その15 役者が揃う(Part. H)
最初は先生と勇者様を鉱山の街にお連れするだけのはずだった…。
でも、気づけばダウゼンさんも交えた修行をすることになっていて、ついでに死霊術の知識が甘いと、先生に怖い教科書の宿題までもらってしまった。
警戒はしているけど、言葉が通じるからか、ライ君も大きくは反対しない。
落ち込みながら連れていかれると、坑道の近くで先生たちが止まった。
「さて、このあたりでしたよね?」
「ああ、ではやってくれ。」
ダウゼンさんの宿る鳥と会話をしながら、先生が魔術を展開する。
きっとこのあたりに亡骸があるんだね。
黄緑色の光が地面を包むと、学校のプール位の大きさのムカデが現れた。
あまりの大きさに、虫というより、龍をみるような荘厳さ。
彼は身をよじって体の具合を確かめると、満足そうに唸る。
「流石、生命術士といったところだな。」
「…今は死霊術士と呼ばれていますが。」
「死霊…?“文化”とは、最も恐るべきものなのかもしれぬな…。」
ダウゼンさんの話は出会ったときから難しすぎて、先生達が授業でいかに私達にも分かりやすく伝えようとしてくれていたのかがよくわかる。
「まあその話はまたいつか、ということとして…今は修行を始めましょうか…。」
先生はぽつりとそう言ったかと思えば、再び魔術陣を周囲に展開する。
空間術・・・かと思ったけれど、あれ?それだけじゃない…?
あまりの術式の複雑さに、何だろうと思案していると、突然周囲が暗くなった。
そしてすぐに、夜が深まったのではなく、自分が何者かの陰に入ったのだと分かる。
「(๑°ㅁ°๑)」
見上げればそこには、ダウゼンさんぐらいに大きな青い龍が立っていた。
総毛立つ、ならぬ、無数の総足立つ、巨大ムカデ。
「ほう…我の前に龍種の姿を現すとは、良い度胸ではないか…!!」
「ご存知ありませんか?勇者の家庭教師は、ドラゴンになって教えるものなのですよ―!」
来訪者がもたらした知識だと、先生の声で龍が笑う。
危険を感じたので、慌てて近くに転移した。
その15 終
ひとこと事項
・生命術士
ダウゼンがディアスの魔術を見て、それを扱う職について述べた名称。
・空間術
いわゆる都合の良い空間を作り出す魔術です。転送術士候補生I 詳細はその7をご参照ください。
・勇者の家庭教師が龍になる
…名作リスペクトということで、転送術士候補生II その6のワープアイテムの形状と共に、様々なマスターピースに思い当たって下されば嬉しいです♪




