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4月の夜




 それは、ウルさんの一言で始まった。



 4月、新社会人が入って人員が増えたにも関わらず仕事量は減らず、ましてや少し増えた気もする今日この頃。


「ただいま~……」

 

 今日も楽しそうにテレビを見て待っていたようで、黄道12宮の子供体型組が集まっていた。

 双子座のゲミニ、水瓶座のアクア、牡羊座のアリエス、蟹座のカンケル、蠍座のスコル、山羊座のリコル。

 子供体型組の監視役なのか、射手座のタリウスさんと牡牛座のウルもいた。


 鞄をベッドに置いた私は、ポニーテールの髪型をサイドテールに結び直す。

 仕事から帰ってきてご飯の準備をする前には、髪型を変えるのが日課に撫でていた。

 昔から癖ッ毛で、結んでいたゴムを取ると跡が残るのは当たり前のようになっていた。 本の数時間ポニーテールに結んだだけで跡は残るし、梅雨の時期だけじゃなくても髪の毛はうねっていた。

 実家暮らしの時は毎朝アイロンを駆使していたのだ。そのアイロンは今でも時々使っている。


 右耳の裏で髪を1つに纏める。

「髪伸びたね~」

 そう、この一言。


 いつものように台所に行こうとして足を止めた。

「……そうかな? あ~でも」

 確かに伸びたかもしれない。

 纏めた毛先を摘まんで見ると、前に比べて毛先が胸元に近づいていた。

「確かに伸びたな」

「だよね~」

 タリウスさんもウルさんの考えに同意のようだ。


 何故かそこから盛り上がり、どんな髪型が好きなのか、という談義に入り始めた。

 私はその場を後にして、夕飯の準備を開始する。




 良い匂いが鼻を掠めてお腹が小さくなった。

「俺はピスキスぐらいの低さがいいなぁ」

「え~! カンケルぐらいの高さが良いってー!」

「でも、似合う人と似合わない人がいると思うよ?」

「カンケルは低くても似合いそうだよね!」

「そういうリコルも似合うと思うよ」

「スコルは……髪が皆より長いからなぁ」

 夕飯を作り終わっても尚、髪型談義は終わらず、子供体型組が楽しそうに話し合っていた。ウルさんとタリウスさんはそんな光景を見守っていた。


「でもでも、リコル髪が短いし、結べるの?」

「結べるよぉ! ね、琴羽!」

 いきなり話を振られた私は、口にしていた麦茶を吹き出しそうになった。何とか耐えたが。

「ん。んー、結べるんじゃないかなぁ」

「ほらぁ! アクアは私のおさげ姿見たくないの?」

「そんな訳じゃないけどさぁ。直視出来るか……」

 アクアの最後の呟きが聞こえなかったらしいリコルは不思議そうに首を傾げてる。

 アクアの呟きが聞こえてしまったのは、私とウルさん、タリウスさん。アクアの隣に座っていたアリエスとカンケルも聞こえたらしく、ニヤニヤと笑いあっていた。



 髪型談義は益々続き、私にどんな髪型が会うか、という談義に続く。

「今の琴羽の髪型、位置を高くしたらウルとお揃いだね!」

「バーカ、ウルは左で、琴羽は右だろー?」

「あっ」

「バーカ」

「っ、バカって言った方がバカなんだもん!」

「はいはい」

 カンケルとアクアが喧嘩に発展しそうだったが、アクアが少し大人なようで、カンケルが拗ねるだけで終わったようだ。


 私にどんな髪型が会うか、私自身全然分からない。大体、他の人達は自身がどんな髪型が似合うか分かるのだろう。

「下ろしてる琴羽も好きだけど、ツインテールも合うと思うなぁ」

「琴羽、私みたいな三つ編みは嫌?」

「スコル、良いアイディア! 琴羽、三つ編みやってみない?」

「三つ編みしたら、それこそスコルとお揃いですよ!」

 三つ編みかぁ。昔、友達にやって貰ったぐらいで、自分でやったことはないなぁ。

 確か、遊びに行った時にお手洗いの休憩スペースでやって貰ったんだ。 家に帰ってきた後、自分でやってみたが上手くいかなくて断念したのを覚えている。



 夕飯を完食した所で、ウルさんが私の後ろに回り込んできた。

「ん、ウルさん?」

「ちょっとごめんね~」

 ウルさんは素早くゴムを取って、私の髪を弄りだした。

「え~っと、三つ編みは……」

 いつの間にか櫛を持っていたウルさんは、1度とかした髪を馴れた手つきであれよこれよといとも簡単そうにやってみせた。

「ほら、琴羽見てみて」

 渡された鏡を手に三つ編みが見えるように鏡に映す。

「わっ、え~っ、スッゴく綺麗」

 ウルさんはいとも簡単そうにやってのけたが、まさかこんな綺麗に出来てるとは思わなかった。

「わぁ、琴羽、可愛い!」

「かわい~」

「琴羽、似合ってるよ」

 子供体型女子組からの評判に私は照れてしまう。



 記念に、と写真を取ってからゴムを取って髪をとかす。

「ツインテール! ツインテールもやってみようよ!」

「いいねぇ!」

「えっ、えっ?」

 再びサイドテールにしようと纏めていると、今度はカンケルとリコルが後ろに回り込んできた。ビックリして手を離してしまった。

