その4 正体(Part. D)
「邪龍ブロセルニルを倒したいんです。ご協力願えませんか?」
協会の奥の応接室で、ルーシェと対座する。
すると早速、受付での明るさを沈ませて、彼が用件を述べてきた。
邪龍が第三王女の命を狙っているらしい。
彼の希望で周囲は空間術で遮断され、部屋の外に音が漏れることもない。
めかしこんでいた教え子がいきなり蚊帳の外なのが何より不憫で、その後の風当たりの方が、邪龍よりも恐ろしかった。
「ディアスさんは…来訪者ですか?」
「…大活躍なあなたの方が、よほどそれらしい気がしますが…?」
「…。」
沈黙が訪れて、彼は探るようにこちらを見つめる。
来訪者とは、異世界からこの世界にやってきた者、という定義でしたっけ…。
彼らがもたらす深い知識や高い技術は、この世界に多大な影響を与えてきた。
ハーミアの座右の銘なども、その遺産の一つでしたね。
特筆すべきは、冒険を重ねる中で急成長する来訪者の潜在能力の上限の高さ。
その能力を活かし、世界の在り方にまで干渉しかねない程とされている。
などと思い出していると、彼がやっと堰を切る。
「いいえ…残念ですが、僕は来訪者ではありません。もしそうであれば、奇跡的な力で王女様をお救い出来るのに…」
青年の瞳に宿った炎が、悔しさでふらりと揺らめいている。
誰かを助けたいという、強く透き通ったその意志は、歴代の勇者達に列席されるに十分な輝きを秘めていた。
こちらとしては、どうお断りするべきか、そもそも依頼の受諾に何の益があるのか。
当初頭にあったのは、その二つだったのだけれども…
世界の敵の名に、こんな真直ぐな真心を見せられては、困りましたね…。
まあメリットの方は、無いなら自分で作るしかありませんか―。
「…私はその専門性からアンデッドに強い魔術が使えただけです。ですから専門外の魔物に有効な手段は持ち合わせておりません。」
「そんなっ―!?」
「でも。」「-っ!?」
悪い龍を段階的に倒す算段ならありますよ、と告げてみた。
その4 終
ひとこと事項
・邪龍ブロセルニル
世界の各地を荒らし回り、何でも喰らう、数ある有名な龍族の中でも暴龍の筆頭格に数えられる魔物。知能が高く、それゆえプライドも高い。何度も討伐隊を送り込まれた経緯から、特に王家との確執は根深かった。
・ハーミアの座右の銘(前作 転送術士候補生 その2 より)
すべての日々がそれぞれの贈り物をもっている
ominis habet sua dona dies. Marcus Valerius Martialis, Epigrammata




