その7 出立(Part. D)
ゴルトシュタットへの出発の日に、再び第5支部へとやってきた。
出発までの数日間、下調べのため図書館に籠っていたので、日の光が目に痛い。
とはいえ十分な成果が得られ、気持ちは明るかった。
戸を開ければ、渋い顏、にやけ顏、緊張顔をしたいつもの面々に迎えられる。
「先生。ハミ坊のこと、くれぐれも宜しく頼んだよ。」
渋い顏は眉をひそめて、念押しをしてくる。
それ以上のことをしないのは、少しは信頼してもらえている証左だろうか。
にやけ顔は柔らかに立ち上がると、奥の転送陣へとゆっくり進む。
どうやらこの日は、オリヅルが我々を転送してくれるらしい。
「メンバーが揃ったみたいですね。こっちはいつでもいけますよ~(^^♪」
今回の任務は納品であるため、わざわざ徒歩で目的地に行く必要はないという。
その代わり、転送陣に置かれたリュックを持って行かなければならない。
中には石の転送アイテムが詰まっていて、運ぶのに大変難儀した。
奥へと歩けば、途中でルーシェに緊張する教え子とすれ違う。
「お、おはようございますっ…先生。よろしくお願いしますっ;」
「ええ、よろしく。」
彼女自身は軽装に見えるものの、確認せずとも今回も保有術で準備は万端だろう。
ライトは彼女の鞄の中なのか、姿は見えない。
「ディアスさん、おはようございます!よろしくお願いしますっ!」
「こちらこそ。頼りにしていますよ、勇者殿。」
「あはは…;」
一番奥にいたルーシェは、元気な声の後に、ちょっと困ったように頭をかいた。
陣に入れば、皆も後に続いて、オリヅルが丁寧に詠唱を始める。
「いってらっしゃ~い、良い旅を!お土産は宝石細工でよろしくで~す♪」
ひらひらと手を振る術士に見送られ、光に包まれる。
と、次の瞬間にはもう別の協会の陣にいて、あちら側の術士達に歓迎された。
到着の後の事務処理を済ませている間に、教え子はもう一往復してゴルトシュタットへの行路を覚えた。
その7 終
ひとこと事項
・サービス詠唱
丁寧に術式を組むことで成功率を上げたい場合や、いかにも代金を払った感を出したい場合には、無詠唱ができる術士でも敢えて詠唱を伴うことがある。転送術士協会では、基本的にはこれらの理由から、顧客を送る際には丁寧な詠唱を心がけるよう指導している。




