お月見
『お月見?毎年やってっぺよ』
「お月見って結局の所、どういう目的で、何をやればいいの?」
『えー?知らないのけ』
「お団子とかあげればいいの?」
『お団子もあげるけど、ばあちゃんの所はうどんをあげんだぁ。場所によってあげんのが違うんだよ。そーだなぁ、ばあちゃんの所はうどんをあげて、一緒に栗とか葡萄とか酒とか、その年に出来た野菜とかをあげんだぁ。お月様に感謝をする為に十五夜はあんだよ』
「酒!?へぇ~、あれ?ススキは?あげるよね?」
『あー、あげるよ。2、3本取って花瓶にでも入れてお月見料理の横に置いとくんだよ』
「ほぉほぉ、お月見料理?」
『お月見料理分かんない?さっきばあちゃんが言ったうどんとか栗とか葡萄をあげるのをお月見料理ってんだよ。昔はなぁ、お月見泥棒っつって、お月見料理を盗まれると縁起が良いって言われてたんだよ。最近はめっきりそんな事なくてなぁ。』
「ほぉー、他に何か知ってる事ない?」
『んー?あー、十五夜は他に言い方があってな、中秋の名月ってんだよ。あー、旧は8月だけど、新は9月だろ?旧の9月は十三夜ってんだけど、新になったから十三夜は10月なんだよ。カレンダー見てみ。』
「ホントだ。あ、ねぇ、お月見料理をあげるじゃん?そのあげたお月見料理は後で食べてもいいの?」
『いいよ?十五夜にあげるのは、豊作の祈願と収穫の感謝だから、あげたのを食べるのは美味しいって事で良いことなんだよ』
「へぇ~」
『十五夜の楽しみ方は沢山あんだよ。普通に満月を祝う人や満月を眺めて愛でる人もいるんだよ』
「へぇ~、ありがと、色々分かったよ」
『あいよ。所で、今度いつ帰ってくるんだ?』
「え、う~ん、また改めて考えるよ、ホント教えてくれてありがとね、じゃ」
20分程の会話を終えて、確かな温もりが残っている受話器を置く。
タリウスさんの悩みを聞いた3日後、仕事が休みだった私は、皆が帰った後に実家に電話した。
久しぶりに聞いたばあちゃんの声は変わらず元気そうで安心した。得意の編み物をして毎日を過ごしているんだろう。
まだ実家にいた頃は、毎年干支の動物を毛糸で作って近所の人達に見せびらかしていた。毎日同じ物を作っては、来た人に見せびらかして、「作ってちょうだい」と注文を受けていたのを思い出す。
もう夜遅い時間だ。寝よう。
十五夜、皆楽しんでくれるかな?