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レスバトルで俺を『童貞』だと罵ってくるアカウントの正体が俺にベタ惚れな彼女

作者: 竹箇平J


 世界の有象無象が一堂に会する、ソーシャル・ネットワーキング・サービス。


 人々が自己の存在証明として利用するこのアプリは他にも社会的ネットワークの構築や愚痴の書き込みや時間潰しであったり色々で、某国の大統領に至ってはプロパガンダの発信として使っていたりするのだが……。


 そんなSNSの片隅で、一つ、深海に潜むように静かに語るのが俺だ。


 誰に投げ掛けるわけでもなく、ただ自分の理念、思想……そう言ったものをポロリとこぼす、シュモクザメのアイコンが俺のアカウントだった。


 タイムラインには、裁判の議事記録が流れていた。

 俺は今日もたまたま目に入った、世の中で起こった出来事に対して、自由に書き込みをする。



ふかひれ @fukahiro - 21:02

やり捨てられたキャバ嬢は可哀想だけど、元々は合意のあるSEXだったはず。

今回の裁判の争点も「合意があったかどうか?」であり「現場の会話記録が存在しない」ではなかったし、女性側が勝訴したのは不自然。高裁では逆転するだろうね。



春奈クリス @HarunaChristine - 21:03

は?



 即レスが付く。

 まぁそれはいいとしても、これから1分以内に30人の相手から()()()()()()()が付けられるのだ。

 まったく堪ったものではないのだが、これはいつもの事なので俺は全部スルーする。

 さて、拡散やブラボー通知も無視して待っていると、コイツは5分後に続けてリプライを送ってくるのだ。



春奈クリス @HarunaChristine - 21:08

「合意なき性行為」があったから、刑事事件で有罪になったんでしょ?

って言うか、このクソキモアカウントは今まで生涯の中で行ってきた性行為を、「全て合意の上でした」と立証するつもりなんでしょうかぁ~?

後になって、女性が心変わりしても立証できる?

自分が出来ないクセに人に要求すんな、ダブスタ乙~



「これは、また酷い内容だな……」


 俺は途方も無く呆れて一人ごちるのだが、その理由は後で説明しよう。

 取り敢えず俺はコイツが言わんとしていることを拾いあげた上で、言い負かすことにする。



ふかひれ @fukahiro - 21:14

そもそも、推定無罪の原則から考えれば「合意があったか、無かったかを証明する方法が無い」を立証すれば十分なんですよね。検察の仕事は手抜かりのないものだと前提した上で、現場に会話記録は残された事実は無いとしているのだし、後出しジャンケンを認めてはいけないと考えてるので、高裁では逆転勝訴になるかと。



 推定無罪というのは、簡単に言ってしまえば「どんなに疑わしくても、有罪だと確定されるまでは無罪として扱う」という、推理モノではお馴染みの基本原則(ルール)のことだ。

 もう少し耳慣れた言葉を使うなら、証拠不十分という奴だ。



春奈クリス @HarunaChristine - 21:16

きんもー☆ 

皆さーん、ここに今日のオモチャがいますよー!(笑)

つまりこの人、女性が身を守りたかったら常に会話を録音しとけとでも主張するつもりなんですかねぇ~w



ふかひれ @fukahiro - 21:18

それは曲論であり極論ですね。

論点を逸らして個人攻撃に移るのは止めてもらっていいです?



春奈クリス @HarunaChristine - 21:24

うわっ! 何か上手い事言えたと思ってドヤってる勘違い童貞www

でも童貞扱いはさすがに可哀想なんで、止めておきましょうか(笑)


きっと将来、合意の無い性行為を前に、録音機器が無いかを確認しちゃうチキン男なんでしょうねぇ~?

