1st color
隣のクラスの山岡遙は成績優秀、運動神経抜群の文武両道タイプだ。
どんな女の子にも、先輩後輩関係なくモテモテで、先生達からの評価もちゃっかり得てしまっている。それでして特定の”彼女”という関係を作らない、この完璧さ。
沢山の女の子を相手にしたいタラシなのか、はたまた単に女の子を拒絶するのが苦手なシャイなのか…その本性は未だ謎である。
自分から声を掛けたり、手紙やお菓子をあげたり出来る程、積極的ではない地味で静かな私も、実は彼に想いを寄せていた。私には、周りの女の子たちのようなグイグイさはなく、こっそり、ひっそりと彼を見ているしかなかった。
そんな事を考えていた、ある日の放課後のこと。
「あの…」
誰かが私に話しかけてきた。
後ろから聞こえる透き通った声、うっすら香るナチュラルな匂い…
(間違えない…彼だ。)
”彼”だと気づいてしまった瞬間から、私の心臓は今にも弾けてしまいそうなほど早く脈打っていた。
高鳴る鼓動を抑えようとするが、それは叶わず、私はそのまま彼の方を向いた。
「これ、落としましたよ?東雲さん」
彼が差し出した手の中には私のハンカチがあった。いつの間に落ちたのだろうか、などと考えていると、彼が私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですか?東雲さん」
ハッと我に返り、彼の顔を見ると私の目だけを見ていたせいか、つい目が合ってしまった。私は自分の心臓が1回だけ強く脈打つのを聞き、その場から立ち去った。