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感謝の言葉を





 アクアとアリエスのコントを始終見ていると、全体が混ざったようだ。

「混ざったら、純ココアを入れまーす!」

 脳内では某猫型ロボットがアイテムを取り出す時に流れるBGMが再生される。


「じゅんココア?」

「うん、純ココア」

 アクアもアリエスも知らないらしい純ココア。

「…ココアじゃなくて?」

「うん、純ココアの方を使うんだよ」

 アクアもアリエスも首を傾げる。可愛いなぁと思いながら、ココアと純ココアの違うを説明する。


「えっとね、純ココアって言うのは、普通のココアパウダーよりも苦いの! 何で苦いかというと、純ココアには乳製品とかを使って加工してないからね」

 うんちくを語る私だが、実は皆が来る前にスマホで調べたのだ。

「へー!琴羽凄いね!そんな事知ってたの?」

 アリエスが驚きの声を上げる。私はこの反応を見たくて調べたのだ。

 尊敬の眼差しで私を見てくるアリエスとアクア。

「じゃあアクアはこの純ココアを30グラムと薄力粉を15グラム量ってね」

「はーい!」


 アクアが量っている間にふるいをボウルに被せる。キョトンとするアリエスにふるいについて説明をする。

「これにアクアが量ったやつを入れて軽く振ると、細かくなってボウルに入るんだよ」

 ふるいに掛けることで混ぜる時にだまにならないらしい。

「全部がボウルに移ったら混ぜてね」

「分かった!」

 


