ゲーセン
4月中旬。すっかり春らしくなってきたが、今日は曇り空。おまけに風もあって4月にしては寒い日。
お天気予報の人は『お出掛けする人は寒さ対策をとってください』と言っていた。
そんな今日、私は黄道12宮の皆さんと買い物に出掛けようと意気込んでいた。 本当なら晴天の方が買い物日和だったのだが、3日ほど前から決まっていたのだ。3日前に見た天気予報では今日は晴天だった。
しかし見てくれ、この雲によって灰色となっている空を。雨が降る心配がないのは救いだ。
つい先程、黄道12宮の男性陣が着替えを終え、外で待っている。続けざまに女性陣も着替えを済ませ、今カメラに収めようとする所。 全員がいつもの制服から私服に着替え、装身具で着飾っている状態だ。
白と黒のノースリーブブラウスのトップスに色素の薄いブリーチデニム。ノースリーブブラウスの上にはロング丈のトレンチコートを羽織る魚座のピスキスさん。
「なんだかワクワクするわね」
頬を赤くさせて笑うピスキスさんをカメラに収めると、私は他の黄道12宮に目を向ける。
ピスキスさんの横でクルクル回り、きれい目ワイドパンツを少し靡かせる乙女座のバルゴ。 トップスの白Tシャツと羽織っているレザージャケットはあまり靡かないが、それでも姿見に映る自分自身を見ては微笑んでいる。これまたカメラに収める私。
視線を別方向に向けると、私のベッドで座りながら服に対する感想を言い合っている蟹座のカンケルと山羊座のリコルさん。
黒Tシャツのトップスに、ボタニカル柄という鮮やかな花があしらわれた膝下丈のスカート姿のカンケル。
黒地に黄色のロゴは入っているトップスとベージュ色のカーゴスカートを履いているリコルさん。
「カンケル、こんな綺麗なスカート初めてー。すごいね!」
「うん、カンケル可愛いよ」
「リコルもかわいいよー。この文字なんて読むの?」
「うーん……分かんない!」
キャッキャアハハと楽しそうに話している2人をカメラに収める。
残り2人の牡牛座のウルさんと蠍座のスコルさんはベランダにいる。
七分袖の白のレーストップスに茶色のワイドパンツを履いているウルさん。胸元のリボンを気に入っているようだ。
白地に黒のロゴが入っているトップスと、その上に花柄のガウンを羽織るスコルさん。 黒のスキニーパンツを履くスコルさんは私よりも足が細い。羨ましい限りだ。
「雨は降らないって言ってたけど、大丈夫かな?」
「うん、ちょっと心配だね」
「傘持ってった方が良いのかな?」
「私、琴羽に聞いてみる」
どうやら空模様に心配しているようだ。
私がカメラを構える前に、スコルさんが私の所に駆け寄ってきた。
「傘、持ってかなくて大丈夫?」
「大丈夫だと思いますよ」
スコルさんは「そっか」と、再びウルさんの所に戻っていった。その2人の後ろ姿をカメラに収める。
「よっし、おっけ」
カメラを鞄に入れると、私は玄関でブーツを履く。ワタが近寄ってきた。
座り込んでブーツを履いていた為、私の腰辺りに顔や体を擦り付けてくる。
「あー、ワター。アハッ、毛が凄いよ」
パタパタと叩いて毛を落とすが、きっと目の届いてない所はまだ毛が付いているのだろう。
「ワタ、出来るだけ早く帰ってくるからね。お土産買ってくるね」
そういって頭を撫でてあげると、ニャッと短く鳴いてグルルルと甘えてくる。
おもちゃを買ってあげよう。
「皆さーん、行きますよー」
部屋に向かって声を投げると、「はーい」と誰かの声と共に足音が近付いてくる。
満足げに笑う私はドアノブに手をかける。
私は、チュールスカートを靡かせながら男性陣が待ってるであろう場所に向かう。アパート横にある共有の庭スペースはかなり広く、11月に皆で雪合戦をした場所である。
「おまたせしましたー」
男性陣をベンチに腰掛けて話したり、走り回ったりしていた。
「遅いぞっ。どれだけ待たせるつもりだ」
「もーレオさん、女の子は支度に時間掛けるものなんですよ」
私に対して反発的な態度を取るレオさんも、大好きなピスキスさんの服装を見たらたじろぐはず。
「こら、駄目よレオ」
「なっ……」
ほらね。
「……なかなか良いじゃないか」
「あら、そう? ありがとうレオ」
赤くなった顔を見せないようにピスキスさんから顔を背けたレオさん。
「みんな、可愛いじゃないか」
