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ワタのおやつ




 始まりはゲミニの一言だった。

 何でもない平日。私がいつも通り帰ってくると、ゲミニは私に提案をしてきた。

「ワタにおやつあげたい!あれ買って~!」

 大きい目をさらに大きくさせて私を見つめてくるゲミニ。その目はキラキラとしていて、“買って買って買って!” とせがんで来ているようだった。


 ゲミニを連れて部屋に入ると、バルゴとタリウスさん、リブラさんがいた。

「あ、琴羽おかえり」

「早かったな」

 バルゴとタリウスさんはテレビを見ていた目をこちらに向けた。リブラさんはテレビにくぎ付けだ。

「ねぇ!買って買って!」

 私の腰に抱きついてきたゲミニを剥がすと、いつものクッションにいたワタを抱える。

「ワター、おやつ食べたい?」

 ワタに訊ねるが何とも返事をしてくれない。そりゃそうだ。


 とりあえず夕飯の準備をする為に、コートを脱いで台所に向かう。

「ね~ぇ、琴羽!買って買って!」

 それでも尚ゲミニが私の後を着いてくる。

「ゲミニ~、危ないからお部屋行ってて?」

「買ってくれるまで琴羽に着いてるの!」

 珍しく私の言う事を聞かないゲミニ。ちょっぴり嬉しかったりするが、今は火を扱っているので本当に危ない。

「分かったよ。ワタの為に買おうね」

 ゲミニは私の言葉に頷いて、そのまま部屋に戻っていった。

 部屋からゲミニのはしゃぐ声が聞こえてきた。



 ご飯やおかずを乗せたお盆を手に部屋に入ると、ワタを抱き抱えてニコニコしているゲミニがベッドに腰掛けていた。

 バルゴは戻ってしまったらしく、リブラさんとタリウスさんがテレビを見ていた。

「琴羽、ゲミニがすまなかったな」

 定位置に座るとタリウスさんが近付いてきて小さく呟いた。

「いえいえ、我が儘言われてちょっぴり嬉しかったので」

 だから大丈夫ですよ。と呟くと、タリウスさんは安心したように息を吐く。

「ありがとう琴羽」

 笑顔で呟くタリウスさんに、私も笑顔で頷き、箸を手にした。



 箸を動かしながらテレビを見ていると、ちょうど話題になったCMが流れた。

「これ!これこれ!」

 ワタを抱きながら見ていたゲミニは、テレビが指差しながら私にキラキラした目を向ける。

「うん、これね」

「買ってきてよ?買ってきてよ?」

「はいはい、明日仕事終わりに買ってくるね」

 ゲミニはベッドの上でジャンプをして喜びを表現する。

「こら!琴羽が食事中だぞ!」

 それをタリウスさんが注意すると、ゲミニはニコニコしながら返事をして腰を掛ける。


 楽しみな様子でワタに耳打ちをするゲミニ。

「すまないな、埃がたってしまっただろう」

 ゲミニに聞こえないように、タリウスさんが再び謝ってきた。

「大丈夫ですよ」

 何の問題もないように、私は味噌汁を飲み干した。

 そんな私を見て、ホッとしているタリウスさん。楽しそうにワタと遊んでいるゲミニに視線を向けて微かに微笑む。







 翌日、ゲミニに念を押された私は、仕事終わりにペットショップに寄った。 ワタを飼うようになってから常連客となっている。

「あ、浦口さん!いらっしゃいませ!」

「お久しぶりですね、五十嵐さん」

 小さいペットショップの為、店員さんとはすぐに顔馴染みとなった。

 五十嵐さんは店長さん。

「今日はワタちゃんに何を買ってあげるんですか?」

「今CMで話題になってるおやつをあげようかな、と」

 五十嵐さんは少し考えた後に提案してきた。

「ワタちゃんの為に、何種類か買いますか?」

 ワタにも好き嫌いがあるだろう。 私もいまいちワタの好きな味を知らないから、ワタの事を少しでも知る為には良い機会だ。

「じゃあそうしてみます」


 私の答えに五十嵐さんが案内してくれた場所は、色んな種類のおやつが置かれているコーナーだった。 中には、今朝ゲミニに念を押された物もある。

「つい先日入ったばかりの物もあるんですけど、きっと今日お買い求めの品はこちらですよね?」

 五十嵐さんの手には例の物。

