6話 あおいろっ!!
お疲れ様です。また来ました。
最後まで読んでくれたら嬉しいです。
「せ、先日は……申し訳ありませんでした……」
「いや、大丈夫だよ……うん」
魔王城に来て次の日の朝。俺の朝は魔王の謝罪から始まった。
「本当にすみません……自分でも分かってはいるのですが……寝起きがあまり良くないもので……」
「……ほんとだよ……あんな力があればそりゃあ人間側だって恐ろしいだろうよ……」
「うう……」
落ち込んだ魔王を見ながらそんな発言をする。寝起きでさらにイライラさせたら人間なんて簡単に滅ぼせるのではと考えてしまった。
「ゆ、勇者様、朝食を用意してもらっていますので食べに向かいましょう!私が案内します!」
慌ててそんな事を言いながら俺の手を引っ張る魔王。
ふと、ずっと引っ掛かっている事を言ってみることにする。
「なあ、その……勇者様って、やめないか?」
「え?」
魔王は首を傾げる。
「何故ですか?勇者様は、勇者様ですよ?」
俺は苦笑いをしながら頭を掻く。
「旅に出る前からなんだが、自分自身勇者の力を持っているって言われても違和感しかないんだよ。だから、俺の事を勇者って呼ばれるのは、若干抵抗があるというか恥ずかしいというか……」
俺が歯切れの悪い反応をしていると、魔王は少し考えゆっくりと話し始める。
「……分かりました、でしたら今度からは、ユウ様と呼ばせていただきますね」
俺は少しドキッとしてしまった。
魔王が小さく微笑みながら俺の名前を呼んでくれた時、なんとも言えないむず痒さを感じた。そしてもう一つの感情……。
「……やっぱり可愛いなお前……」
「か、かわ……」
魔王はまた顔を赤らめてしまった。昨日から思っていたが、魔王は褒められる事にあまり慣れていないのかもしれない。
「まあいいや、勇者様じゃなければ何でも良い……俺もお前のこと、魔王って呼ぶのは嫌だし、名前教えてくれよ」
「私の名前ですか……」
俺の質問に、魔王は返答に迷っているようであった。
なんだろう、何かまずい事を聞いてしまっただろうか……。
「その、私には名前は無いんです……」
「……え?」
魔王は困ったような顔をしながら続ける。
「私は魔王として生まれた存在であり、3従士の皆さんにとっても、魔王様は魔王様なんです。……それ以外に呼び名は無いんです」
「………」
どこか寂しそうに話す魔王に、俺は何と声を掛けて良いか分からなくなってしまった。
なんとなく気まずい……。
お互い無言で食堂に入ると、ケール達が出迎えてくれた。
「魔王様、おはようございます!」
「魔王様~、今日の朝ご飯はフレンチトーストにしてもらいましたよ~」
「……魔王様、殺戮ベアー達から分けてもらった蜂蜜もありますよ……」
「ふふ、みんなありがとう」
いつの間にかいつもの長にに戻っていた魔王が、笑顔で椅子に座った。
「……ほら、あんたも!ぼーっと突っ立ってないで早く座りなさいよ!」
ケールは立ち尽くしていた俺の手を引く。
俺はなすがままになりながら、魔王の隣に座った。
「な、なあ……」
俺はいたたまれなくなり、魔王に謝ろうと向き直った時、魔王は静かに笑いながら人差し指を口に当てていた。
「……今は楽しい食事の時間です……気にしないでください、ユウ様……」
「………」
俺は複雑な心境のまま、静かに食事を始めることにした。
「……それで、なんで私がこんな所に呼ばれているのよ……」
「いいだろ?ちょっと付き合ってくれよ」
俺はケールと一緒に魔王に教えてもらった訓練場に来ていた。
悩んだ時には無心で汗を流す。俺の気晴らしの方法の一つだ。
「3従士の中で一番武術に優れているのはお前だろ?俺の相手をしてくれよ」
「……言っとくけど、嘗めてかかると痛い目見るわよ……」
ケールはそういいながら構えを取った。
俺に向かって放たれるオーラが、ついさっきまでとは全く違う。
分かってはいたが、やっぱり3従士という立場はお飾りでも何でもないようだ。
俺も冷や汗を搔きながら構えを取り、ケールを見据える。ケールは俺に向かって一直線に走って来た。
その動きに対応しようとしたとき、ケールが3人に別れながら突っ込んできているような気がした。
俺はその動きから目が離せなくなり、体が固まってしまう。
そして、顔面、喉、鳩尾にけりを入れられた。しかも3発同時に。
「ぐげっ!!??」
カエルのようなくぐもった声を上げながら俺は後ろに倒れこむ。
勇者の俺に127のダメージ!!
