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お返しの意味




 夕飯を食べながら今日あった事を思い出していた。

 ホワイトデーだった今日は、男性員からのお返しが沢山貰えたのだ。

「ねぇねぇ、このチョコ食べていーい?」

 アクアなんかは、私の手提げに入っているチョコを眺めながら食べたそうにしている。

「いけません!これは琴羽が貰った物なのよ?」

「えー!」

 ピスキスさんに叱られても尚、食べたそうにしているアクア。

「好きなの食べて良いよ?」

 涎が垂れそうだったアクアを見兼ねて私は許してあげた。アクアは目をキラキラさせて、手に取りながらチョコを見定めている。


 私の手提げを漁っているアクアを横目に夕飯を食べ始める私。

「あ、ワタに今日おやつあげましたか?」

「ええ、ゲミニがあげてたわよ」

 この間買ってきたワタのおやつは、ワタよりもゲミニが一番気に入っているらしい。

 楽しそうにワタにおやつをあげるゲミニが容易に思い浮かぶ。

 テレビを見ながら箸を進めていると、ピスキスさんが恐る恐る質問を投げ掛けてきた。

「……ねぇ琴羽?なんで今日こんなにお菓子貰っているの?」

 今日って何かあったかしら?と考えているピスキスさん。

「今日はバレンタインのお返しをもらう日なんですよ。ホワイトデーって言うんです」

 ピスキスさんは少しポカンとした後、思い出したかのように言葉を発した。

「……忘れてたわ!」

 ピスキスさんは、明日お返しのお菓子を作ろうとするらしく、今から気合いを入れている。



 ピスキスさんも笑いあっていると、お菓子をガサゴソと漁っていたアクアが声をあげた。

「…ねぇ、アメ入ってた」

 アクアが見せてきたのは、丁寧にラッピングされている3つのアメ。

「ほ、ホントだね」

 アクアが見せてきたアメに驚きながらも相づちを打つ私。

「失礼しちゃうわね! 琴羽が一生懸命に作ったお返しが、たった3つのアメだなんて!」

 ピスキスさんに同意するように、アクアも声を荒げる。

「琴羽が作ったやつ、めちゃくちゃ美味しかったのにね!失礼だよ!」

 アクアは手にしていたアメをテーブルに置いて、再び手提げを漁り始めた。


 ピスキスさんは、未だに怒っているのか、丁寧にラッピングされたアメをつついている。

「琴羽がどれだけ一生懸命に作ったのか知らないのよ」

 私はピスキスさんを宥めようと口を開く。

「でも、もしかしたら意味を知っていてアメをお返しにしたのかもしれませんし」

 だからつつくのはやめましょうよ?と笑い掛ける私。

 すると、つつく手を止めるピスキスさん。

「どういう事? このアメには何か意味があるの?」

「お返しには色々な意味があるんですよ」

 興味を持ったらしいピスキスさんは、前のめりになって私の言葉を待つ。


 食べ終えた食器を重ねてテーブルの端に置くと、私も少し前のめりになる。

「見て見て!今度はクッキーだよ! 琴羽のお菓子のお返しにクッキーはないよな?!」

 ピスキスさんにお返しの意味を教えようとすると、手提げを漁っていたアクアが包装袋に入ったクッキーを見せてきた。

 可愛らしい包装袋に見覚えがあった。仲良し同期の小柴鈴から貰った物だ。

 丁度良いタイミングで見せてきたアクアからそれを受け取った私は、針金リボンを取ってクッキーを手にする。

「このクッキーにも意味があるんだよ」

「え!クッキーに?!」

 アクアの驚き声が響く。私は頷いてクッキーの意味を思い出す。

「クッキーには、『友達でいようね』っていう意味があるんだよ」

 白色と茶色がバラバラに入っているクッキーを口に入れるとサクッと音を立てる。

「これは私の仲良しの女の子から貰った物だからお返しのお菓子としては違和感ないね」

 ピスキスさんは、何処から出したのか分からない紙にメモを取っていた。



 夕飯の後にも関わらず、クッキーを全部食べ終えた私は、包装袋を丁寧に畳む。

「じゃあこのアメにも意味があんの?!」

 興奮気味なアクアの問いに、私が笑顔で頷くと、キラキラした目で訊ねてくる。

「アメには、『あなたが好きです』って意味があるんだよ」

 興奮しているアクアに苦笑いしながら答えると、ピスキスさんもアクアも驚きの声をあげる。

「あら、じゃあこのアメを渡してきた男の人は琴羽の事が好きって事ね!」

「えー、誰だろ誰だろう!!」

 気になるー!ねー!と、話し合うピスキスさんとアクア。

「で、でもね!意味を知らない可能性だってあるんだよ?『アメしかなかったからお返しにあげた』って可能性もあるからね!」

 私は慌てて訂正するが、聞く耳を持たない2人。


 本命としてあげたチョコはなかった筈。アメのラッピングにも見覚えがなかったから、誰からの物か分からない。

 結局、これからの私の恋路が気になってしまった2人。何とか興奮の2人を宥めて、他のお返しの意味を教える。

「アメは味によっても意味が少し違うらしいけど、それは忘れちゃったんだよね。ごめんね」

 ピスキスさんとアクアは全然問題ないようで、満面の笑みで私を見つめる。それほど私の恋路が気になるようだ。

「あ!そういえば私も思い出したの!」

 2人の態度にため息を吐いていると、ピスキスさんが何かを思い出したようだ。

「マシュマロ!マシュマロには『あなたの愛を純白で柔らかく包み込んでお返しします』って意味があるのよね!」

「え、そうなの?」

 私の知ってるお返しとは違って、ついタメ口で聞き返してしまった。


 私の反応を見たピスキスさんは、えへんっ!と胸を張っている。

「私の知ってるマシュマロの意味とは違います」

「あらそうなの?琴羽の知ってるマシュマロの意味って何かしら?」

 私が昔に調べた情報を思い出す。

「確か……マシュマロには『あなたが嫌い』って意味があったはずです」

「んー?どっちが正解なの?」

 アクアの問いに私もピスキスさんも首を傾げてしまった。

「なんか……マシュマロは味気がなくてパサパサしていて、口に入れるとすぐに溶けて食べ終えてしまう事から、『興味がなくてあまり関わりたくないので、それなりに距離を置きたい』って……」

