大きさで、鱗の赤いドラゴンが、過去に人間を滅ぼしかけたという話を……。

「赤いドラゴンなんて、おとぎ話だと思ってたけど……まさかその話のドラゴンってドーラの事なのか……?」

『ん~?……ああ~、パパのこと~?私はパパみたいなことはしないわよ~?それに私のこの身体でもパパの3分の1にも届いていないのよ~?』

「ぱ、ぱぱ!!??」

『人間の昔話に出てくる大きな赤いドラゴンのお話でしょ~?まあ、実際に人間を滅ぼしかけたのは200年ぐらい昔の事だけどね~』

 やっぱりお伽話じゃなかったのか……。まあ、空想上の話だと思っていた存在が目の前にいるんだから、信じるしかないが……。

「そ、それで……お前がドラゴンに変身してどうするんだよ……俺を喰うのか?」

『何言ってるの~決まってるじゃな~い?ユウ様を乗せて殺戮峠に行くのよ~』

「……え?」

『飛んで行った方が断然早いでしょ~?』

 俺は改めてドーラを見る。

 まるで炎が燃え盛っているように重なっている鱗を見て身震いする。

「いや怖すぎだろ!?お前の背中に乗ったら俺殺されるんじゃないの!?」

『そんなことしないわよ~?こう見えてマオ様からは乗り心地がいいって褒められたんだから~』

 ……俺よりマオの方が肝が据わっている……。ええい!負けてられるか!男の意地だああああああ!!

「ぬおおおおお!!!」

 俺は大きくジャンプをし、ドーラの首に飛び掛かった。

『あんっ!!』

「いやいや!?おかしいだろ今の反応!?首に飛び乗っただけだぞ!?」

 予想外の反応に思わず手の力が抜けそうになり、必死でドーラの首にしがみ付く。

『ああっ!!まってえ~、首は弱いの~!!背中に移ってえ~!!』

「んなこと言われても……うおおおおお!!??」

 ドーラは首を上下に揺らしながら暴れている。落ちる恐怖に耐えながらゆっくりと首から背中に移動していく。背中に足を付け、翼の付け根をつかんだころには、お互い息が切れている状態であった。

『はあ~……ユウ様は大胆です~……』

「お、おい!?変な言い方するなよ!!俺だって死ぬかと思ったわ!!」

『マオ様の寝起き魔法を受けてピンピンしている人が~、こんな高さで落ちたぐらいじゃ死なないわよ~』

 そう言いながら、ドーラは身体の向きを魔王城の反対側に向ける。

 この方角が殺戮峠何だろうか。そう考えていると、左右の翼が大きく羽ばたきだした。

『それじゃあ~行きますよ~?』

「お、おう、ゆっくりな……あああああああああああああああ!!!???」

 突風を受け、俺は翼の付け根に必死にしがみ付いていた。

 顔面に受ける突風で息が出来ない!!寒い!!痛い!!

