表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/61

甘い匂いと





「さて、どうしよう」

 私は今、台所にて買ってきた材料を見下ろして考えていた。

 夕御飯をおかずに困ってるのかって?違う。

 じゃあ何をやってるのか。こうしているのには、昨日まで遡る。




――来週のバレンタイン、琴羽は何作ってくる?


 昨日の帰り、同期の子に尋ねられてバレンタインという行事を思い出した。

「あー、適当に作るよ」

 何も考えてなかった私は適当にあしらって帰路に着いた。

 バレンタインを頭の片隅に置いといたまま帰った私だったが、この行事を知っていたらしい黄道12宮の皆。


「琴羽ー!おかえりー!」

「琴羽ー!チョコー!」

「私達にお菓子の作り方教えて!」

「僕達、レオ達に感謝の気持ち伝えたいの!」

「琴羽と一緒にお菓子作りたい…」

「琴羽!おねがーい!」

 帰って直ぐに子供体型組から攻められた私は何がなんだか分からなかった。

 唯一「おかえり」と返してくれたカンケルの頭を撫でといた。


 カンケルはピスキスさんに、ゲミニはタリウスさんに、リコルさんはバルゴに、アリエスはリブラさんに、スコルさんはウルさんに、アクアはレオさんに上げる予定らしい。


「じゃあ明日一緒に作りましょう」

 思い立った私はすぐさま皆に伝えたい。皆も私の意見に賛同してくれて、私も皆とのお菓子作りを楽しみに今日を迎えた。



 そして冒頭に戻る。

――さて、本当にどうしよう。 

 いざ材料を買ってみれば何を作れば良いのか分からなくなる。

 午後1時を目安に皆が来て一緒に作り始める予定だ。1時まであと20分程ある。


「琴羽ー!来たよー!」

 聞こえてきたカンケルの声に、台所にいた私は急いで部屋に向かう。

「人数分のボール持ってきたー!」

「カンケル、ボウルって言うんだよ」

 スコルさんが苦笑いしながらカンケルの頭を撫でる。その横では、何故か頭にボウルを被せてるゲミニとアクアがいた。

「アクア!ボウルは頭に被せるものじゃないってピスキスが言ってたでしょ!」

「あっ忘れてた!」

 リコルさんから注意を受けたアクアが頭のボウルを取ると、真似するようにゲミニもボウルを手にする。


「ピスキスやレオ達には、夜まで来ないように言ってきたから…だから、その…一緒にお菓子作ろ?」

 恥ずかしそうに言うスコルさんが可愛い。


「ピスキスさん達を驚かせましょう!」

 私の後に続いて皆が拳を突き上げる。




「まず作るものを決めましょう!」

 バレンタインの定番を調べた私は、表示されてる画面を皆に見せる。

「…ガトーショコラ?」

「…生チョコ…」

 皆してスマホ画面を覗き込むから、ニヤニヤしてしまう顔を手で隠す。

「僕知ってる!ガトーショコラってやつピスキスがおやつに作ってた!」

「生チョコ知ってる…昨日のテレビで作ってるのを見た…」

 アリエスとスコルさんが挙手する。

「じゃあガトーショコラをアリエスとゲミニとアクアで、生チョコをスコルさんとカンケルとリコルで作ろっか」

 私の提案に手をあげて賛成を示す皆。



「まず準備するものですね!」

 皆が口を挟む前にテンポ良く材料をあげていく。

「えっと後は…はいっ、これがガトーショコラの材料です!」

 ガトーショコラの材料は、ミルクチョコ、バター、生クリーム、卵、砂糖、ココア、薄力粉、粉砂糖。

 案外材料がすくないことに驚いている私がいる。

「次に生チョコ!」

 あれだこれだとどんどん材料をあげていく。

 生チョコの材料は、板チョコ、生クリーム、無塩バター、ココアパウダー。

 たった3つの材料で生チョコが出来ることを今日知った。



「まずガトーショコラから、チョコとバターと生クリームをボウルに入れて湯煎です!」

 私はボウルとチョコを用意する。

「ゆせん?」

「うん、チョコを入れたボウルとお湯を張った一回り大きいボウルを用意して、間接的にチョコを溶かすんだよ」

 ゲミニの問いに答えながらバター60グラムと生クリーム30ミリリットルを用意する。用意し終えてからチョコをゲミニに渡すとキョトンとする。

「それを割るの、パッキンって割れるよ」

 ひ弱のゲミニでも簡単だろう。

「っ、割れた!」

 楽しそうにチョコを割っていくゲミニ。丁度沸いたお湯をアクアのボウルに入れる。

 皆が持ってきたボウルの大きさがバラバラで良かった。お湯を張ったボウルにチョコの入ったボウルを重ねると、少しずつだが甘い匂いと共にチョコが溶け始める。


「生チョコの最初は、チョコを包丁で刻んでボウルに入れる、みたいです」

 スコルさんが自発的に前に出てきて包丁を手にする。少し包丁を持つ手が震えていたが、深呼吸をした後に力強く握り治す。

「だ、大丈夫ですか?スコルさん」

「…ん、だ、大丈夫」

 本当に大丈夫だろうか。

「スコルっ、私がやるよ?」

「…んーん、私がやるから、リコルは次の行程お願い」

 少し怖がっていたスコルさんだったが、意を決してまな板に向かう。

 料理始めた頃の自分自身を見ているようだった。


 ガトーショコラを作る為に、オーブンを160度に余熱しておいてから、ガトーショコラの次の行程を伝える。

「綺麗なボウルに卵白と砂糖を入れて、しっかりツノが立つまで泡たてます」

 ガトーショコラ組の混ぜる係はアクアのようで、泡たて器を手にしてエアーで混ぜる真似をする。