「琴羽ちゃん、ちょっとごめんねー」

 カンケルの声が聞こえたと思うと、髪の毛が真ん中から左右に分けられるのが分かった。

「リコルー、どれくらいの高さにする?」

「どうしよっかー」

 どうやらカンケルが右側、リコルが左側を担当しているようだ。

「あ、カンケル。私、カンケルみたいに長いわけじゃないからあまりに高いと下の方に毛が出ちゃうよ?」

「あ、そっか。じゃぁ耳の少し上ぐらいにしよーよ、リコル」

「オッケー!」


 カンケルとリコルはあーでもないこーでもないと、楽しそうに私の髪を弄っていた。

「琴羽、食器下げとくぞ」

「あ、ありがとうございます、タリウスさん」

 楽しくて忘れていた食器たちは、多分簡単には落ちそうにない。油ものは特に。

「でーきた!」

 ウルさんから渡されていた鏡を構えて自身を映し出す。

 耳の少し上辺りをゴムで結んでいた。鏡に映る私は、何だか幼く見えた。

「んふふ、似合う?」

「似合うよー!」

「かわいい」

「子供の頃の琴羽に会ったみたい!」

 2つに結ばれた髪は、頭を動かす度に肩に当たって少しくすぐったい。


 私のツインテールを写真に収めて、私は提案してみた。

「カンケルとかウルさんとかのも、色々な髪型に結びたいな」

「良いよ良いよ! 結んでー!」

「じゃぁやってみよー!」

 案外あっさりと承諾してくれたことに驚いたが、私は櫛とゴムを手にまずはカンケルの後ろに回り込んだ。

「どんな髪型にするの? サイドテール? ポニーテール?」

「出来てからのお楽しみでーす」

 カンケルは「えー、楽しみー!」や「よく聞くお任せってやつだー!」とはしゃいでいる。

 手伝いに来てくれたというスコルさんにだけ、耳打ちで髪型を教えると、若干不安そうな顔を見せた。



 弄って分かったが、カンケルの髪からはとても良い匂いがした。

「よし。カンケルー、鏡見てみー?」

「んー? ツインテール? でも下ろしてる部分もあるけど」

「これはね、ハーフツインテールって言うんだよ」

「ハーフ、ツインテール?」

 カンケルは物珍しそうに鏡を覗く。

「耳から上の髪を纏めて結ぶのをハーフアップっていうんだけど、それの要領で纏めた髪を2つに分けてツインテールにするんだよ。だから、ハーフツインテールって言うの」

 結んでみたいけど、自分自身の髪を結ぶには難しいのだ。個人差があると思うが、ハーフツインテールを結ぶ時は、2人居ないと出来ないのだ。


「ほぉ、そんな結び方もあるのか」

 タリウスさんは嬉々として手持ちの本に書き込んでいる。

「へぇ。カンケル何か大人っぽくなったよ」

「ホント?! ヤッター!! 琴羽、ありがとー!」

 カンケルに「どういたしまして」と言うと、今度はリコルの後ろに回り込む。




 そうして、残りのリコルとスコルさんとウルさんにも別の髪型を結んだ。

 リコルにはハーフアップを、スコルさんにはサイドテールを、ウルさんにはおさげを。

 リコルのハーフアップには、最近流行っている“くるりんぱ”という技法を施してあげた。リコルは嬉々として纏めた髪先をずっと触っていて、嬉しそうに笑っていた。


 普段三つ編みで腰の位置まで髪が見えるスコルさんは、ほどいてみるとカンケルより長かった。多分黄道12宮の中で一番髪が長いだろう。

 そんなスコルさんには、左耳の上の方にサイドテールを作った。

 恥ずかしそうにするスコルさんが可愛くて、連写してしまったのはしょうがないことだ。 そんな私を見て余計に恥ずかしくなったスコルさんは、纏めた髪をマフラーのようにして顔を隠してしまった。勿論それも写真に収めた。


 ウルさんのおさげは、三つ編みにしてみた。他人の髪を三つ編みにする時は綺麗に出来るんだけどなぁ。

 真正面からウルさんを見ると、漫画に出てくるような真面目キャラに見えた。眼鏡を掛けたら完璧だった。

 ウルさんの髪をとても柔らかく、三つ編みをするには少し難しかった。

 写真を収める為にレンズを向けると、ウルさんは毛先同士を鼻の下に合わせてくれた。ウルさん曰く、泥棒のマネなんだとか。



 最後に集合写真を取ってから帰っていった。


 こうして、ウルさんの一言から談義で盛り上がり、色んな髪型を変えっこして楽しんだ。


 今日は色々あって疲れて帰ってきた筈なのに、たった数時間で楽しい気分になれていることに驚いた。 もしかしたら、ウルさんはそんな私を見かねて盛り上がりそうな話題を提供したのだろうか。だとしたらウルさんは凄い。


 何だか、ただのツインテールがこんなにも解きたくないと思ってしまうのは何でだろう。

 明日休みだし、今日はこのまま寝ちゃおうか。ベッドに横になりながら今日撮った写真の数々を見ながら私は微笑んだ。

 なんだか、とても楽しい夢が見られそう。





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