その9 帰り道(Part. D)
「夜間警備で本当によかったんですか?」
「ええ。」
転送術士協会を出た後、暫くの間の宿を取り、その足で冒険者ギルドへ赴いた。
そしてそこで、ルーシェと共に坑道の夜間警備の依頼を受けた。
ギルドを出ると、外で待っていたハーミアとライトが寄ってくる。
メンバー全員が合流した。
「ガイアスタンピードを倒すとあっては、新参者の立場では目立って面倒です。鉱山に近づく正式な理由が得られたことと、あの魔物を倒すという依頼が現在ないことが分かったことが今回の収穫でした。」
「討伐依頼はなかったんですか?」
買い物かごを抱えて歩く主婦や、仕事帰りの埃まみれの鉱夫、走り笑う少年達。
夕暮れ時のメインストリートには、住民たちの日常が溢れていた。
ハーミアの質問には、そんな夏の道々を歩いて答える。
「この街の人々は彼らに助けられている部分もありますからね。相当増えたり、好んで人を狩る個体でも現れたりしない限りは、依頼は出ないのかもしれません。でも大丈夫、鉱山に近づくことさえできれば、何とかできますから。」
そう言ってルーシェを安心させていると、別の通りとぶつかった。
見上げれば、品の良いアーケードに『宝石通り』と書かれていて、ぽつぽつと常夜灯の暖かな灯が、遠く通りの向こうまで並んでいた。
大小様々に並ぶ看板には、私でも知っているような宝飾店の名も散見される。
上等なレンガ敷きの通りには、多くの個人用の馬車が停車していた。
「流石に通りに名のるだけあって、宝石を扱う店が多いですね。」
「わあ…♪」
煌びやかな雰囲気に歓声を上げたハーミアの瞳が、キラキラと輝く。
まあ、宿の方向にも合っていますし、良いでしょうか…。
せっかくだから、この道を通っていこうかと提案すれば、満場一致でOKが出た。
その9 終
ひとこと事項
・自然の恩恵
古い巣穴という天然の坑道を授けてくれるガイアスタンピードは畏怖・崇拝の対象ともなる共存相手であり、人の味を好む個体が現れた場合や、繁殖が進み過ぎた場合にのみ、外部に討伐依頼が出される。