表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/61

ひな祭り




 アリエスからひな祭りを楽しもうと誘われてから2日。本日がひな祭り。

 仕事終わりに家に直帰すると、あるはずのない物が綺麗に並べられていて、声が掛けられるまで見とれていた。

「そんなに綺麗?凄く綺麗?」

 見とれていた私にカンケルがドヤ顔を披露する。

「うん、凄く綺麗…」

 カンケルの問いに気付いたら答えていて、それを聞いたカンケルは照れたように笑う。

 目に見たそれは、上から下までキラキラと輝いて見えた。まるで、夜空を眺めるときに見える、赤やオレンジ、黄色や青白い光があちこちで輝いているようだ。


 部屋着に着替えると、ゲミニに誘われてベッドに腰掛ける。ちらし寿司を作らなければと思い出して腰をあげるが、ゲミニに制止されて再びベッドに腰掛ける事になった。

「今回は私達が琴羽に教えるわね!」

 どうするんだろうと思っていると、ピスキスさんが台所から顔を出す。木桶を腕で抱えていたが、言う事を終えるとすぐに台所に消えていってしまった為、中身を見ることは出来なかった。

「そういうことだ。ベッドに座って、ひな人形でも眺めていろ」

 そういうレオさんは、部屋と台所の境目に立って、私が台所に行かないようにしている。


 どうしようもないまま、膝にワタが乗ってきて座り込んでしまった。

「あの、タリウスさん」

 とりあえずどうしたら良いのか分からなかった私は、近くでいつも手にしている本を読んでいるタリウスさんに声を掛けた。

「悪い琴羽、ひな祭りについて分かりやすく伝えたいから今は話しかけないでくれ」

 いつもより早口で対応したタリウスさんは、そのまま本を手にブツブツと何か言っている。


 仕方なくゲミニやカンケルとひな人形を眺める。

「これね!僕が作ったんだよ!凄いでしょ?!」

 ぴょんぴょん飛びながら高い位置のお内裏様を指差すゲミニは褒めてほしそうな顔をしている。

「え~、ゲミニが作ったんだ?凄いねぇ~」

「えへへっ、すっごいでしょぉ?」

 感嘆の声をゲミニに言い続けていたら、カンケルが私の腕に抱きついてきた。

「カンケルの方が凄いもん!カンケルね!お雛様作ったんだよ!」

 凄いでしょ!と言い寄ってくるカンケルに復唱しながら驚いてみせる。

「カンケルも凄いねぇ、お雛様綺麗に作られてるよ」

 そう言って頭を撫でてあげると、照れたように笑うカンケル。赤くなった顔を隠すように手で覆うカンケルはゲミニと一緒に笑いあう。


 暫くひな人形を眺めながらピスキスさん達を待っていると、何やら話し合っていたカンケルとゲミニ、いつの間にか一緒にいたアクアとリコルが私に話し掛けてきた。

「琴羽!ひな人形の説明欲しくない?」

 代表して私に聞いてきたアクアは、目を輝かせている。

「ん~…じゃあお願いしようかな」

 笑顔でアクア達にお願いすると、またヒソヒソ話を始める。


 アクアが雛壇の横に立って私に問い掛ける。

「1番上に置かれてるのがお内裏様とお雛様なのは知ってるよね?」

「うん、知ってるよ」

 大体は知っている。お内裏様とお雛様、その下の段の3人の女の人はきっと三人官女、その下の段の5人の男の人達は五人囃子。

「じゃあ琴羽に問題ね!お内裏様が手にしてるのは何と言うでしょう!」

 突然のクイズにビックリしながらも考える。アクアがニコニコしながら待っているので何か答えないといけない。

「ん~…何なんだろう」

 アクアに近くで見ても良いと言われた私は、ワタをベッドに移してから立ち上がると、雛壇に近づいてお内裏様が持っているものを間近で見てみる。

 何なんだろう?見たことある気がする。

「あ!“しゃく”ってやつじゃない?」

 私の答えにニコニコして待っていたアクアが驚いた顔になった。

「ピンポーン!正解!答えは“(しゃく)”でした!」

 答えが当たった事に喜びながら、次はどんなクイズが出るのだろうと楽しみにする。

「ちなみにね!お雛様が手にしてる扇は、桧扇(ひおう)って言って木で作られてるんだよ!」

 アクアはドヤ顔のまま詳しく説明してくれる。


 アクアの次に私に問題を出してくれるのはカンケルのようだ。

「2段目にあるのは三人官女(さんにんかんじょ)って言って、お雛様のお世話をする人達なんだよ!」

 知ってたぁ?と聞いてくるカンケルに、知ってたよと言うとクイズを出してきた。

「では問題!ダダァン!三人官女には身分の違いがあって、結婚をして身分が高い人が1人います。では!その1人とは誰で、どんな違いがあるでしょうか!」

 クイズテレビが好きなカンケルは、いつもみているクイズ番組と同じ音を発しながらクイズを出してきた。

「結婚して身分が高い人と、その違い…」

