少年と外の世界
それから毎日のように、少女の元には、少年が訪れた。
『おまえ、ほんとうに生きてるんだよな』
手にパンをもって訪れた少年は、パンを知らない少女に驚いたように目をみはった。
おまけに、食事など口にしたこともないというのだから、少年は少女が生きているのかすら怪しく思えた。
『この扉のそばにいたら、おなか、空かないから』
そう言った少女に、少年は、そうなんだ、と納得したような、納得がいかないような思いで頷いた。
『パン、食べてみるか?』
少年が、パンを少女に渡す。
少女は、おそるおそる口にパンを運ぼうとして、扉を見た。
扉は、こちらをじっと見ているような気がする。
それが何を意味するのか少女にはわからない。
『食べても、いいの?』
扉に尋ねるように聞くと、扉は、かすかに揺れてくれて、少女はそれでやっと安心できた。
『……おいしい』
はじめて食べたであろうパンの味。
少女の顔には、自然と笑顔がこぼれた。
『だろ? ちゃんと食ったほうがいいって。外には、パンのほかにもいろいろあるんだぜ』
自慢気にいう少年の横で、少女は、かみしめるように、パンを食べていた。
少年は、気に入ったみたいでよかったよ、と少女の横顔を見ながら笑ってくれた。
『その時は、君も一緒に食べてほしいな』
少女は、小さく扉に向かって呟いた。
少年は、誰に話しているのだろうと奇妙に思っていたが、それを口に出すことはしなかった。
『明日も来るから』
少女は、うん、と小さくうなずいて少年を見送った。
壊れた扉のそばにいると感じるものとは違うぬくもり。
それに、少女は少しずつ惹かれつつあった。