 意味だと思います。と続ける筈が、小さくなっていた声によって続けられなかった。



「じゃあこれは?! これなに?」

 いつの間にか手提げを漁っていたアクアが、別のお菓子を見せてきた。

 見覚えのある包装袋。仲良し同期の砂川葵からのお返しだと気付く。

 水色のラッピングをアクアが取ったのか、中の包装袋に入っているキャラメルが若干見える。

「これはキャラメルだよ。キャラメルの意味は『一緒にいると安心する人』だよ」

 思いの外、昔の情報を思い出せる私は、うんちくとしてアクアに教えてあげる。

「きゃらめるって甘い?美味しい?」

「甘いし美味しいよ。私には甘過ぎて、ちょっと苦手なんだけどね」

 苦笑いする私を見て、アクアはキャラメルを口に持っていって、食べていいかと目で訊ねてくる。 笑顔で頷くと、パクっと口に含むアクア。

 すると、顔を上げるアクア。目がキラキラしている。

「あま~い……おいひい」

 甘さと美味しさと安心感にしっとりするアクア。食べたそうにしていたピスキスさんに上げても、まだ3つ残っている。




 夕飯の食器を下げて、お風呂が焚けるまでの間のお返しのお菓子をすべてテーブルに出す。 ベッドに横になっていたワタが匂いに釣られて足元にすり寄ってきた。

「何するの?琴羽」

 ギリギリテーブルにお菓子を全部置けた私は、ピスキスさんからの質問に答える。

「お返しのお菓子を沢山貰うので、よくおやつとして職場に持っていったりしてるんです。職場で食べる用と、家で食べる用を今から分けます!」

 去年もやったなぁ。

 ワタがチョコを食べないように、監視しながらラッピングを剥がしていく。

「大変なのね……」

「俺も分けるの手伝う!」

 苦笑いをするピスキスさんの横で、任せろ!と胸を叩くアクア。 苦笑いしていたピスキスさんもアクアの提案に乗ってきた。

「多分、チョコが多いと思うので、チョコを半分に分けてからの方が分けやすいんです。お願いできますか?」

 アクアもピスキスさんも、同時に大きく頷いてくれた。早速作業に取り掛かる。



 去年より早く分け終えたお菓子達は、別の容器に綺麗に収まった。ラッピングや包装袋を全て片付ける。

「琴羽、包装紙畳み終えたわよ。これ捨てるんじゃないの?」

 ピスキスさんから受け取った物を、テレビ横の押入れにそれを仕舞う。 貰った物の包装紙などは丁寧に剥がして、丁寧に畳まないと気がすまない。

「いつか、何かに使えると思うと、取って起きたくなるんだよね」

「ふ~ん。変なの~」

 アクアに不思議に思われながらも、私はチョコ菓子を冷蔵庫に仕舞う。冷蔵庫の中には、買っておいたお菓子がある。


 そのお菓子は、黄道12宮の皆にあげるように買っておいたお菓子だ。

「ピスキスさん、アクア。渡したい物があるんだ」

 本当は黄道12宮全員がいる所で渡したかったが、今の時間で全員が集める事は迷惑になりかねない。

 私はラッピングされているお菓子を手にして冷蔵庫を閉じた。

 呼ばれたピスキスさんとアクアは、何を渡してくるのかとワクワクしているようだ。

「これ、黄道12宮のみんなで食べて?」

 代表して、ピスキスさんに手渡す。

「え、でも……」

 ピスキスさんの戸惑いの声に、私は苦笑いしながらもピスキスさんの手にラッピングされたお菓子を置く。

「……これお菓子?」

「うん、マカロンっていうお菓子だよ」

 アクアの問いに答えると、ピスキスさんは驚きの声をあげる。

「え。そ、そんな高級なお菓子じゃなくても大丈夫よ?」

「マカロンじゃないと駄目なんです。でも私自身、マカロン作れないので、買ってきた物で良ければ受け取って欲しいです」

 私の強い意志を感じ取ってくれたのか、ピスキスさんは手にしているマカロンをそっと胸に寄せた。



 ピスキスさんとアクアが帰ると、再びワタが足元にすり寄ってきた。

「ワター、知ってる?マカロンをお返しにあげる意味」

 ニャーァーと鳴くワタ。知っているのかな?

 ワタを抱えたまま、ベッドに腰掛けた私はそのままゆっくり横になる。

 マカロンの意味は『あなたは特別な人』だが、私にとっての特別な人は黄道12宮なのだ。 独り暮らしに慣れたとはいえ、やっぱり1人は寂しいもので、それを教えてくれたのが黄道12宮なのだから。

 黄道12宮が来てから楽しい事ばかりなのだ。感謝しかない。それを今日伝えられたら良かったな。





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