その22 帰還の際に(Part. D)
目的を果たしたので、王都へ帰ろうと協会を訪れた。
すると別れを惜しむ声がずいぶん強く、暫く送別会状態となった。
どうやら顔を出していない間に、教え子は職員達と相当仲良くなっていたらしい。
道理でジェローム・フランツでの割引率が高かったわけである。
彼女は皆にもらった青い石を見せたりしている。
「ゴルトシュタットの方々は、皆パワフルですねえ…;」
「うむ…;」
喧騒から距離を置き、私はライトと時間を潰す。
ゴルトっ子達の好意は本当に凄まじかった。
無料で天球儀石をくれてやれというとんでもない勢いを店主の代わりに止めたのは、偶然本店から視察にきていた現当主、ジェローム・フランツIV世本人。
彼は群衆に耳を傾け、賛同しつつも、自分達にも必要な取り分があるとを訴えた。
そうして大きな割引率を提案しながら、見事に事を収めてみせた。
加えて、杖の加工も彼の王都支店で割引して行うことを提案し、更なるサービスを演出しながらも、その手数料とやらを私に確約させた。
宝飾店側を不憫に思っていた私から、結果的に中々の料金をせしめたのだ。
そのやり手な経営手腕が、実に良かった。
回想を終えても、まだハーミアの送別会は終わらない。
協会での騒ぎを離れて見つつ、ライトと共に儀式が終わるのを待つ。
「…ルーシェたちは、無事邪龍を討伐できそうかや?」
「万全でしょう。」
あれだけ準備をしたのだから、と答えると、もし万一が起きたなら?と問われる。
「もし勇者が討伐に失敗したら、次はお前さんが行くのかや?」
「…。」
傍観者を決め込む答えを口にしようとして、少し息をのむ。
彼らの笑顔が、思い浮かんでしまったからである。
逡巡していると、はあ、と犬がため息をつき、かぶりを振る。
「酷な質問をして悪かったのじゃ。」
「いえ…。」
「まあ今は、彼らが無事任務を果たせることを祈ろうなのじゃ。」
そうですね、とつぶやけば、少しの沈黙。
それを壊してくれたのは、めちゃくちゃになって帰ってきた教え子だった。
王都へのお土産もこれでもかと渡されている。
「せんせぇ…、お待たせしました~;」
「はいはい、涙とか拭いてください;」
そうして我々は、ついに今回の帰途に就いた。
その22 終
ひとこと事項
・ジェローム・フランツの災難
ディアス達は自分たちだけで資金を用意しようと計画を進めていたが、現役の転送術士の意見も得ようとステイシア達に秘密裏に相談したところ、ちゃきちゃきのゴルトっ子達の猛烈すぎる支援を受けることとなった。




