その16 実戦(Part. D)
「シャアアッ!!!」
数百年の恨みを晴らさんと、ガイア級の大ムカデが龍となった私に飛び掛かった。
轟音と激震が周囲に走り、周囲の草原が土色に削り取られる。
勇者の方は状況についてこられずに、土埃の中で佇んでいる。
「ルーシェ、これで私に向かって来なさいっ!傷はいくらでも治りますから―!」
「!?…はっ…はいっ!!」
ダウゼンの体を蘇生した際に理解した毒の成分。
これをエンチャントとして、ルーシェの剣に付与する。
旅の目的が1つ果たされた瞬間である。
対龍特別装備となった剣を取ると、彼も戦う理由を思い出す。
今回、ダウゼンに出会えたことは幸運だった。
当初は、この辺りに眠るガイアスタンピードの遺骸の回収のみを想定していた。
それができれば、彼の武器に対龍用のエンチャントができるし、私がこのように龍となって修行をつけてやれば、万々歳といった予定だったのだ。
しかし彼は数百年、ここでブロセルニルへの復讐の火を灯し続けていた。
その甲斐あってか、蘇生した体に意識を戻すことにも成功した。
ルーシェにとっては、彼の存在は大きな助力となるだろう。
…あとは目の前で腰を抜かしている教え子ですね。
「ハーミアさんは転移で避け続けなさい!ライトは援護をっ!!」
「ひいっ(>_<;)!!」
「聞いてないぞこんな修行っ-(ʘωʘ)!!」
私の声に、ムカデが首を振ると毒液が教え子たちの方にも飛び散る。
ライトを抱いて、慌ててその場から転移するハーミア。
散々追い回したせいか、回避が上手になりましたね。
「グワァアアアア!!」
「うおおおおおおっ!!―何っ!?」
「えいっ―!!」
ムカデの体を伝って隙を突き、こちらの懐へと武器を振るうルーシェ。
が、固い鱗に剣は弾かれ、そこへこちらからの追撃を受けそうになったところを、間一髪、転送術で助けられる。
「…本番にはハーミアさんはいませんよっ―!」
「は、はいっ―!!」
こうして猛特訓が始まった。
蘇生や治療を伴う休憩をはさんで、それは七晩行われた。
その16 終
ひとこと事項
・夜間警備のごまかし
修行の間、ディアスは彼とルーシェに似せた精巧な2体のアンデッドを作成し、この夜間警備を行わせた。