タリウスさんは正直に感想を述べる。それに1番顔を赤くしているのはバルゴだった。
「琴羽も可愛いぞ」
「ありがとうございます」
今日の私はちょっとだけお洒落にしてみた。
お気に入りのパーカーにデニムジャケットを羽織っている。灰色のチュールスカートで女らしさを出して、いつもは履かないブーツを履いている。 ちょっと足がスースーするけど、『お洒落は我慢』っていうし。
「待たせてしまってすみません」
「いや、気にするな。女は支度に時間が掛かるのだろう?」
タリウスさんはレオさんに聞こえるように言う。
レオさんとは違い、タリウスさんは分かっているようだ。
「どっかの誰かさんと違って、タリウスさんは優しいですね」
タリウスさんは笑いながら、私の頭を撫でる。
早速私がいつもは行くショッピングモールに向かう。
「そういえば、琴羽はお金大丈夫なの?」
「そうだよ。俺達の服だけでも結構使ったでしょ」
私を先頭に歩いていると、後ろから顔をひょっこりさせてきた天秤座のリブラと水瓶座のアクア。
「大丈夫だよー。ちゃんと少しずつ節約してたし、今月はこの日の為にあまりお金使わなかったからね」
昔からの節約家なのか、物欲があまりないのだ。今月も、食費以外に掛かったお金は少なかった。
お陰で、姉妹の中で1番貯金があったりする。
「そっかぁ」
「だからね、皆でゲーム楽しもうかなって思ってるんだよ」
「おぉ、やろうやろう!」
「楽しみだね、アクア」
楽しそうに話す2人は手を繋いでいる。
カンケルとお揃いでボタニカル柄のハーフパンツを履いているアクアと、スコルさんと同じ黒のスキニーパンツを履いているリブラさん。
なんだか兄弟のように見えてくる。
七分袖のトップスとスキニーパンツ、上着にステンカラーコートを羽織っている兄と、オレンジ色のトップスとカーキ色をベースにしたボタニカル柄のパンツを履いている弟。
20分程歩くと見えてきた大型ショッピングモール。
「皆さん、あそこです」
「おっきいねー」
「ねー」
手を繋いで歩いていたゲミニとカンケルが感想を述べる。
少しでも近くで見ようと私の前に駆け寄っている2人。そんな2人の後ろ姿は双子のようだ。
背格好も同じで、おまけに今日はお揃いの服を着ている。同じボタニカル柄のスカートとパンツが余計に双子のように見えてしまう。
手を繋いでいる2人の後ろ姿をカメラに収めると、再びショッピングモールに向かって歩き出す。
大型ショッピングモールといえど、やはり黄道12宮の皆さんを連れていると狭く感じてしまう。
他のお客さんの邪魔にならないように、3人や4人のグループに分かれて歩くことにする。
私を先頭に、リコルさんとスコルさん、アリエスとウルさんが後を着いてくる。
「前にピスキスと行った時に遊んだゲームとかやりたいね!」
「そうだね、簡単なのならいいんだけど」
「スコルは何でも出来るから大丈夫だよ!ね、ウル」
「そうだねー、でもアリエスも以外とコツとか覚えれば出来るよね」
聞こえてくる声に耳を傾けながら私は目的の場所に向かう。
時折、後ろを確認しながら歩みを進める。
私達と少し間隔を空けて歩いてくるのはバルゴと手を繋ぎながら楽しそうに話をするカンケルと、リブラさんに手を繋がれて走らないようにしているアクア。
内容は分からないが、きっと面白い話題でも上がっているのだろう。
そのまた後ろを間隔を空けて歩いてくるのはタリウスさんと手を繋ぎながら興味津々なゲミニと、良さげな雰囲気を醸し出すレオさんとピスキスさん。
これを機にレオさんの心情をバルゴさんに知ってもらいたい所だ。
お目当ての場所に着いた私達は、早速いろんなゲーム機を物色した。
ピスキスさんと2人で来たときに遊んだUFOキャッチャーにみんな夢中だが、奥には他にも沢山のゲームがある。
「あの人形さんかわいー!」
「ホントだねー、やってみていいですか? 琴羽ちゃん」
カンケルとアリエスが1つのUFOキャッチャーに目をつけた。
「いいよ。その為に来たんだから」
100円玉を2、3枚アリエスに渡すと、早速挑戦するようだ。
UFOキャッチャーの遊び方については、ピスキスさんと2人で買い物に行った後で、ピスキスさんの感想と共に教えていたのだ。 お陰でスムーズにボタンを押しながら楽しんでいる。
カンケルとアリエスが楽しんでいる間に、他の皆にも軍資金として千円以上の100円玉を手渡す。
