もしファンタジー的に高性能な嘘発見器が近未来で普及したら。
「なぁ、これがない時代ってどんな感じだったんだろうな」
彼が私に、これ、と言って指差したのは腕時計。誰もがつけている嘘発見器内蔵モデル。
「正直、200年も前のことなんて全然想像つかないわ。でも突然どうしたの?」
「教科書だと嘘発見器の発明で世界中で混乱が起こったーみたいなことが書かれてるけど、どれだけ嘘まみれの世の中だったんだろうって」
「んー、確かにそうね」
「気になったからアイでちょっと調べてみたんだけどさ。信じられないようなことばかりでよくわかんなくなってきたんだよね」
「信じられない?」
「例えばさ、政治家が何か言い訳するときに『記憶にございません』とか『秘書がやりました』って言っておけばなんとかなるとか」
「なにそれ? 憶えてないとか、自分がやったんじゃない、誰かのせい、とか義務装着前の子どもじゃないんだから」
「そうやったあとは病気でもないのに入院とかしてほとぼりが冷めるのを待つんだってさ」
「それもおかしな話ね」
「信じられないよなぁ。あとは捏造っていうの?国家レベルで余所の国の有りもしない悪評でっちあげたり、難癖つけて喧嘩売るのが当たり前だったとか、全然理解できない話ばっかりだ」
「そんなことをして何の得になるのかしら?」
「失敗を隠すためなら、そうしたい気持ちはわかるんだけどな。ソースのサイトには傲慢とか、嫉妬、虚栄心、見栄とか書いてあった」
「見栄ならわからなくもないわね。あなた、話はとっても面白いのにチラチラ時計が赤くなるんだもの。話盛ってるってすぐわかっちゃうわ」
「そ、それは赤くなることも含めてのネタだから!」
「うふふ、そうね」
彼の名誉のために時計がほんのり赤くなったことには触れまい。
「嘘発見器自体はこの時代にもあったみたいだけどね」
「あら、そうなの?」
「ああ、だけど警察とかでしか使われてなくて、一般市民が身につけるようなものじゃなかったようだ。昔の小説に自分に嘘つく登場人物がやたら多いのはそのせいかな」
「自分に嘘?」
「誰かのことが好きなのにそれを誤魔化したり、気づかないふりをして暴れたり?」
「なんで疑問形なのよ」
「つんでれ?っていうらしいんだけどね。内心描写ですら、『あいつのことなんて大嫌い!』とか書いてあって、いやいや絶対それ嘘だからみたいな」
「難しいのね」
「自分の気持ちは嘘発見器のせいで嫌というほどわかるからね」
「ふぅん」
チラっと彼の顔を見る。
「何か変なこと考えてないか?」
「私は忘れないわ。勘違いで告白してきたのは誰でしたっけ?」
「ちょ」
「私、脈ないなって思ってたのよ」
好きになったのは私のほうから。
だけどこの男ときたら、憎からず思う、が惹かれていることを示すと知って、たまたま当時それなりに仲が良かった私を思い浮かべて、憎く思ってない、つまり私のこと好きなんだって思い込んで
「あぁもう! いいか、改めて言うぞ? 何度だって言うぞ! 好きだっ」
彼の嘘発見器は反応しない。何度か交わされたやり取りだけれど、二回目以降は沈黙を守るソレに自然と胸が暖かくなる。
「私もよ」
ちなみに個人的な願望も含めてこの近未来では、食料生産やインフラ系統はほぼ機械化されており、AIは人間の処理機能を完全に上回ってしまっているため、小学生、中学校の義務教育期間において道徳の授業の比率が上がっています。
さて、現実にそんな嘘発見器が普及したらこんなほのぼのとした関係は構築されるのでしょうか?