「泡たてるーっ!」

 秤を手にした私は、アクアに注意した後で砂糖と共に手渡す。

「何?これ」

「砂糖と秤だよ、ちゃんとグラム量らないと美味しくできないからね」

「えー?!」

「卵は私がやるからアクアは砂糖30グラム量ってね」

 少し離れた所からアリエスの声援が聞こえた。



「んーっ、いい匂いー」

「ねー、少しなめていーかな?」

「「ダーメ」」

「「ええー?」」

 溶けたチョコを舐めようとするカンケルとゲミニは、アリエスとリコルに注意されて首をすぼめた。

 ほのぼのとした空気に思わず私も頬を緩めてしまう。


 そうこうしていると、チョコが完全に溶けたみたいだ。

「とろとろー!」

「あまーいにおいがするー」

 ゲミニとカンケルがボウルを覗き込みながら頬を緩める。2人が舐めないようにアリエスを監視に付ける。


「琴羽ー、全然ツノ立たないよー?」

 次の行程を伝えようとすると、アクアがボウルを持ったまま私に問い掛けてきた。

「うーん、本当はハンドミキサーがあった方が簡単にメレンゲ作れるんだけど…」

「ハンド…?メレンゲ?」

 何を言ってるの?と言いたげな顔のアクア。

「アクアが今混ぜてるのはメレンゲって言って、今回のガトーショコラの要みたいなものなんだよね」

「ガトーショコラのかなめ…めっちゃ頑張る!」

 泣きそうになっていた顔がなくなり、腕を擦っていたアクアは元気が戻ったように再び混ぜ始めた。

 それだけ感謝を伝えたいと思っているのだろう。可愛いなぁ。



「琴羽ー、チョコ刻み終わったよー」

 アクアに声援を送っていると、カンケルが私を呼んだ。

「スコル頑張ったんだよ!スコルは凄いんだから!」

 何故かカンケルが威張ってるのはなんでたろう。

「ほらみて!琴羽!」

「ぅ、うん凄いねカンケル」

「へへーん」

「スコルさんも凄いね、お疲れ様」

「うん…疲れた…」

 疲弊仕切った訳ではないようで、穏やかな表情でカンケルの頭を撫でるスコルさん。


「えっと、刻んだチョコをボウルに入れといて、生クリームだね」

 生クリームを80ミリリットル量るとそれを小さめの鍋に入れて弱火で温める。

「このまま少し待てば沸騰するんだけど、沸騰寸前に火を止めて、刻んだチョコを入れて少し溶けるのを待ちます!」

 カンケルとスコルさんに見ているように伝えると、ガトーショコラ組に行程を伝えに行く。


「琴羽!見て!ツノ!立ってない?!」

 アクアが見せてきたボウルにはツノが立っていた。

「うん、立ってるね、凄いよ!」

 アクアの頭を撫でると、アクアは嬉しそうに笑って出来上がったばかりのメレンゲを混ぜる。


「えっと、次にメレンゲが出来たらさっきの卵の卵黄と砂糖を入れて、白っぽくなるまで混ぜるよ!」

 私は部屋にいるであろうアクアを呼んで砂糖30グラムを量らせる。

「今アクアが量ってる砂糖を入れて混ぜてね」

「分かった!」

 アリエスが泡たて器を手にして奮起する。

「はい!砂糖!30グラム!おまち!」

 アクアが砂糖の入った皿をアリエスに渡す。メレンゲ作りの時の砂糖量りでやり方を知ったアクアには簡単だったのだろうか。

「これで白っぽく…」

「琴羽ーっ!助けてーっ」

 リコルが私に助けを求めてきた。


「まず火を――」

「止めた!」

「えっとーっ」

 あたふたしながらも次の行程を確認する。

「あっバター!バターを入れて混ぜる!」

「これっ?」

「そう!」

「……」

「…大丈夫?」

 ヘラで混ぜているリコルは私の問いに頷いて答える。それほどに余裕がないのか、私の事を嫌いになったのか。 後者だったら私泣くかも。


「琴羽っ!チョコ完全に溶けたよ!」

 嫌われてたらどうしようと悩んでいると、リコルが満面の笑みで私を見てきた。

 良かった。嫌われてなかった。

「琴羽?次は何をすれば…」


 気を取り直してスマホで行程を確認する。

「えっと、チョコが溶けたら、オーブンシートを敷いたステンレスバットに流して平らにしてね!そしたら冷蔵庫で1時間冷やすんだって」

 この間偶々100均で買ったステンレスバットを手にする。あまり使う機会ないだろうなと考えていた私は、あっさりと使い方が見つかって驚いている。

「はい!ゆっくり流してね」

 鍋を手にしているカンケルが慎重に傾け始める。

「終わったら休憩していいよ」

「はーい」

 慎重にチョコを流しているカンケルの横で、リコルが挙手しながら返事をした。


「アリエスー、出来たー?」

「白っぽくなったかなー?」

 アリエスが抱えていたボウルを覗くと、スマホの画像と同じく薄黄色のような、白っぽい色へと変わっていた。

「うん、白っぽくなってるよ!」

 アリエスが良かったーと安堵しているのを横目にスマホで行程を確認する。

「この白っぽくなったやつに、最初に湯煎で溶かしたのを入れて混ぜます!」

「チョコを、いれまーす!」

 湯煎で溶かしたチョコをアクアが豪快に入れる。

「アクア、チョコは意外と繊細だから気を付けてね」

「え!そうだったの?」

「もーアクア!チョコさんに謝って!」

「ごめんねーチョコさーん!」

 アリエスとアクアによるコントを見ているようだ。


 冗談のようにも見えたが、意外と私の言葉を真に受ける2人のコントは見ていて面白いだけじゃない。微笑ましい限り。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