 カンケルもまた、ニコニコしながら私の答えを待っている。

 再びひな人形に近付いた私は、三人官女を1つ1つ見ていく。両端の人形は立っていて、真ん中の人形だけが座っている。

「カンケル、身分の違いって見ただけで分かるの?」

 雛壇の横に立ってニコニコしているカンケルに問い掛けると、うん!と言って頷いた。


 確か持ち物にはちゃんとした役割があって持ってる筈だから違うだろう。

「ん~?」

 着ている物の柄が違うのだろうか。

「じゃあヒントあげる!ヒントは顔!」

 着ている物は関係ないようだ。

 三人官女の顔を1つ1つ見ていく。と、何か違うのが分かった。

「えっ…あ!え?…真ん中の人形だけ眉毛がない…よね?」

 カンケルではない声が驚きの声をあげる。

「…つまり?」

 ニヤニヤしながら聞いてきたカンケルに私は答えを言った。

「結婚して身分が高いのは真ん中の人形!違いは眉がないこと!」

 自信と不安が半分ずつあるが、真ん中の人形だけ眉がないことは確かだ。

「せいかーい!」

 カンケルは拍手をしながら、すごーい!と感嘆の声をあげる。

 正解出来たことにホッとしていると、カンケルは補足説明をする。

「ちなみにね、もう1つ違いがあったんだよ!真ん中の人の口を見ると分かるんだけど、歯が黒いの!昔の人はね、結婚をすると眉毛を剃って、歯を黒くする“お歯黒”っていうのをやってたんだって!」

 良く見てみると、カンケルの言ったように真ん中の人形は歯が黒く染まっていた。

 分かりやすく説明をしてくれたカンケルは、凄いでしょ?と目で語ってきた。


 アクアとカンケルの次は、ゲミニが雛壇の横に立った。ゲミニはどんなクイズを出すのだろう。

「3段目にあるのは五人囃子(ごにんばやし)って言って、お内裏様やお雛様を音楽で盛り上げる人達なの!左端が太鼓担当の人で、隣に大鼓(おおつづみ)、小鼓、笛って手にしてるでしょ?」

 ゲミニの説明を聞きながら五人囃子を1つ1つ見ていくと、確かに左端の人形は(ばち)を手にしていて、横にある人形達も小鼓を抱えていたり、笛を吹いていたりと様々だ。

 右端だけ楽器ではない物を手にしているのは何でだろう。

「では問題です!右端で扇を手にしている人形はどんな役割でしょうか!」

 まさか私が疑問に思ったのがクイズに出されてしまった。

「ん~…口笛!」

「ブッブーッ!違うよー!」

 自信を持って言った私の答えは間違いなようで、ゲミニやカンケル、その場に居た皆に笑われてしまった。

「琴羽っ…いくらなんでもっ、口笛はないよっ」

 あまり笑わないリブラやスコルまで笑っている。

「え、えへへっそんなに笑うぐらい私の答え変だった?太鼓、大鼓、小鼓、笛…口笛?」

 皆の笑いに釣られて私も笑う。笑いながらふざけてみるともっと笑った。私達の笑い声が聞こえたのか、台所に居たピスキスさんやバルゴ、レオさんやアリエスやウルさんが顔を出した。


 状況が分かっていない台所組が顔を合わせる中、私は笑いを静めるのに必死になる。

「もー、あまり騒がないのよ?近所迷惑になっちゃうでしょ?」

 台所組は、ピスキスさんの一言で戻っていった。


 結局、答えが分からない私は、笑いが収まったゲミニに答えを聞いてみた。

「もー、歌を歌う人が必要でしょ?」

 昔から歌を歌う風習があった事に驚いた。

「正解は、“(うたい)”でしたー!」

 私が答えられなかった事で、ゲミニは少しドヤ顔をしてくる。

 琴羽が分からないことを知ってる自分凄いでしょ!と顔で語ってきた。


 そろそろ夕飯が出来るらしく、テーブルの上を綺麗にしていく。お皿や、お箸を持ったアリエスが顔を出してきた。

「もうそろそろちらし寿司出来ますから、待っててください」

 それだけ言うとまた台所に行ってしまった。

「ん~、良い匂いしてきた~」

「お腹すいてきた~」

「もう少し待とうね」

「ゲミニ、待っていられるのが男ってもんなんだぞ」

 スコルさんがカンケルの頭を撫でて、タリウスさんがゲミニと手を繋ぐ。



 その後、ちらし寿司を持ってくる間、リコルやリブラ、スコルさんからもひな人形について教えてもらった。

 4段目の人形は“随身(ずいじん)”と言うらしい。右側に置かれた白髭の人形が“左大臣(さだいじん)”で、左側に置かれた人形が“右大臣(うだいじん)”と呼ぶらしい。

 随身はお内裏様を護衛する為、装飾的な武器として弓矢を持っているらしい。2つの人形の間には、菱台(ひしだい)御膳(おぜん)が2つ置かれている。


 5段目の人形は仕丁(しちょう)と言うらしい。仕丁とは、雑用をしたり、お内裏様やお雛様の従者をする役割がある。外を歩く時の為に、履物の台の“沓台(くつだい)”、先の細い傘“立傘(たちがさ)”、先の丸まった日傘“台傘(だいがさ)”を持っている人形だ。