その後、どっちにしろ有罪になっちゃうんでしょうねぇ~うわっ、スッゴイカワイソwww



ふかひれ @fukahiro - 21:32

合意があったかどうかなんて、会話を録音でもしてない限り、他人に真実など分かる話では無いですよね。だから俺は「録音機器は現場には存在しなかった」という事実を証明するだけで「合意が無かったから有罪だ!」という主張は折れるモノだと思っています。皆さんはどう思いますかね?



 俺は周囲に問いかけるように呟くが、それ以降は見る気が失せていた。

 元の呟きはわずか30分で既に3000の拡散と5000のブラボーで通知欄は埋め尽くされ、春奈クリスの取り巻き達による俺への誹謗中傷が最早可愛く思えるような、論点のすり替え議論があちらこちらで勃発してしまい、とても相手になどしていられなくなっているからだ。


 この分だと、一日で2万拡散と5万ブラボーは付いてしまうだろう……



「今日も飽きずに大喧嘩(レスバトル)、か。全く、俺も好きなものだよな」


 などと愚痴って見せるが、本当はこんなのに付き合う必要があるとは君達も思うまい。そう、これは仕方なく相手にしているのだ……。


「全く……変わった人間だよ、お前はな」


 俺はSNSのアプリを閉じて、電話帳から何度も呼び出した番号をコールする。

 すると、受話器はすぐに取られた。

 電話を掛けた側のマナーとして、先に喋り始める。



「もしもし」

「もしもし、ヒロくん?」


「あぁ。もうすぐ月末だけど、そっちに行けそうなのか?」

「あっ……えっとね……うぅん……無理かも……」


「じゃあ、今月はこっちに来るんだな?」

「うん。そーするー」


「了解。待ってるよ」

「ヒロくん優しい~~好き~~!!」


「はいはい、そうですか」

「すぐ会いに行くね?? ちゃんと愛してよね??」


「はいはい、待ってるからね」

「……!」


ブツッ!


 俺は電話を切る。

 会えばどうせ歯の浮くような台詞をウンザリするほど言わされるのだ。

 電話口までサービスしていては、精神が持たなくなる。


「全く……変わった人間だよ、春奈(はるな)はな」







 今月は4月なので、月末は30日までだ。

 その末日の昼頃に俺の幼馴染でもある彼女、三好(みよし)・クリスティーン・春奈(はるな)は電車に乗って東京まで会いに来ていた。


「久しぶり、ヒロくん。会いたかったよ~」

「いらっしゃい」


 俺の住んでいるマンションの玄関口に一人立っている三好・クリスティーン・春奈はその名の通りのクオーターで、イギリス系の血が混じっている。


 髪は小学生の頃から見慣れた金髪で、瞳も淡いライトグリーンの色合いをしている。

 肌もきめ細かく、鼻立ちも少々高いから、これでもし耳が長かったら絵に描いたようなエルフになってしまうのだが、非現実的な雰囲気を醸し出しているその華奢な体つきを見れば、もう十分にファンタジーに住まう存在であることは疑いようもないと言える。

 ただの一般人なら目を惹き付けられてしまう、近寄るのも遠慮してしまいそうな冗談みたいな容姿なのだが……現実にはただの人間なので、甲高いソプラノで話す彼女と会話も出来るし、その柔肌に触れることも許されている。

 三好春奈(みよしはるな)は、俺の彼女なのだから。


「一か月ぶりだな」

「え~? いつも一か月ぶりじゃん!」


「まぁ、上がれよ」

「ただいま~!」


 春奈はマンションこそ我が家と言わんばかりに元気よく声を出すと、ずかずかと廊下を歩いて行ってしまう。


「じゃあ、早速シャワー借りるね?」


 そしてすぐさま風呂に突撃してしまった。


「まぁ、分かってたけどな……」


 俺は既に諦めの境地にいる。

 この女は、俺と寝るためだけに会いに来ているのだ。


 春奈は実家が京都で、俺は同じ地元から大学への進学を決めて東京に移り住んでいる。

 彼女はしきたりの厳しい家に母と二人で暮らしていて、母との折り合いを付けながら、俺との交際を認めてもらっている状態だ。

 つまり遠距離恋愛をしていて、一か月に一度しか会えないのだから……要するに、春奈は()()()()()()()()