「ホントにこんなに貰って良いのか? 琴羽のお金がなくなるぞ?」
心配して訪ねてきたレオさん。
「大丈夫ですよ。今月はちょっと節約して、昨日の内にお金は下ろしてきたので、財布の中はパンパンです」
「……誰かに取られないようにするのだぞ」
分かってまーす。と捨て台詞のようにその場を去る私。私としては、レオさんとピスキスさんの関係をどうにかにしたいと思っていた。
ゲームセンターから出ないことを約束し、子供体型組は大人体型組と手を繋いで奥の方へと歩いていく。
1人でUFOキャッチャーを一つ一つゆっくりと眺めながら歩く私。
壁側に置かれているUFOキャッチャーを見ていると、UFOキャッチャーのコーナーが終わり、奥の方に来たことが分かる。
回りには音ゲームやシューティングゲームが設置されている。
音ゲームの音がより一層五月蝿くなるゲームセンター。 よく見るとあるシューティングゲームにピスキスさんと、一緒に行ったのを手を繋いでいたリコルさんがいた。
「ピスキスさん、うまくなったね」
「あら、琴羽。そうかしら?」
うまくなったよ。と頷くと嬉しそうに感謝を述べてきた。
「ピスキスっ、そっち側2体残ってるよ!」
「あらやだ!」
再びゲームに集中するピスキスさん。リコルさんも楽しそうに敵を倒していく。
ゲームに集中の2人とは分かれて、足を奥へと動かす。
音ゲームの1つで前に1度だけプレイしたことがあるゲームにリブラさんとスコルさんがいた。
「あれ、アリエスとバルゴ」
「琴羽? ごめんなさい、今手と目が離せないの」
駆け寄ってみたら別のゲーム機が邪魔になって見えなかったアリエスとバルゴも同じゲームをやっていた。
隣同士に設置された音ゲームで対戦式でゲームを楽しんでいた。
ゲーム画面に現れるマークをタッチしたり、星形マークをスライドして音を楽しんでいる4人。
「……ふぅ。琴羽もやってみる? 楽しいわよ」
どうやら今2曲目が終わり、結果が映し出される。
4人ともまずまずの結果で、僅差でリブラさんが勝っていた。
「う~ん、前に1度だけやったことあるんだけど、その時に手を痛めちゃって。 だから遠慮しとくよ」
「あらそう」
バルゴは名残惜しそうにしながらも笑った。
「琴羽ちゃん、やらないんですか?」
「うん、遠慮しとくね」
バルゴの隣にいたアリエスも尋ねてきたが、バルゴに言ったことと同じ事を返す。
スコルさんが曲を選んだ事で、再びゲームが始まる。
「そういえば、よくこのゲームのやり方分かったね」
「ええ、興味から始めてみたのだけど、“チュートリアル”とかいうのである程度やり方は分かったわ」
ゲーム画面で手を動かしながらも、私の問いに答えてくれたバルゴ。
「琴羽から教えてくれた曲が結構入ってたから楽しめるわよ」
ゲーム画面を見ながら、バルゴの楽しそうな声に「そっか」と返した。楽しそうで何よりだ。
音ゲームで楽しんでる4人と分かれて歩く。随分とゲームセンターの奥に来たことを思い出した私は、壁に設置されたゲーム機を辿るように歩くとキッズコーナーに入った。
何故だか、カンケル達がいる気がした。
そして、予感は的中した。
「アクアもゲミニも頑張れー」
小さいホッケーを楽しんでいた。
アクアとレオさん、ゲミニとタリウスさんがホッケーをしていた。カンケルとウルさんは応援をしているようだ。
「ウ~ルさんっ」
駆け寄ってみたらウルさんの肩を叩く。
「あれ、琴羽」
「琴羽だ! 何でここにいるのー?」
私に気付いたカンケルは、腰に抱き付いてきた。
「カンケル達がいる気がしてね、探してみたら思いの外早く見つかったんだ」
「そうだったの~? カンケルね、さっきまでホッケーやってたんだよ。もう少し早く来てたら見れたのに~」
「えー、そうだったのー? あちゃー、遅かったかー」
ウフフと笑うカンケルが可愛い。
アクアとレオさん対ゲミニとタリウスさんのエアホッケー対決は、アクアとレオさんの勝利で終わった。
「琴羽、いつから居たんだ」
「ついさっきです」
タリウスさんは目を丸くしている。ビックリ顔に笑いを堪えながら私は提案をしてみた。
「皆さんでプリクラ撮りませんか?」
子供組は私の声が聞こえなかったのか、キャッキャアハハしているが、大人組のウルさん、タリウスさん、レオさんが首を傾げた。




