その13 お手伝い(Part. H)
「アイテムできました!」
「…うん、手際が良いし、質も良いね!」
ゴルトシュタットへ来た翌日のこと。
この日私は、この街の転送術士協会で再び転送アイテムを作っていた。
昨日渡した物の評判がよかったので、追加で作っていたのだ。
実は先生もルーシェ様も、夜間の任務で疲れていて、今は眠っている。
ライ君もちゃっかり協会のソファで眠っている。
名目上、先生は確か私の修行でここへ来ているはずだった。
だから私が何もしていないのはまずいかと思い、エーレンツァ支部長に相談した。
すると先生がこの支部のお手伝いをするよう指示した、ということになった。
アイテムを褒めてくれたのは、支部員のステイシアさん。
お子さんが5人もいるそうで、旦那さんは鉱夫らしい。
上の子は私くらいだそうで、それだからか、何かと優しくしてくれていた。
と、受付から声が聞こえてくる。
「王都5支部行きが3人ですっ!」
「ああ、じゃあハーミア、やってみるかい?」
ちょうど私の所属している支部へのお客様が来たので、任せてもらえるみたい。
緊張するけど、慣れていかなきゃだと思い、はい、と返事をして受付へ駆ける。
「担当させて頂くハーミアと申します。よろしくお願いいたします。」
「おう、随分若いねーちゃんだな!」
「今は研修中なんだよ。変なとこ飛ばされたら、自力で戻ってきな!」
「えええっ!?ま、間違えませんからっ(๑°ㅁ°๑)!!」
「うははは!任せろいっ!」
おじさん達はニカニカ笑って、転送陣へと入ってくれる。
ステイシアさんが入ってくれたおかげで、心を許してくれているのがありがたい。
こういう方が、術も効きやすいから、転送も失敗しない。
「それでは、いってらっしゃいませ―♪」
頭の中に、第5支部の転送陣を思い浮かべてこの場と繋ぎ、魔力を通す。
すると次の瞬間、冒険者さん達は光に包まれて、その場から消え去った。
少しして、オリヅル先輩の字で書かれた転送完了のメモが届いた。
上手に転送できたことに、ゴルトシュタットの皆も褒めてくれる。
そんなこんなでお手伝いで駆け回る一日だった。
その13 終
ひとこと事項
・ステイシア
転送術士協会ゴルトシュタット支部の職員。生粋のゴルトっ子で、切符の良いハキハキとした性格。ハーミアに自分の修行時代と子供の姿を重ね、何かと力になっている。
・精神抵抗
強い精神抵抗は、戦闘中であれば、相手の術による不利な魔術を跳ねのける原動力となる。しかし味方の術にも抵抗がある場合には、支援魔術も効きにくくなってしまうおそれがある。
転送術の場合、例えば馬車の乗客が思い切り暴れると、最悪目的地に着かなくなってしまうように、転送術も相手に精神抵抗があると、うまく術が効かない場合がある。
このため協会では術の安定的な行使に繋がるように、術士は転送対象との信頼関係を深めることに努めるべきだと教えている。




