表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

【幕間】 エルナ Ⅱ

 その後私は街で何人かの人に聞き込みをした。まだ日が変わってなかったこともあり、ルクスのような人影が辺境の方に向かって馬を走らせていたという目撃情報があった。


 とはいえそれが分かったのはもう日が暮れたころ。私は仕方なくその日は家で寝て、翌朝早くに辺境に向かって出発した。


 私は馬を走らせながら考える。辺境と一口に言ってもたくさんの都市がある。

 そこでふと疑問に思う。そもそもルクスは辺境に行って何をするつもりなんだろうか。私と稽古していた時は魔法がどうとか言っていたから、やはり魔法を学ぶのだろうか。

 何で私と稽古しているのに余計なことを考えているのか。そんなんだから全然上達しないのではないか。そう思った私は腹が立ってきた。思い出し笑いならぬ思い出し怒りである。


 今頃ルクスは己一人の無力さを実感して後悔していることだろう。しかしここまで私を怒らせたからにはただで許す訳にはいかない。罰としてはとりあえず折檻だろうか。それとも土下座して二度とこのようなことはしないということを誓わせようか。


 そうだ、それよりもルクスがどこへ行ったかだ。見つけた後にどうするかは後で考えよう。

 この先にある都市なんていくつもない。そして魔法を勉強するならそれなりの大都市に行くだろう。この先の主だった都市と言えば冒険者が集まる都市サニス、辺境伯の拠点リエール、交易都市アルザードなどがある。


 一般人がいきなり魔法を勉強しようと思えば本を読むか冒険者に習うのが手っ取り早いような気がする。

 腹立たしいことにブレスレットを売り払ったのならお金はある程度持っているだろう。である以上この三都市の冒険者ギルドと図書館を当たるのがいい。


 まずサニスに赴いた私は冒険者ギルドと図書館と宿で聞き込みをした。しかしルクスのような人は来ていないということだった。

 もう少し粘ろうかとも思ったが、他に探す当てもない。時間が経つほど探すのは難しくなるということもあり、私は人相書きだけ残して次の都市リエールに向かった。


 そしてその勘は当たった。

 リエールに向かっているときだった。

 遠くの、別の街道をルクスが歩いているのが見えた。街道同士は随分離れているし、遠くを歩く人影は豆粒ほどにしか見えないのに、なぜかルクスのことだけはしっかりと認識出来た。これが愛のなせる技だろうか。


 私は思わず彼に駆け寄ろうと思ったが、途中で彼の隣を見知らぬ女が歩いているのに気づく。見たところ黒い修道服をまとっている。ということは結局ルクスは冒険者になって見知らぬ女とともに冒険しているということだろうか。


 許せない。


 私は体の奥から憎悪の炎が燃え上がってくるのを感じた。あの女が何者かは知らないが、どうせ私より魔法が使えるということはないし、私の方が剣も使える。それにわざわざルクスに稽古をつけてあげるほどの面倒見もある。

 それともルクスは私の元から逃げ出したのを後悔して、私の面影を求めて聖女とパーティーを組んだのだろうか。それなら絶対に許せないということはないかもしれない。


 すぐにルクスの前に出て行こうとしてふと気づく。彼らは冒険者になっているということは何かの任務の途中なのだろう。どうせルクスは私がいないと何も出来ないのだろうから、魔物にでも襲われて苦戦しているところに私が颯爽と出ていく。これが美しい流れではないか。


 そう考えた私は近くの森に身を隠して様子を伺うことにした。森に近づいていくとたまたま賊みたいな奴が棲みついていたけど、邪魔なので剣で一閃する。本当につまらない雑魚だった。ルクスのことは弱いと思ってたけど、こいつの剣の腕はルクスの一割にも満たないだろう。


 二人を見守るはずが森の方に近づいて来たときは多少驚いたけど、もっと驚いたのは森の中から賊がわらわら出て来た時だった。

 最初の数人をルクスは魔法で簡単に撃破する。驚くべきことにルクスは魔法が使えていた。が、なぜか闇魔術だった。


「は? 闇魔術を使うなんて剣聖になるのを諦める気?」


 それを見た私は激怒した。闇魔術は極めていく過程で人としてよろしくない魔術を習得する可能性もあるため、闇魔術師はどれだけ剣を極めても剣聖になることが出来ない。特に死者蘇生など一部の高位闇魔術は禁呪に指定されているところすらある。

 別に魔法剣士や黒騎士と呼ばれるクラスになることは出来るけど、私は二人で聖女と剣聖になるという夢を否定されたようで不愉快だった。


 そんな私の感情を無視して目の前ではさらに出来事が進んでいく。

 数人の賊が倒されると、さらに数十人の賊がわらわらと森から出て来るし、森の中から謎のミスリルゴーレムまで現れる。

 何なんだこれは、絶対にただの賊ではない。私はこいつらの正体に疑問を覚えたが、この際どうでも良かった。この謎の集団の前には多少闇魔術が使えようが勝つことはないだろう。その時こそ私の力を示して誰がルクスにふさわしいか教えてやるのだ。私はいざという時にルクスを守れるよう防御魔法を準備して見守る。


 が。


 女の魔法で雑魚の攻撃を防ぎつつ、ルクスは圧倒的な闇魔術と剣技によりあっさりとゴーレムを倒してしまった。


「嘘……何あれ」


 あの五メートルの黒い球は一体何だったのだろうか。どうしてルクスにあんな魔力が。そしてあんなに無能だったルクスが剣でゴーレムを倒した? この私すら倒せなかったのに? しかもあの女とのコンビネーションは遠目から見て悪いものではなかった。


 ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない。

 ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない。

 ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない。


 あのルクスが私抜きであんなに強いなんて。


 私は急に目の前が真っ暗になるような気持ちになった。そんな時だった。


「もしかして教会の聖女様ですか?」


 急に賊の一人に声をかけられる。何で賊が聖女に声をかけるんだ、と私は疑問に思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