「ゆっくりって言っただろうがあああああ!!??」

 俺の叫び声も風で掻き消される。

 ああやばい、本当に死ぬ……。そう思った時、突風が止まった。

 俺がゆっくりと顔を正面に向けると、ドーラは首を捻りこちら横目で見ている。

『着きましたよ~!殺戮峠~!』

 そう言いながら、ゆっくりと峠を旋回するように飛び始める。

「そのスピードで飛べるなら最初からそうしてくれよ……」

『でも~思った以上に早く着いたでしょ~?』

「いや、思った以上って言うか……」

 歩きで丸一日かかる距離をたったの数十秒って……。

 魔王直属護衛の3従士って本当にすげえんだな……。

 そう考えながら、俺は改めて周りを見渡す。思った以上に緑が広がっている地上を眺める。

『ここに居るのはね~、殺戮トカゲ~!私の同胞ちゃんたちなの~』

 ドーラのその言葉を聞き、改めて周りを見渡す。

 確かに、禍々しい棘が体中に生えたトカゲ型の魔物があちこちに見えた。

『ここの子達の尻尾はね~、食用にもなるから~、時折分けてもらってるのよ~』

「へえ~……え?食用?」

 驚愕の言葉に思わず反応してしまう。

『そうよ~?殺戮トカゲは尻尾を切ってもすぐに生えるし~、この子達のお肉はケルちゃんやネマちゃんが大好きなのよね~』

 そう言われ、俺は一つ思い出す。魔王城に着いた初日に食べた肉……。ケールとネーマが肉の取り合いをしている所に、ドーラがケールに肉を譲っていたのを思い出した。

「……同胞の肉ってそう言う事か……っていうかトカゲが同胞って……」

『トカゲもドラゴンも似たような物でしょ~?』

 全然違うと思うけど……。

「ていうか自分から提供するのかよ……尻尾痛くないのか?」

『この子達は自分の意志で尻尾を切り離せるから~、遠慮なく提供してくれるのよ~。そのかわり私が定期的に~、この周辺の確認をするの~。怪我をしている子が居ないかとか~家族とはぐれた子が居ないかとか~……』

「なるほどな……」

『……それから~、人間が居たりしないかとかもね~……』

「………」

 ドーラの発言に、俺は無言になってしまった。

 おそらくここに居る殺戮トカゲも、人間を襲う事なんて無いんだろう。実際、俺は存在していることを今知ったぐらいだから、人間に接触したこともないだろう。

 それでも、俺達人間なら……このトカゲ達を見たら、魔物だと判断して簡単に手を出してしまうだろう。

 俺が考え込んでいる事に気が付いたのか、ドーラが慌てて話しかけてきた。

『ご、ごめんな~い……別に悪気が有って言った訳じゃないの~、私はただ~……』

「……ドーラが、こいつらの怪我や迷子だけの確認に来れるようになればいいな……いや、そうできるようにするのが、俺の仕事だ……」

『……ユウ様~……?』

 俺はドーラの翼の付け根を優しく撫でる。

「お前はお伽話に出ていた恐ろしいドラゴンなんかじゃない……ここに居る殺戮トカゲだけじゃなく、ケールやネーマ……そしてマオに優しく接することのできる、いい奴だ……そんなお前が、俺は好きだぞ」

『……っ!』

 俺は一回り小さいトカゲが、こちらを見つめている事に気が付いた。

 俺は笑顔でその子に大きく手を振った。




 確認が終わり、またものの数十秒で魔王城に帰ってくる。

 俺はフラフラになりながら地上に足を着ける。ああ、地面がこんなに安心するとは……。

 俺が一人で感動していると、いつの間にか元の姿に戻っているドーラが声を掛けてきた。

「……ふふっ、ユウ様~付き合っていただきありがとうございました~」

「ああ、大丈夫だよ……出来れば次は、もっと余裕をもって出かけられるようにしとこうぜ……」

「それは~、また付き合ってくれるって捉えていいんですか~?」

 俺は頭を掻きながら苦笑いしてしまう。……まあ、別に付き合っても問題ないだろう。

 そう考えていると、ドーラがフワフワと俺に近付いてくる。

 そして俺の耳元で呟いた。

「……私も~、なんにでも正直なユウ様が~好きですよ~?」

「……えっ!?」

 耳元で囁かれたくすぐったさと、恥ずかしさで俺の顔が赤くなっていくような気がする。

 ドーラを見ると、耳元で囁かれたばかりなので当たり前ではあるが、ドーラの顔がすぐ近くにある。妖艶に微笑むドーラも、頬が少し赤いような気もする。

「ふふふっ……ふ~~~」

「お、おい!?何耳に息吹きかけて……って熱うううう!!??」

 まるで熱風をかけられたかのような熱さに俺が悶える。

 勇者の俺に87のダメージ!!

「当たり前ですよ~、私はドラゴンですもの~」

 俺が耳を抑えて悶えているうちに、ドーラは笑いながら魔王城の中に戻って行ってしまった。

 そんな姿をぼーっと見送り、俺は自分の耳を撫でながら、今後もドーラに振り回される事が沢山あるのだろうと覚悟を決めることにした。


 最後まで読んでくれてありがとうございました。

 そんなあなたが大好きです。


 人間、窮地に追い込まれると意外と頑張れるものですね。それが常に出せれば良いんだけど……。

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