壁に開いた穴 ~マジ切れした弟は何よりも怖い~
たらこには弟がいる。
普段はとても大人しくて、口数が少ない。
小さな子供や生き物を慈しむ正しい心の持ち主。
虫も殺さないとはまさに彼のことを言うのだろう。
しかし、そう言う大人しい子を怒らせると怖い。
たらこは何回か本気で怒らせたことがある。
眠っている弟を面白半分でからかったことがある。
確かあの時、弟はまだ中学生くらいだっただろうか。
何をしてからかったかは覚えていない。
しかし、その時に弟が何をしたのかはしっかりと覚えている。
壁を裏拳で殴ったのだ。
壁がどうなったかは、タイトルにある通り。
穴が開いた。
ぽっかりと。
裏拳で壁に穴をあけるなんて、漫画みたいだけど、本当に穴が開いたのだ。
やべぇと思った。
たらこはやべぇと思った。
弟を怒らせたら、本気でヤバイ。
たらこなんて一撃で吹き飛ばせる。
それ以来、あまりからかわなくなった。
普段は大人しくて優しい弟なのだ。
でも……。
壁に空いた穴を見るたびにぞーっとする。
弟が怒ったら本気で怖い。
ただそれだけのエッセイなのだけれど、たらこにとっては衝撃的な出来事だった。
彼の名誉のために言っておくが、弟は普段は本当に大人しい。
そして……正しい心の持ち主なのだ。
弱い者の気持ちが分かる、優しい弟。
もう二度と怒らせたりはしまいと誓った。
……のだが。
その後、たらこは何度かやらかして、彼をマジ切れさせている。
大人になってからというもの、たらこも距離感をわきまえるようになったので、下手な真似はしない。
年長者ぶってお小遣いをあげたこともある。
年末に会うと、ちょっとだけお話をする。
でも子供のころのように素直にお話をすることはできない。
大人になってからへんな距離感が生まれてしまったのだ。
でも……それでいいと思う。
たらこが変な真似をして、彼をマジ切れさせることはもうないのだから。
……と思いたい。