 何故か仕丁の顔には表情があり、立傘を持ってる人形は笑っていて、沓台を持ってる人形は泣いていて、台傘を持ってる人形は怒っているのだ。


 6段目と7段目には色んな道具がある。箪笥や鏡台、火鉢や茶道具、重箱や御所車もある。

 私が知ってるひな人形は5段目までだったので、こんなのも飾るのかとビックリした。



 ちらし寿司を皆で食べながら、「私があれを作ったのよ」、とか「俺はあの道具を作ったんだ」と教えてくれた。

 ピスキスさんとウルさんが作ったちらし寿司や、バルゴとレオさんが作ったひなあられはあっという間になくなり、何故か沢山向いてある桃を食べながらタリウスさんの説明を聞く。

「もともとひな祭りとは“上巳(じょうし)の節句”と呼んでいたんだ。3月が桃の咲く時期なことから3月3日を“桃の節句”とも言う」

 だから今桃を食べてるのかな?


 甘い桃を口に含みながら、そんな事を考えてタリウスさんの説明に納得をする。

「昔の人は、良縁や幸福を祈るように、紙や草などで作った人形を病気や悪い事の身代わりにして、それを川に流していた」

 説明するタリウスさんの上で、昔の人がやっていると思われる行動が微かに見えるのは気のせいだろうか。

「それをやることで人形には不思議な力があるのでは、と思った昔の人が雛人形を作ったのだ。人形を飾り、ひなあられや菱餅(ひしもち)を供え、桃の花や橘を添える。そうして現在(いま)があるんだ」

 タリウスさんは私にも分かりやすく説明をしてくれる。

 夕飯前に本を呼んで練習した甲斐があったね。


 いつの間にかなくなってしまった桃に名残惜しさを感じながら、タリウスさんが最後のまとめをと称して説明してくれるのを聞く。

「昔は“女遊び”と呼ばれていたのが、どんどん変わって現在(いま)では“ひな祭り”と言う。だが、昔も現在(いま)も祈ることには変わらない。女子の健やかな成長を祈る為にひな祭りがあるんだ。だから琴羽聞いてくれ」

 分かりやすく教えてくれてありがとう、とタリウスさんに言いたい。が、最後にタリウスさんに呼ばれて少し構えてしまった。

「これからも元気に過ごしてくれ。病気もしないし、怪我もしない。せめて結婚相手はしっかり見たかったが…大丈夫、琴羽の事だ、好い人に会えると俺は…いや、俺達は信じてるぞ」

 気付いたらタリウスさん以外の皆も私を見ていて、何故かピスキスさんやウルさんは泣いていた。

 タリウスさんに視線を戻すと、タリウスさんも泣きそうになっていたが、絶対に流すまいと耐えていた。


 気付いたら私の頬が濡れていて、原因が涙だと分かるまで数秒掛かった。

「…もぉ、タリウスさんやめてよぉ、泣いちゃうじゃん」

 てもう泣いてるけど。

「…うん。病気もしないし、怪我もしないよ。皆が願うなら…私、長生きもするからっ、だから…また会えるときには、私の未来の旦那、みせてあげるね…」

 泣いてるんだと分かると、止めようとしても止まらない。心配掛けまいと泣きながらも笑顔を作る。

「琴羽…」

 目から流れる涙を止めようと拭っていると、ピスキスさんに抱き締められた。

 何故だか、ピスキスさんの体が暖かく感じて、涙を拭っていた手が止まる。


 ピスキスさんの体から離れた私は、一呼吸した後に皆に向かって感謝の言葉を言う。

「今日は私の為にありがとう!ひな人形も綺麗だし、ちらし寿司やひなあられも美味しかった。本当にありがとう!」

 再び涙が出そうになったが、無理矢理笑顔を作って涙を引っ込める。

 私の言葉に黄道12宮の皆も笑顔になった。


「さぁ歌いましょ!」

 ピスキスさんの掛け声で黄道12宮の皆は歌い始めた。その歌はひな祭りの定番曲となっている歌だ。

 私も歌い始めると、歌詞の通りに雪洞(ぼんぼり)に明かりが付いたり、蕾だった草木に桃の花が咲いたり、五人囃子の笛や太鼓の音がなったり。

 笑いながら皆一緒に歌った。


――今日は楽しいひな祭り。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