 部屋から微かにカンケル達の声がした。静かに覗いてみると、テーブルに何かを広げていた。

 ガトーショコラを作っている子供男子組とは違い、生チョコを冷蔵庫で冷やしている途中の子供女子組は別の事に精を出していた。

「カンケルー?」

 何やってるのー?と聞こうとしたら手元を隠されてしまった。

「な、何?ガトーショコラ出来たの?」

「ううん、まだだけど、カンケル達が何かやってそうだったから見に来ただけだよ」

 「そっか~」と気の抜けたカンケルを見て、カンケルの手を退かした。

「ダメー!」

 カンケルと向かい合わせに座っていたリコルが腕を伸ばして隠してしまった。

 何をそんなに隠したがるのか。



 頑なに見せてくれない為、諦めて台所に向かう。

「どーお?出来た?」

「ふるいは出来たよー」

 私の問いにアクアが答える。アクアが持っているふるいには薄力粉の後が少し残っている。

 アリエスが混ぜるのをアクアとゲミニが横から覗き込んでいる。その隣では私が使い終わった物を洗う。

「十分に混ざったら、アクアが作ってくれたメレンゲを半分くらい入れてまた混ぜてね」

「「はーい!」」

 混ぜてるアリエスに変わってアクアとゲミニが元気良く返事する。


「さっき部屋でさ、カンケル達が何かやってたんだけど、アクア達知ってる?」

 私の問いに明らかに驚いたのはゲミニだった。肩がビクッと震えたのを見逃さない。

「何やってたんだろ~」

 気になるなぁ~と独り言のように言うと、アクアが口を開いた。

「あ、あれかな?もしかしてメッセージとかを書いてたのかも!僕達が書こうって話してたの聞いて、カンケル達も同じ事しようとしてたのかも!」

 ほんとかなぁ。

「そうなの?」

「僕カンケルに聞かれたもん!どんなメッセージ書くのって!」

 アクアに続いてゲミニも慌てて言う。

「何で私に見せてくれなかったんだろう?」

 仮にアクアとゲミニが言ってる事が事実だとして、私に見せてくれないのは可笑しいよなぁ。


「多分、琴羽ちゃんに見せたら琴羽ちゃんも考えちゃうからじゃないかな?」

 ずっと真剣に混ぜていたアリエスが話す。

「だって琴羽ちゃん、僕達がレオ達にメッセージ書くって知ったら一緒に考えてくれるでしょ?」

 アリエスが手を止めて私を見てくる。

「でも、僕達は僕達の言葉で伝えたいんだー」

 アリエスはごめんねと苦笑いをする。

「…そうだね、感謝の気持ちってそういうことだもんね」

 アリエスが再び混ぜようとしたら、ゲミニがいつの間にか泡立て器を手にして混ぜていた。



 アクアが混ぜているボウルからはココアの匂いがしてくる。

「メレンゲ入れるー?」

 ゲミニがメレンゲの入ったボウルを掲げる。

「ゲミニ、メレンゲが零れちゃうよ!」

 ふざけているゲミニに注意をするアリエス。

「メレンゲこーい!」

 ゲミニのふざけのノリに乗っかってふざけ出すアクア。

「こーらっ!おふざけ禁止でーす!」

 アクアとゲミニに軽く注意をする私。


 メレンゲを入れて混ぜていると、レンジから音がなる。

「ラストスパートだよーアクア頑張れー」

「琴羽ちゃん、何か音なったけど大丈夫?」

 混ぜてるアクアに声援を送る。横ではレンジからの音に心配をしているアリエス。

「大丈夫だよー。余熱を終わりましたーって合図だから、後は型に生地を入れて焼くだけだよー」

「混ざった!」

 アクアが笑顔を向けてくる。アクアの笑顔とボウルの中身の交互に見て、残りのメレンゲを入れる。

 泡立て器で混ぜようとするアクアを止めて、手持ちを泡立て器からゴムベラに変える。

「ふんわ~り混ぜてね」

「ふんわ~り?」

「そう、ふんわ~り」



「ふんわ~り混ぜる…」

「ふんわ~り」

「「ふんわ~り」」

 アクアとゲミニが仲良く混ぜる。ふんわ~り混ぜる2人の様子を私とアリエスで眺める。


「いよいよ型に流しまーす」

「イエーイ!」

 クッキングシートを敷いた型に生地を流し込んでいく。流し込んでいるのはアリエス。

「アクア、ちょっと静かにしてて…」

 慎重に流し込んでいるアリエスにアクアは口を閉じた。

「……」

「そんなに慎重にならなくても大丈夫だよ?」

 苦笑いしながらアリエスに言うが、聞こえてないのか反応しない。

 何とか流し終えた時には冷や汗を掻いていた。


 生地を平らにして空気を抜くと、レンジに入れる。

「やっと焼く行程に来たね!」

「琴羽!ボタン僕が押したい!」

 アクアとゲミニは興奮状態。

「なんとか焼く行程まで出来た…」

 逆にアリエスだけは疲れきっていた。

 ゲミニの手によってレンジが35分からカウントダウンを始める。




 生チョコの冷やす時間とガトーショコラの焼く時間が被った為、おやつ休憩を取る。

「早く焼けないかな~?」

「上手く焼ければいいなぁ」

「2人ともー、さっき焼き始めたばかりだよ?」

 アリエスが呆れたように笑う。

「琴羽ー、生チョコまだダメー?」

「うーん…うん、まだもうちょっと待とうか」

 はーい!と潔く返事をするカンケル。

「アクア達もメッセージ書いちゃいなよー」

「あ、忘れてたー!」

 リコルがメッセージカードをアクアに渡す。前もって誰が誰にメッセージを書くか決めてたらしく、最初の名前だけはスラスラ書く。

「…どうしよう、書くこと多過ぎて収まんないかも」

 書き始めると最初に詰まったのはアクアだった。


「あの事も書きたいし…この間の事も書きたいし…」

 頭を抱えるアクア。今までアクアが起こした問題を聞いてきた私も、確かに多そうだと思ってしまった。悟られないように笑って誤魔化した。

「アクア、良くレオの事怒らせてたもんねー」

「…」

 カンケルにまで言われたアクアは笑って誤魔化した。

「書くこと多過ぎる事が悪い事ではないよ」

 私はアクアの笑い声に釣られながらもアクアの頭を撫でる。

「“ごめんなさい”はダメだけど、“ありがとう”は何個でも書いていいんだよ」

 アクアはキョトンとしたが、やっぱり眩しく笑う。

「うん!」


 私の出したおやつがなくなる頃、生チョコを冷やし始めてから1時間が経った。

「そろそろ生チョコ大丈夫かな」

「生チョコ!出来た!?」

 私が立つと、カンケルが勢い良く飛び付いてくる。

「出来たかなー?」

「出来たかなー!出来たかなー?!」

 待ってましたと言わんばかりに台所に駆けていく。


 冷蔵庫から生チョコを取り出すとカンケルが変な叫び声を上げる。

「ふぉぉぁぁ!これをどーするの?!」

「これをー、切ります!」

 固まっているチョコをステンレスバットから外す。

「琴羽ー、出来たー?」

「出来てるよー!今から切りまーす!」

 後からリコルとスコルさんが駆け寄ってきた。

 簡単に切れるように温めておいた包丁を手にして、まずは手本を見せる。1センチ程に切り分けると、正方形の形になる。

「はい、こんな感じに切ってね」

 3人は仲良く返事をする。


 私はココアパウダーを用意してカンケル達が切り終えるのを待つ。

「書けたー!」

「やっと書けたの?アクア」

「アリエス!僕も書けたよ!」

 部屋ではアクア達が雑談をしている。アリエスはゲミニのメッセージカードを読んで笑っている。 ゲミニはどんな事を書いたのだろうと微笑ましく思いながら3人を見つめる。


「琴羽ー!切れたー!」

 カンケルが腰に抱き付いてきた事によってバランスを崩す。

「よし!じゃあココアパウダーを振り掛けよう!」

「おー!」

 ココアパウダーとカンケルの手を両手に握りながら台所まで駆けていく。


 茶こしを手にしてまず見本を見せる。

「こーやって、振りかけたら完成です!」

「カンケルやるー!」

 一番に名乗り出たカンケルに茶こしを手渡す。

「カンケル、慎重にね?」

「分かってるー!」

「カンケルー、次私もやりたーい」

「待ってねー」

 心配そうに見つめるスコルさんに対して、カンケルは楽しそうにココアパウダーを振りかけている。 振りかけるのが楽しいのか、リコルがやりたそうにしていてもお構いなしに全部にココアパウダーを振りかけようとしている。


