最終回
それから数日後、私の病室は随分と賑やかになり、たくさんの子供達の声が響き渡っていた。
「お姉ちゃん、今度この本読んで」
「ずるい!こっちの本も読んで!」
茜ちゃん以外に、数名の子供達が各々持ち寄った本を読んで欲しいと私にせがむ。まぁまぁとなだめてあげて、私は順番に本を読んでいった。
「はーい。みんな診察の時間よ。お部屋に戻って」
一通り読み終わったタイミングで、看護師さんが病室へとやってきた。子供達は返事をし、私に「バイバイ」や「またね」と手を振り、自分の病室へと戻っていった。
再び訪れる静寂。また、寂しさが私を襲ってきた。
「随分人気者になったわね」
「えぇ。けど、一人になると寂しいです。さっきまで、あんなに騒がしかったのに……」
「楽しそうでよかったわ。先生も、そろそろ退院できるだろうって」
「そうですか……」
入院してどれぐらいが経ったのかわからない。感覚的にはもう一年ぐらい経っているようにも感じる。
実際は数週間くらいしか経っていない。
「また、お父さんと一緒に暮らせるわね」
「……そう、ですね」
「あら、嬉しくないの?」
そういうわけではなかった。ただ、父とは血の繋がりはない。いわば赤の他人だ。私なんかがまた一緒に暮らしたいなんていっても迷惑なだけな気がする。
そのことを看護師さんに話すと、なぜかクスリと笑みをこぼした。
「そんなことないわよ。お父さん、貴女が眠っている時、お仕事あるのに毎日来てたのよ」
「え……」
県外に仕事に行っている父が、私のために毎日わざわざ帰って来ていた。その事実は、今初めて聞いた。
「目を覚ましてからもずっと。本当は、あの日何があったのかも聞きたかったみたいだけど、どうしても聞けないって」
私は、シーツを強く握った。
その後も、看護師さんは言葉を続けた。
もし言って、自殺でもして私まで死んでしまったらと、随分悩んでいたらしい。だけど、食事をとるようになったり、子供たちに読み聞かせをしていること知って、すごく喜んでいたと。
私は奥歯を噛み締めて、必死に泣くのを我慢した。
「血が繋がっていなくても、お父さんにとって貴女は、大事な娘なのよ」
……………
………
…
「そしたらね、お母さんがびっくりしたの」
「ふふっ、そうなの」
その日は、茜ちゃんだけが私の病室に来ていた。楽しそうに自分の部屋であった出来事を身振り手振りを入れながら話してくれていた。
コン、コン
不意に、誰かが扉をノックする。私はそれに返事を返すと、二人の男性が病室へとやって来た。私は、彼らが誰かすぐに察した。
「失礼します。狩沢十華さんですね」
「……茜ちゃん、悪いけお部屋から出て行ってもらっていいかな?」
私の言葉に、彼女は「え?」と驚いた顔をした。私はこの人たちと大事な話があるからと言えば、あたふたしながら私と男性たちを交互に見た後、小さく頷き、そのまま病室を出て行った。
しばらくして、男性の一人が軽く咳払いをする。
「我々は……」
「わかってます」
誰かはわかってる。どういう要件で訪ねて来たのかもわかってる。全部、全部わかっている。
「それはつまり……」
「全て、ちゃんとお話をします」
ねぇ赤音、私も行けるかな。ひどく醜く汚れた私でも、貴女がいた、真っ白な世界に。
全部を償えば、私はまた真っ白な心に戻れるかな……
【完】




