その6 寛ぎながら(Part. L)
「うわぁ…(๑ºдº๑;)」
依頼を受けた夜のこと。
整えられたベッドの上で丸まると、部屋の主が図鑑を眺めて青ざめた。
やっとスタンピードがどんな魔物か分かったようである。
「足がいっぱいだね。それに、人とお話できるくらい頭も良いのもいるみたい。」
「知らんでディアス達の話を聞いておったんか(=゜ω゜=;)」
道理でディアスの話を聞いても落ち着いていたわけだ。
図柄を見つつも紅茶を淹れる様子は、肝が据わっておってこっちが驚く程である。
カップを手に、ベッドの脇のローテーブルに座るハーミア。
「…でも、鉱夫さん達と持ちつ持たれつな魔物なんだね。」
ガイアスタンピードは、強靭な顎と毒で龍の鱗をも砕き、岩盤に巣穴を穿つ。
そんな彼らの捨てた巣を元に、ゴルトシュタットでは鉱山を開設するという。
コラム欄にも目を通しながら、なるほど、と頷いている。
図鑑を閉じて、ちょっとごろごろ。
自分もちょっと眠って起きれば、机に小石が並べられていた。
ゴルトシュタットからの依頼品を作るのだろう。
個々に転送術を込め、“M”に似た文様を彫りこめば、転送アイテムが完成する。
“M”は“エオー”という、古代の来訪者が伝えた文字。
“馬”や“移動”を表す文字らしく、中に込められた魔術の識別のため、この不思議な文字を転送術士達は利用していた。
「中々器用じゃのう。石の彫刻は骨が折れるのに、良い出来栄えじゃ。」
「えへへ♪昔からママのお手伝いをしてきたからね!」
転送アイテムは、転送術さえ込めてあればそのように分類される。
ただし、何に術を込めるか、どれ程の性能をもたせるかで、その姿は多様である。
術を込める対象は、冒険者が転移を意識しやすいよう鳥類の翼に魔術を込めたり、耐久性を求めて石に込めたり、持ち運びやすさを求めてカードに込めたりする。
性能に関しても、使えば屋内から最寄りの屋外に転移が働くのみのものから、自身の脳裏に浮かんだ場所まで飛んでいけるもの、使い捨てであったり複数回使えるものであったりと様々である。
現在作っているものは、ゴルトシュタットの鉱夫たちへの支給品。
使い捨てで、使えば鉱山の外へと出られる、耐久性に優れた石製の廉価品である。
丁寧さを忘れない少女の姿に、ちょっとほっこりした。
その6・終
・ハーミアの部屋
スコラ・リンデの近くにあるワンルーム。キッチン・トイレ・シャワー付き。
・M(エオー eoh)
ルーン文字の1つ。馬や変化、移動、等を示す文字らしい。Mの字に似ているが、中央のVの部分の尖りが浅い。
・転送アイテムの性能
性能が良すぎると、コストが嵩むだけでなく転送術士自体の存在が危ぶまれる。このため転送術士協会では、3回以上使用可能なアイテムの作成を原則として禁じていた。
鳥の羽を模した転送アイテム…何か思い当って下されば嬉しいです。
世の中には色々な性能の転送アイテムが存在していますね!
お読み下さりありがとうございました!




