その1 支部の日常(Part. H)
「ようこそ王都へ!ご移動お疲れ様でした♪」
ある夏の日の午後に、転送術士の見習いの声が響く。
ここは王都の転送術士協会第5支部。放課後の私の手伝い先である。
「おう嬢ちゃん、一瞬だったな!今日もご苦労さん!」
「ありがとうございます(๑ㆁᗜㆁ๑)」
強そうなおじさんが豪快に笑って、肩をボンボン叩いてくる。
衝撃にバウンドしかけつつ、控えを預かり受付へ持って行く。
チェックするのは眠り顔な先輩、オリヅルさん。
控えには、いつ、どこからどこへ、どんな目的でここへ来たのかが書かれている。
ハンコをもらって冒険者様にお渡しすれば、受け入れ業務は完了だ。
「冒険者様…良い旅を~!」「良い旅を!」
「おう!またな!」
大きな背中を二人で見送れば、協会は静けさを取り戻す。
先輩が事後の事務処理をする、紙がペラペラっとする音が聞こえる。
冒険者様、かあ…。
危ない依頼を担う頼もしいその言葉に、以前出会った勇者様の背中を思い出す。
王国の英雄となったあの人は今、どこで何をしているのかな?
なんて、そんなことを思った矢先のことだった。
当の本人が突然協会を訪れたのは。
「あの…ここにスコラ・リンデの学生の、ハーミアさんっていますか?」
幻かと思いました。
その1 終




