その20 餞別(Part. D)
あれから私達は宿に帰り、食堂で一人晩酌に預かっていると、討伐隊の勇者と小鳥がやってきた。
龍特攻の武器を有し、実力的にも成長した勇者。
一族の恨みを晴らすため、再び世に戻ったガイアスタンピード。
あとは、こっそり教えたブロセルニルの弱点。
これだけ揃えば大丈夫でしょうか。
「グ…いや、生命術士よ。」
「私は…」
名前については緘口令を布かせてもらったものの、職名についても死霊術士だと直そうとすれば、小鳥に読まれて返される。
「命に寄り添い、それを復元する奇跡も、それを弄ぶような、よからぬことに使われてしまう。技術は無色、初心は輝きを放っておっても、気づけば変わり果ててしまうものか…。」
その言葉は、自分にはどうにも否定できそうにもなかったので、話題を戻す。
「…もう出発するのですか?」
「はい!いつブロセルニルが姫を襲うか分かりませんので。」
「…世話になった。」
「お互い様ですよ。…勝ってきてくださいね。」
勇者の一行に餞別代りに一袋のアイテムを渡す。
それは夜間警備用に配布されたワープアイテムの内、うちの教え子が作ったもの。
「数は限られていますが、品質は保証します。頑張ってくださいね。」
「あの娘にもよろしく伝えてほしい。夜食、ムカデの口にも合った、とな。」
「ええ、お伝えします。」
討伐隊はアイテムを受け取ると、少女を思い出して幾分緊張を緩める。
それから彼らはテーブルに置き土産を残して、朝日を待つことなく宿を発った。
その20 終
ひとこと事項
・夜間警備用のワープアイテム
ディアスは日々の夜間警備でのワープアイテム配布の際にハーミアが納入したものを見抜いて選び、それを使わずにとっておいたようだった。