チカチカとした視界が少しずつ元に戻る。視界が鮮明になった頃には、ドヤ顔のケールが仁王立ちしていた。
「ふふん、嘗めてかかるからこうなるのよ。私の強さ分かった?」
「あ、ああ……3人いなかったか?」
「気のせいじゃない?」
俺が問いかけると、ケールは鼻を鳴らし、何を言っているのか分からないといった仕草をする。最初は残像だと思った。でも、体に入れられたけりは明らかに3発同時であった気がする。そして何より、
「……3人とも、パンツの色が違ったけど」
「なっ!?」
ケールは真っ赤な顔でスカートを抑え込む。
俺は見間違えていないはずだ。ケール3人がけりを入れた瞬間、赤・青・黒のパンツをしっかりと目に捉えていた。
「……ちなみに、今俺の目の前に居るお前のパンツの色は?」
「こ、答えるわけないでしょ変態!!」
「ごふぅぅぅ!!??あおいろっ!!」
再度腹にけりを入れられる。その時俺の視界に見えたのは青色のパンツであった。
勇者の俺に58のダメージ!!
「ほんとに変態ね……なんであんたみたいなのが魔王様に好かれるのよ……」
ケールはスカートを抑えながら呆れたように溜息を吐いた。
そんなケールに対して、俺はとある疑問をぶつけてみる事にする。
「……なあ、魔王様って呼んだ時、あいつは何か反応はしないのか?」
「なにそれ?どういう意味よ……」
「お前はケールだ」
「そうよ」
「俺はユウだ」
「……そうね」
俺が言いたいことが分からないのか、ケールの首が段々と横に傾いていく。
「俺には名前がある、だからユウって呼んでもらえたら嬉しい……でも、勇者様って言われるのは、なんと言うか……むず痒い感じになるというか……」
「……つまりは何?魔王様の事を魔王様って呼ばない方がいいんじゃないかって事?」
「端的に言えばそうだな」
俺がそう言うと、ケールは腕を組んで唸りだした。
「そんなこと言われても……魔王様は魔王様だし……他の呼び方って言ったって、私達が勝手に決めるなんて失礼じゃない……」
「……私達が……決める」
そうか、その手があった!!なぜ思いつかなかったのだろうか!!
「それだケール!!」
「ふえっ!?」
俺は嬉しさからケールの手を握り、ブンブンと激しく上下に振る。
「名前が無いなら作ればいいんだ!!何でそんな簡単な事が思いつかなかったんだろう!!よし、今から3従士と魔王を集めて……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
俺が訓練場から離れようとしたところで、ケールに止められる。
「さっきも言ったでしょう!魔王様は魔王様なの!それに私達が名付けなんてしていい立場じゃ無いのが分からないの!?」
俺はケールの言葉を聞いて、思わず鼻で笑ってしまう。
「何言ってんだよ。これから人間と仲良くしましょうって計画を立てている奴らが、名前を付けて親睦を深めるという意義も分からないのか?」
ケールは俺の言葉に少しムッとした表情をする。
「……それに、純粋に魔王も本当は寂しんだと思うぞ……みんなが名前で呼び合っている中で、自分だけ魔王様って言われるのは……。俺は単純に、まずお前たちとも魔王とも親睦を深めたい、ただそれだけだ……」
俺がそう言っている間、ケールは黙って俺の話を聞いていてくれた。
魔王様という呼び方が、彼女にどれだけプレッシャーを与えているのだろうか。
俺だってそうだ。光魔法も使えず、勇者の剣も持てない。そんな中で呼ばれる勇者様という言葉は、俺の神経をジワジワと擦り減らしていた。
俺が昔の事を思い出していると、ケールは大きな溜息を吐いた。
「……分かったわよ……でも、魔王様がいらないと言えばそれまで!!それ以上は無理に追求しないようにして!!……約束よ?」
「ああ、約束する……ありがとう、ケール」
「……ふんっ」
ケールはそっぽを向いて訓練場から離れようとしていた。
その時、俺の背後から声が聞こえた。
「なんだか面白そうな事しているじゃない~い?」
「のああああああ!!??」
俺が反射的に距離を取る。どうやら後ろにいたのはドーラだったようだ。
ドーラは俺に小さく手を振りながらウインクをする。
「魔王様なら~、今は書庫でネーマと一緒に居るでしょうから~、みんなで向かいましょ~?」
「お、おう……というか、お前は反対しないんだな……」
俺がそう聞くと、ドーラがクスクスと笑い出す。
「当たり前じゃな~い?みんなが仲良くなれるチャンスかもしれないじゃないの~。これで魔王様の人見知りも良くなるかもしれないし~?」
「……ほんとにそうかしら」
ケールが不安げな声を発しながら歩き出した。俺もドーラも、その少し重い足取りにゆっくりと付いて行くことにした。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
そんなあなたが大好きです。
頑張るんで続きも読んでくだせぇ