5話 寝起き悪すぎだろ
やあ、おひさ。
やっと出せたよ。
最後まで見てくれたら嬉しいです。
「……すー……すー……」
ベットに運んだ後、ドーラが頭を優しく撫でていると、あっという間に魔王は子供の用に眠ってしまった。まるで母親のように寝かしつけてしまったドーラから、目が離せなくなっていると、声を掛けてくる。
「……あなたの聞いていた魔王とは、だいぶかけ離れていたでしょ~?」
「え?」
急な質問に間の抜けた声を出してしまう。そんな俺の姿を見て、ドーラはクスクスと笑っていた。
「……この子はね~、優しすぎるし~純粋すぎるのよ~……」
俺はドーラの話を黙って聞きながら、部屋を見渡す。
山の様に積まれた本と、大量のぬいぐるみが飾られているのが見える。
「……自分が生まれた時に、その理由を本能的に理解してしまうのは酷だと思うわ~……初めて私たちを見た時の顔も、絶望したような顔をしていたし~……したくもない事をしなくちゃいけないと思ったんでしょうね~……」
俺は話を聞きながら、何気なく一番近くにあった本に手を伸ばす。
俺には全く解読不能な文字がびっしりと書いてある。
「……魔導書か?」
「ああ~それはね~、魔王様が初対面の魔族たちと仲良くするために読んでいた魔導書~」
「……は?」
俺は魔導書を再度じっくりと見る。
……うん、さっぱり分からん。
「あっちにあるのが~緊張しなくなる魔導書~、そっちにあるのが~相手を不快にさせない会話の魔導書~」
「おいおい……なんか想像していたより魔導書って感じじゃ無いな……」
俺がため息を吐くと、ドーラは魔王の頭を優しく撫でる。
「この子はね~怖いのよ~……人間も、魔族も~……」
「………」
俺はドーラの近くに行き、魔王の寝顔を見つめる。
俺から見れば、小さな子供が眠っているようにしか見えなかった。
こんな子が、人間を滅ぼしてくれなんて言われたって、戸惑ってしまうのは当然なのかもしれない。
「……魔王様はね~、最初は私達3従士すら怖がって部屋から出てこなかったのよ~。それをケルちゃんが少しでもコミュニケーションを取ろうとしたり~、私が仲介に入ったり~、ネマちゃんがぬいぐるみを作ってくれたりなんかして~、少しずつ少しずつ~……私達だけには声を掛けてくれるようになったの~」
「……そうか」
まあ、そりゃあ3従士も戸惑うだろうな……。
どんな魔王が来るのかと思っていた矢先、こんな臆病な子が現れたんじゃ、まず仲良くなる所から始めなくちゃならないし……ていうか、ネーマってぬいぐるみ作れたんだな……すげぇ。
「だからこそ~、ケルちゃんだけじゃなくて~、私もネマちゃんもあなたに少し嫉妬してるの~」
「……え?」
「そりゃそうよ~?あんなに苦労して作り上げた信頼を~、あなたはいとも簡単に手に入れてしまったんだから~」
それは喜んでいいことなんだろうか……。
「だからね~許して頂戴ね~……あなたに当たりが強いのは~そういう理由もあるって事を~」
「……まあ、誇りにでも思っておくよ」
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
そこにケールが叫びながら部屋の扉を蹴り飛ばして入ってくる。
「良い!?あんたは勇者で、魔王様にとっては人間とコンタクトを取るためにちょうどいい存在なの!!決してあんたみたいな変態の人間性が認められたわけじゃないんだから!!よく覚えておきなさいよね!!!!」
ケールが大声で俺にそう言った。……涙目で。
本当にこいつは泣き虫だなと思っていると、ケールの近くにいたネーマが青い顔になった。
「……ケール、ほんとバカ……」
「……みなさん……」
俺の後ろから、ドス黒い気配を感じる。慌てて振り返ると、魔王が起きている。
……え、なんでこんな不機嫌そうなの?
「……せkっかう気持ちよく眠っているのに……騒いで邪魔をして……前回はまだ我慢できましたが……今回はそうも行きません……」
「お、おい、落ち着け!?そんな怒ることじゃないだろ!!ドーラ!?もう一回なだめて……」
そこで気が付いた、俺以外の3従士は、ネーマの魔法に包まれて部屋の入り口まで下がっていることに。
ああ、これは、また俺だけですか……。
「うるさいですよ皆さん!!!」
勅ぞ、魔王の周りに雷が落ちた。もちろん、俺も巻き添えを喰らう。
「あばばばばばばば!!!???」
勇者の俺に37のダメージ!!
……魔王、寝起き悪すぎだろ……。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
そんなあなたが大好きです。
……急な仕事って、一番嫌だよね、社会人だから仕方ないんだけどね……。