「あ、それです!」

 CMでしかパッケージを見なかった私は、生でそれを見つけた事によって興奮してしまい、声が大きくなってしまった。

「うちの子達なんかは、これ好んで食べますね」

 五十嵐さんも猫を2匹飼っているらしく、毎日じゃれてきて癒されているようだ。 今も、私にプレゼンしているにも関わらず、思い出しているようでニヤニヤしている。

 五十嵐さんが進めてきたのはマグロで、知り合いにマグロを好んで食べる猫達が沢山いるらしい。

「それか……これとか時々あげると食べますよ!」

 五十嵐さんが次に進めてきたのは、贅沢サーモンと書かれている。

 ワタに贅沢な味が分かるのだろうか。



 全種類をプレゼンしてきた五十嵐さんは、別の仕事に取り組む為に移動してしまった。 暫く全種類を眺めながらその場を動かなかった私だが、何種類かを手にレジに向かった。



 意外と高いワタの新しいおやつを手に家に帰ると、待っていたゲミニが私を迎えてくれた。

「おかえりー!ワタのおやつ買ってきてくれた~?」

「ただいま。買ってきたよ」

 何種類かのおやつが入った子袋をカサカサと動かす。

「貸して貸して!ゲミニが最初におやつあげるの!」

 目をキラキラさせて両手を差し出してきた。

「だーめ。最初におやつをあげるのは拾ってきた私」

「えー?!」

 ずるいー!と声をあげるゲミニ。

 ゲミニのブーイングを流しながら部屋に入ると、バルゴやタリウスさん、リコルさんとカンケルがいた。

「おかえり~」

「おかえりなさい琴羽」

 リコルさんやバルゴに挨拶を返すと、ゲミニが私の横を通ってワタに駆け寄る。

「ゲミニが最初なの!」

 ゲミニはワタを抱いてベッドの座った。カンケルもゲミニに続いてベッドに座ると、一緒に遊びだした。



 コートを脱いだ私は、買ってきたものを皆に見せるように取り出して1種類だけ封を開ける。

「ワター、おいでー」

 小袋を見せながらワタに呼び掛けるが、一向に来てくれない。遊びに夢中のようだ。

「……ワター?」

 CMで見るようにあげたかったが、無理なようなので小皿に出すことにした。

「ゲミニがあげるのー!」

 小皿に出そうとすると、ゲミニが声を上げて手元から奪っていった。

「ワター、食べるよねー」

 ベッドに座ったゲミニは小袋の口をワタの口許に近づける。

 ちゃんと食べてくれるのか分からない私は、ワタの近くに寄って観察する。

 ワタは差し出されたそれを嗅いでいる。ゲミニが中身を押し出すとペロッと舐める。

「食べた!」

 私とゲミニは顔を見合わせてハイタッチをする。

 そんな私達の後ろでは、バルゴやタリウスさんが微笑んでいたのを知らなかった。



 その後、ワタはペロリと食べ終えてしまった。

「もう1つあげたい!」

 小袋を取ろうとするゲミニを制止する。

「だーめ。これは2日に1回のペースであげよう?」

 えー?とブーイングをするゲミニ。

「1日に1回じゃなくてか?」

 タリウスさんの問いに答える為、五十嵐さんに教えてもらった事を思い出す。

「あまり与えすぎると、これしか食べてくれなくなるみたいなんです。 それは避けたいので1日に1回よりも、2日に1回の方が良いかな、と」

 タリウスさんは納得してくれたようで、いつも所持している本に書き込んでいる。

「えー。じゃあ明日?」

「明日じゃないわよ。明後日ね」

 ゲミニの問いに答えたバルゴが、私に同意を求めてきた。

 カンケルはずっとキョトン顔でワタと何かをしている。


 おやつを食べたにも関わらず、ゲミニが用意してくれたキャットフードをガツガツ食べているワタ。

 おやつのあげすぎは、太ってしまう可能性があるから注意しなければ。

「ワター、美味しい?」

 ワタが食べている様子をニコニコしながら問い掛けるゲミニ。だけどワタはそんなのお構いなしに食べている。

「ワター、美味しいかにぁ?」

 カンケルが問い掛けた瞬間、ワタは鳴いた。まるで、カンケルの問いに答えているかのように。





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