「出来た!」

 振りかけ終えたカンケルは私にドヤ顔をしてくる。

「出来たね!」

 ドヤ顔カンケルの後ろではやりたそうにしているリコルがいる。

 可哀想に思った私は残り少しのココアパウダーが入った茶こしをリコルに手渡す。

「リコルもやりたいんでしょ?」

「あ、ありがとう!」

 嬉しそうにココアパウダーを振りかけるリコル。


「これで、完成?」

 スコルさんの問いに満面の笑みで答えると、スコルさんも笑い返した。その顔は嬉しそうで、頬を赤くして笑っていた。

 キュンときたのは何でだろう。


「生チョコうまそー!」

「うまそーだねー!」

 カンケル達がラッピングした物を見て涎を垂らしているアクアとゲミニ。

「なんと、残りの生チョコがありまーす!」

 食べる?と聞くと即決して手を伸ばしてくる2人。


「うま~っ!」

「うま~っ!」

 アクアの真似をするゲミニを見てると、幼い兄弟のように見えてくる。兄であるアクアを真似する弟のゲミニ。

 黄道12宮が家族だったら、誰がお母さんで誰がお父さんだろう。大家族だなぁ。

「あま~い!」

「わぁぁ、とろける~!」

「ん~っ!とろけちゃった!」

 見ているだけだったアリエスとカンケルとリコルも手を伸ばして生チョコを口に入れる。

 スコルさんはソワソワしながらも皆の食べる様子を見ている。黄道12宮の中でも1、2を争う程の甘い物好きだが、今日はなかなか手を伸ばさない。

「スコルさん?残り物だから食べていいんですよ?」

 食べないのかなぁ?と思ってスコルさんに提案すると、すぐさま生チョコに手を伸ばす。


 スコルさんは溶けたチョコが手に付いても食べようとせず、まじまじと生チョコを見る。

「スコルさん?早く食べないと…」

「全部じゃないけど、自分で作った物を自分で食べる事がなくって…」

 そう言ったスコルさんはずっと手にしていた生チョコを口に入れる。指についてしまったチョコを舐めながら笑う。

「自分で作ったのって、凄く美味しいね」


 

 残りの生チョコを食べていると、台所から音がなった。

「ガトーショコラ!出来た?!」

「出来たかなー?」

 駆け足で台所に向かう私の後をピョンピョン跳ねながら着いてくるゲミニ。

「しょっこらー!しょっこらー!ガトーショコラー」

 ゲミニの後を駆け足で着いてくるのは声的にアクアだろう。

 凄いルンルン気分のアクアの後がアリエスだろう。ゲミニとアクアを宥める声が聞こえてくる。


「ちょっと焼き具合見るねー?」

 用意しておいた竹串で刺してみると、生地が疎らに少し付いた。

「うん、大丈夫かな」

「完成?!」

 ゲミニのキラキラした目が私を襲う。

「えっと、少し冷まして、粉砂糖を振りかけたら完成だよ」

 はーい!と3人の返事を聞いてガトーショコラを取り出す。見た目的には満点だと思う。


「早く冷めないかな~」

「まだだねー」

「う~ん、なぁなぁゲミニ!アリエス!どう切り分ける?」

 ソワソワと冷めるのを待っているゲミニとアリエスの横で、アクアが紙に何かを描いている。

「何描いてんのー?」

「何これ?」

「…丸?」 

 カンケル達も覗き込んできて各々感想を述べる。


「ガトーショコラをどう切り分けるか!会議しよーぜ!」

「まず半分に切るでしょー?それからー…」

 どうしようか?と聞いてくるアリエス。

「アクア達が渡すのは3人でしょ?だったら1人2つずつに切り分ける事出来ると思うよ」

「ホントー?!」

 ずっと悩んでいたアクアがキラキラした目で私を見てくる。



 その後、冷めたガトーショコラに粉砂糖を振りかけて完成させた。 アクアとゲミニが同時に名乗り出た為、じゃんけんで順番を決めて楽しく振りかける事が出来た。

 アクア達の要望で6等分に切り分けて、各々ラッピングを施して帰っていった。

 ガトーショコラは残りが出なかった為、味見が出来ずドキドキしながら帰っていった。


「ふぅ…疲れた…」

 全ての片付けを終えて、ベッドに仰向けになった私は今日の出来事を事細かく思い出す。

 天井に浮かび上がったそれは、大変な事や可愛いと思った事があったが、やっぱり皆と笑った事が沢山あった。

 溶けたチョコを舐めようとして注意されたり、完成間近に興奮して宥められたり。

 今日一番の収穫は、スコルさんの頬を赤く染めた笑顔だと思う。スコルさん、あんな顔もするんだなぁ。



 今頃渡してるかなぁ…





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