恋心
二人は、少年の家で暮らすことになった。
少年の両親は、壊れた扉と少女を温かく迎え入れてくれた。
少女は、温かい生活に驚いたようにしながらも、とても幸せそうだった。
その日、少女は、ごく当たり前のように、壊れた扉の手を握りながらすごしていた。
少年としては複雑な気分だった。
扉とはいえ、今は人の姿を取っているのだから。
そして、それは少女としても同じだった。
扉ではない、人。
いつもとは違う壊れた扉の姿に、戸惑いとは別の思いが音を立てた。
『いつもは安心するのに』
不思議そうに呟いた少女の頭を壊れた扉は、撫でてくれた。
少女は、その行為に、自然と頬が染まった。
『僕のこと、意識してるんだね』
少女は、壊れた扉の言葉に、そうみたい、とうつむいた。
壊れた扉の人の姿は、少女の恋心をいやに刺激した。
少し前までは、外の世界からやってきた少年に想いを募らせつつあったものの、少女の世界の一番は、いつだって壊れた扉だったから。
『ディナ、僕のことを好きになっていいんだよ』
少女は、何かが押しつぶされるような気持ちになりながらも、こくりとうなずいた。
少年は、そんな二人の様子を伺いながら、ため息をついた。
『俺だって、ディナが好きなのに』
少年は、勝てないな、と泣きそうになるのを上を向いてこらえた。