「そして俺もそれに合わせるように溜める生活をしているんだから、世話ないよな……」


 なんだかんだで俺も、この交際関係を受け入れてはいるのだった。





 まもなくして、春奈はシャワールームから出て来たようだった。

 その肢体をタオルで拭いてはいるものの、肩からは湯気が上がり、髪はまだしっとりと水気が残っている。

 Tシャツ一枚の姿で居間にやってくる姿は何とも言えないほど艶めかしい……。


「じゃあ、さっそくヤろう!」

「お昼ご飯を作ってくれないか?」


「お腹を満たすより、先に心を満たさないと私もう耐えられない、脱ぐ……」


 そう言うと早速Tシャツの裾をめくってしまう。

 春奈の小ぶりな胸が露わになってしまうのだが……俺は自制の効く人間なのだ。


「お前には恥じらいというモノが無いのか、三好・クリスティーン・春奈?」


「えっ……?

 ヒロくんの前だから、そりゃ恥ずかしいけど……

 私がお願いしないと、絶対してくれないよね、深海(ふかみ)(ひろ)くん?」


 俺をフルネームで呼び返して来る春奈。

 俺の名前は、深海(ふかみ)(ひろ)と言うのだ。


「お前の性意識の低さだけは何とかしたいと思ってるんだけどな……」

「えー? ヒロくんも好きでしょー、エッチするの」


「簡単に股を開きすぎると言っている」

「ヒロくん以外の男に開く訳ないじゃん!

 信頼されてないから、傷付くやつぅ……」


「それで、お昼ご飯だが」

「ただいま~♡ お風呂は終わったから、次はベッド(アタシ)よね♡」


 どうやら今日も俺のことが好きで堪らないらしいとのことで、俺の言葉などただの愛情確認でしかないようだった。無駄な抵抗なのは、実は分かってる……。


「はぁ。お前が浮気をするなんて、微塵も思っていないから安心しろ」


「ヒロくん……!! きゅん、きゅん、きゅん……!!」

「意味の分からない効果音を出すな、ほら、ベッドに来いよ」


「うへへへ~お邪魔しま~……あれ?」


 これから汚すベッドの傍まで春奈は来ると、そのベッドを見据えるように建てられた三脚に気付いたようだった。三脚にはハンディ・ビデオカメラが取り付けられていて、ボタンを押せば8時間程の録画機能を発揮してくれる物だ。


「今日は趣向を変えようと思ってな。

 AVの撮影みたいだろ?」

「えっ……今日のエッチ、映像に残すのマジ……?」


「あぁ」

「…………」


 春奈は、長い沈黙に入る。

 そう、これは先日のSNSでのやり取りの、ささやかな意趣返しである。

 

 「春奈クリス」は超特大ブーメランの使い手で、自分で身体を何度も俺に差し出しているにも関わらず、人を童貞だと散々馬鹿にする、狂ったアカウントなのだ。

 そして今さら説明するのもなんだが、未だに信じがたい面もあるだろうから改めて説明すると、


 「春奈クリス」が「三好・クリスティーン・春奈」で……。

 つまり俺こと「深海尋」が「ふかひれ」という訳なのだ。



(なにそれすごく興奮する……)と、春奈が小さくつぶやく。

 聞こえてるっての。


「や、優しくしてね……?」

「……ッ!」


 その言葉で、俺もスイッチが入った。

 まぁ、心では「お前から性行為に合意してどうするんだ」とツッコミを入れながらも、俺は力強く、春奈をベッドに押し倒した。

 これは小さな復讐なのだから、”合意のあるSEX”になど、してやる必要は無いのだから。






――――。


 何度したか分からない腰打ちを終えて、俺達は最後に身体を絡め合っていた。

 世間的にはピロートークと言うのだが、どうにも馴染めない言葉だ……。


「好き……レイプしてくれるヒロくんめっちゃ好き……♡」

「人聞きの悪い言葉を使うなよ……」


「だって、これって()()()()()S()E()X()だったじゃん。

 そこのビデオカメラが証明してくれますぅ~!」

「……!」


 俺は驚いた。

 何故なら、S()N()S()()()()()()()()()()()()()()()()


