交易都市アルザード
その後俺はシアンが持ってきた禁書からいくつかの上級闇魔術を練習した。いい加減ダークブラストで全てを解決するのも飽きたからな。
その後俺たちは森を出て、交易都市アルザードへ向かうことにした。
街では指名手配のような感じになっている俺たちだったが、街の外ではいたって普通の旅になった。まあ、聖水に難癖をつけただけなら、街から去れば追ってくるほどのことではない。
賊は俺たちに倒されたということをきちんと教会に報告したのだろうか。もっとも、ミスリルゴーレムを倒したほどの人物であれば生半可な追手を出しても返り討ちに遭うだけなので、そのことが知れ渡れば逆に追跡しづらいかもしれないが。
「そう言えばお二人はアルザードには行ったことがあるのか?」
道すがら、アンドリューが尋ねる。
「いえ、私は時々薬草などを摘む以外リエールから離れたことはないですね」
「実は俺は……」
そう言えば俺はシアンにもただの冒険者としか名乗ってなかったな、と思いこれまでの人生について語る。
父と母については名前を伏せ、単に暴虐な幼馴染の元から逃げて来た、という風に改変はしたが。
「俺に負けず劣らず激動の人生を送っているようだな」
アンドリューは感心し、
「まさかそんな……せっかく自由になれたのにこんなことになってすみません」
シアンは少し申し訳なさそうにする。
「いいんだ、この状況をどうにかしないといけないっていうのも俺の意志だからな」
「ということは、オルク殿は剣技も出来るのか?」
「いや、出来るというほどではないが……結局あいつには負けっぱなしだったしな」
「とはいえ、十年も修行を積んでいる以上ある程度は出来るだろう。俺もずっとアンデッドになっていたから体はなまっている」
そんなことを言いながらアンドリューは剣に手をかける。
「おいおい、こんな街道のど真ん中でやることではないだろう」
相変わらず剣には忌避感があったので俺は助けを求めるようにシアンを見る。するとシアンは無邪気な笑みを浮かべて言った。
「はい、オルクさんがミスリルゴーレムを一刀両断にしたときの剣技に感動してしまいました」
「いや、一刀両断になんてしてないんだが!?」
そう言えばシアンは空気が読めないみたいなこと言ってたな。だが、目の前のアンドリューはやる気満々だしある意味空気は読んだのかもしれない。
「ほう、ミスリルゴーレムを一刀両断に? これは楽しみだな」
アンドリューも根っからの武人気質なのか、嬉々として剣を抜く。ちなみにこれは森に残っていた賊の遺体から回収した剣である。
仕方ないので俺も剣を抜く。街道の真ん中でいきなり真剣を抜いて斬り合おうとしている俺たちに奇異の視線が注がれる。せめて竹刀とかが良かったんだが、そんなものはない。
「お手柔らかに頼む。絶対寸止めにしてくれよ?」
「大丈夫だ。これでも腕に自信はある」
数か月間アンデッドになっていた奴が言っても何の安心感もないんだが。
「大丈夫ですよ、生きてさえいればヒールしますので」
シアンはフォローのつもりで言っているのだろうが、生きてさえいればどれだけ傷を入れてもいいと言われているようで嫌な気分になる。
剣を抜いて向き合う俺たちだが、アンドリューはさすがに歴戦の武人らしく、堂に入った構えをしている。
ただやはりブランクが長かったからか、エルナに比べると迫力がない。長引いても良くないし、適当にこちらから斬り込んでカウンターで終わっておくか。
俺は軽い気持ちで一歩踏み込むと、剣を振り降ろす。
アンドリューはそれを見てさっとかわ……そうとするのだが、なぜか動きが遅い。俺は何とか力を加減して剣を振り降ろす速度を緩める。そのため、俺が手加減したというよりは俺の剣をアンドリューがすっと避けたように見えた。
俺は内心首をかしげながら、今度は最初から緩めた速度で剣を振り降ろす。アンドリューは再びそれを間一髪で避け、さらに避けた動きそのままで突きを繰り出してくる。彼の動作に無駄や無理はなく、きれいな剣筋ではあるのだが、なぜか遅く感じる。何ならそれを回避してカウンターを繰り出すことが出来そうですらあったが、病み上がりで本調子でないアンドリューに勝つのも大人気ないか。
結局、避けきれなかった風を装った俺の胸元でアンドリューの剣がぴたりと止まる。
「ふむ、なかなかやるな、意外と本調子だったから良かったのだが、もしなまっていたら負けたところだった」
ん? 今のは本調子だったのか?
てっきり病み上がりだから動きが鈍いのかと思っていたが。
「はい、武将であるアンドリューさん相手にここまで戦えるとはすごいです」
シアンも無邪気に感心してくれている。もしや、俺が手加減していたことにすら気づかれていないのか?
「さすがアンドリュー。全く敵わないな」
結局、俺は色々な疑念を飲み込んでその場の雰囲気に話を合わせたのだった。
その後俺たちは、アンドリューの武勇伝やシアンと貧民街の人々の交流、俺のエルナに対する愚痴など、お互いの境遇についての他愛もない雑談に花を咲かせながら街道を進んだ。
しかしこうして歩いていると、剣士のアンドリュー、聖女のシアン、魔術師の俺、とまともなパーティーみたいな構成になってきているな。ずっとエルナの支配を受けて来た俺からすると涙が出るような境遇である。
その後俺たちは間の小さい街で一泊し、その翌日の夕方にアルザードが見えて来た。
アルザードに近づいていくと、砂漠の民の衣装をまとった商人たちや、亜人と呼ばれる耳長のエルフやずんぐりむっくりのドワーフなど様々な者たちが歩いているのが見えてくる。
「おお、砂漠の民もエルフもドワーフも初めて見た」
「はい、世の中は広いのですね」
俺とシアンはそれを見て素直に感動する。
「確かに観光に訪れる分にはいいところだが、実際住んでみると異種族同士の文化の違いなどがあって大変らしい」
唯一この街についての前知識があるアンドリューが解説する。
「そうなのか?」
「ああ、例えばエルフは森の木を伐ると怒るから、アルザードには土の家と石の家しかないらしい」
ちなみにアルザードは他の都市と違い、城壁のようなものがないので外からでも中の様子を伺うことが出来る。
確かに見た感じ木の家はなく、レンガや石造りの家が多く、テントで出来た露店のようなものも多く並んでいる。
「なるほどな」
「あ、これ可愛いです」
シアンが露店の一つで売っている、木彫りのクマを指さす。
「ああこれね、お嬢さん可愛いから安くしておくよ」
店主と思われるエルフの男性がすかさずシアンに売り込もうとしている。
「え、か、可愛い?」
普段あまり言われてないから動揺しているが、シアンは十分可愛い。俺はわざとらしく咳払いする。
「すいません、先に用件ですよね。……また後で来ますね」
一瞬店主が刺すような目でこちらを見てきたが気のせいだろう。