「春奈、お前……」


 俺達の間では、SNSの話題をしないのは暗黙の不文律だった。

 世間体を気にしなければならない「三好・クリスティーン・春奈」としての京都でのお嬢様学校での生活と、三好家での息の詰まるであろう母との生活……その二つが「春奈クリス」という人格を創り出して、そして俺の前だけでは思いっきり甘えるという「三好春奈」……彼女は三つの仮面を完璧に使い分ける人間だと思っていた。これは、どう言えばいいのか……。


 俺がまごついていると、失言を察した春奈が先に答えた。


「あっ……ゴメン、SNSの話したら不愉快だよね、ゴメン、ヒロくん。

 今のは忘れて? もうしないから、許して……」


 ここで「いや、別にいいよ」と答えるほど俺も馬鹿ではない。俺の平穏な生活のためなら、いずれ聞かねばならないことだ。SNS上の”春奈クリス”は、俺のメンタルを削る存在でしかない。

 だから彼女の取り巻く環境を考えたら不憫ではあるのだが、ちょっとメンヘラの気質がある春奈との今後の夫婦生活を考えたら、ここで下手(したて)に出るのは愚かな行為だろう?

 という訳で、不文律を破った春奈に全力で乗っかることにする。


「いや、別にいいよ。でもこれで、俺も有罪でムショ入りだな……」

「わぁ~~ヒロくんのこと訴えないから!! 訴えたりしないから~~!!」


「こんな可愛い子を無理やり犯したクソキモ野郎は、大人しく警察に自首することにするよ。

 春奈、今まで好きでいてくれてありがとう」

「うぇ~~~なんでなんでなんで!?!?

 ヒドイこと言っておいてなんだけど、私だって、冗談だって分かってるからぁ~~~!!!」


「……」

「……冗談、だよね……?」


 これぐらいで良いだろうか。

 少なくとも、俺のささやかな復讐心は満たされたのだから。


「ちゅっ」

「ヒロくん……♡」



 そうして春先での逢引きは終わって、五月の頭になる。

 三好春奈は始発の新幹線に乗る為、俺のマンションにその姿はすでに無く、テーブルの上には白ご飯、味噌汁、目玉焼きと、昨日の残り物の総菜が並べられているだけだった。

 きっと今頃は三好・クリスティーン・春奈としてのお嬢様生活に戻っていることだろう……。

 俺には勿体ない女だ。

 だけど、俺にしか相手に出来ないとも思っている。


「全く……変わった女だよ、春奈はな」


 俺は彼女の用意してくれた味噌汁を啜り、また一か月後に会うのを楽しみにしながら、また深海へと潜るべく、SNSのアプリを立ち上げるのだった……。



読んで頂きありがとうございます。


短編ですが評価ポイントの反応良ければ数話は書くかもしれません。

評価と出来るならブクマもよろしくお願いします。

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スミレとマリーゴールド。
百合小説を連載中です。

異世界エクストリームエアセッション!
スキーのライダーが異世界に転移します。 こちらは完結済みです。
― 新着の感想 ―
[一言] 結局なんでレスバトルしてんの??
[良い点] ベッドの上で大炎上! ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ [一言] \(´°v°)/んぴッ さわちぃに飛ばされて来ました、二遠たくです! ヨロ(`・ω・´)スク!
2020/08/29 11:57 退会済み
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